九十九物語 【友鏡】#10

#創作大賞2023

 ゴールデンウィークが終わり、私は、学校に向った。教室にはいつもどうり、友達が私が教室に入ると出迎えてくれた。「急に帰るなんて―――」というお小言を言われたくらいでとくには何もなかった。
あれ以来、悪夢をみることも体重がふえることも無くなってしまったのだ。
「そうだ…神楽に再度お礼を言わなければ―――」
 白峯神楽が座っている机に向かった
「神楽! 」
「んー? 」
 彼は、机に伏せていたが、名前を呼ばれた際、私のほうチラ見した
「やぁ、有栖川さん、なんか用かい? 」
「うん、なんか、すごく晴れやかな気分だよ。それに、それに体重も元に戻ったんだ」
「それは良かった。きっとダイエットに成功したんだろうね。おめでとう」「違うよ。神楽のおかげじゃない?」
「そういえば…有栖川さんに渡したい物があったんだ」
「私に? 」
 彼は、かばんの中から、二つの黒く薄くて四角いものをポケットからとりだして私に渡してきた。
「なにこれ? 」
「開けて見てごらん」
 私は神楽に言われたとおり、あけると、それは、手製の手鏡だった。
「すごい…、これ作ったの? 」
「ファンデーション使うときにでもどうぞ。割ってしまった合わせ鏡を加工して作ってみたんだ。おかげで、寝不足で仕方が無いよ」
「ってか、なんで二つも? 」
「いや、鏡が余っちゃったから、仕方なく作ったんだ」
 神楽は笑いながらあくびを繰り返していた。 
「もう、忘れないようにね。合わせ鏡って、別の名前があるんだ。」
「別の名前って?」
「合わせ鏡って『友鏡』ともいうんだ」
「友鏡…」
 私は手渡された手鏡を見つめていた。不意に、後ろ側に鏡を傾けると友達が談笑している中、不自然に私の背後に立っている人物がいた。制服姿の彩葉が後ろにいた。彩葉は私を見ると、優しい微笑みをこぼして、手を振っていた。
「ハッ! 」
私は、後ろを見たのだが、そこには、彩葉は存在しなかった。
「よく写っているでしょ? 」
「うん…」
「もう、忘れることもないね」
「……」
 神楽はすべてを見透かしているかのように、そう言っていた。私は、嬉しい気持ちが溢れている証拠だろうか、自然と涙が零れていた。
「ねぇ、神楽」
「ん? 」
「手鏡あまっているから神楽にもあげるよ」
「え?それ、貰っても使うこと―――」
「友鏡、でしょ?」
「……」
 神楽は意表を突かれたような顔をしていたが何も言わず、笑いながら「これは、一本とられたな」とだけ呟いて、わたしの友鏡を受け取った。
「おい! 白峯が有栖川を泣かせているぞ! 」
「うわ、サイテー」
「え? 違うぞ! 確かに泣かせたの僕———かもしれないが断じて違うぞ! 」
「サイテー」
そうしてクラス中で白峯神楽を批判する声があがるのだった。                                 完


 

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