九十九物語 【落合いろはという存在】#8

#創作大賞2023

  •  落合彩葉

  • 葉っぱの色が変わるように喜怒哀楽が多くいつも明るい性格で、私に話しかけてくれた彼女だった。両親すでに他界し、天涯孤独であった彼女とは保育園の頃からの仲良しだった。

  • 同じ小学校。

  • 同じ中学校

  • 同じクラス。

  • 同じ班分け。

  • 席でさえ隣だった。

  • いわば腐れ縁を通り越した竹馬の友だった。他の友達からは姉妹なんじゃないかとからかわれてしまうくらいに仲がよかった。一緒に手をつないで帰ったり、自宅に招いて泊ったりしたこともある。

  • 四月の中旬だった。

  • その日は、気温も最高気温を更新するような暑い時期だった。複数人の保護者と子供たちで川遊びを楽しんでいた。しばらく遊んだあと、私は、塾に行かなければならなかったため、帰らなければならなかった。

  •  私は、彩葉も一緒に帰るか、訪ねたのだが彼女はまだ、遊びたりないらしかったらしく、しばらくいると言っていた。

  • そこで、彼女と手を振り合って「またあとで」と言い別れたのが最期だった。塾が終わったあと知らされたのが彼女は川に流されていたこと。

  •  私は、あの日、彩葉が事故にあった日に私は、泣きながら、神社にいき、死んだ彩葉を生き返らして欲しいと懇願したことがあった。

  • 到底無理な話だ。

  • 自分でもわかっていた。

  • 何回、祈ったところで彼女は、蘇ることなんてなかった。けれども、最期の願い事だけは叶った。

  • そう、落合彩葉と過ごした思い出を忘れることに関しては―――

  •  私は、彩葉がいないのが耐えられることができないと思いその願いを口にしてしまったのだ。

  •  願いを言った瞬間、神社の本殿から巫女が出てきたのだ。 

  •  顔はなぜか見えなかった。その人は、私に向って鈴を左右に振ると、彩葉と過ごした記憶はなくなった。彩葉と言う存在も最初から無くしてしまった。

  •  私の悲しかった気持ちや、なぜここにいるのかと思った。それが、あの神社にいた理由だったのだ。

  • 「うん…神楽のいうとおり、私はショックのあまりにあの神社でそう願ってしまったことがある」

  • 「それが、記憶がおぼろげだった理由なんだね」

  • 「でも、イワナガヒメって、恋愛と長寿の神さまなのにどうして、私の記憶を消すことができたの?」

  • 「消したんじゃない。見えなくしたんだ」

  • 「?」

  • 「キミは、言っていただろう。思い出そうとすると、記憶がモザイクがかかったみたいにおぼろげになるって」

  • 「うん…」

  • 「イワナガヒメは岩の神さま。昔は、よく銀や金が獲れたからね。それに醜いということになった由来もそこにある。鉱物ってどこにあると思う?」

  • 「岩の中?」

  • 「表面からでは見えにくい―――。見にくい―――。醜い―――。」

  • 「見にくい―――。あ…」

  • 「そう。落合彩葉さんと過ごした記憶を見にくいようにした。だから、キミは記憶を思い出せなくなってしまったのさ」

  • 「でも、なんで彩葉は葛籠になったの?」

  • 「その葛籠は彩葉さんの化身。キミが彩葉さんと過ごした記憶を封印したさいに葛籠になってしまった。鏡の世界でキミが登っていた急カーブの多い坂の名前は? 」

  • 「いろは坂…」

  • 「そのとおり。いろは坂は別の言い方でつづら折りとも言う。漢字に変換すると九十九折、葛篭折となる。どちらとも共通するのが葛籠ということなのだろうね」

  • 「そうか…、だから葛籠になったのか…。じゃ、神楽が言っていた纏わりついていた植物はなんだったの? 」

  • 「それはおそらく、オオツヅラフジの植物だったんだ。オオツヅラフジはその葛籠の原料だ。それが葛籠を覆っていたんだ。あれは、彩葉さん自身の気持ちの表れなんかじゃないかな」

  • 「植物が葛籠を覆うことが? どうして、そう言い切れるの? 」

  • 「オオツヅラフジをスマホで漢字に変換してごらん」

  •  私は、神楽の言うとおり、すぐにスマホで変換した。

  • 「大葛籠藤」

  • 「『大葛籠藤』『大葛 籠 藤』をこうゆうふうに分離すると―――」

  • 『大葛藤 籠』

  • 「あ…」

  •  私は震えながら、口元に手を当てた

  • 「だいかっとう…、かご…」

  • 「大葛藤している中に籠がある。だから、植物に覆われた中に葛籠があることを意味しているからなんだ」

  • 「そして、キミがあの悪夢を見続けた原因がそれだろう。会った際に、葛籠から植物がでて、キミに侵食していると言ったと思うけれど、大葛藤している彩葉さんの気持ちをキミは見たのだろうね」

  • 「だから…、彩葉は、忘れていた私を恨んで、夢の中や鏡の中で化け物になって私を襲ってきたのか…」



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