はたらく細胞。人間の体内に潜む生体防衛軍—免疫細胞たちの奮闘劇『フワッと、ふらっと、免疫の生理心理学』
人間の生体防衛軍ともいえる免疫細胞について概観していきます。
骨髄で作られる幹細胞から免疫細胞は作られます。
免疫細胞は一種類ではなく、軍隊でいうと歩兵・下士官・司令官のような役割の細胞がそれぞれ存在しています。
歩兵となるのは「好中球」で、これは細菌やウイルスを食べて殲滅させます。
ただ、細菌などの外敵を25個ほど食べるとお腹いっぱいになって、破裂してしまいます。
体当たり勝負の命知らずの歩兵です。
下士官に相当するのは「マクロファージ」で、これは、好中球のようにがむしゃらに敵に向かっていくのではなく、頭脳プレーをします。
外敵を破壊したあとの破片から情報を入手し、その情報を自分の体に貼り、司令官たる「ヘルパーT細胞」に伝えます。
次に、司令官たるヘルパーT細胞は受け取った情報に基づき、強烈な破壊力を持つ部隊である「キラーT細胞」に敵に対する攻撃命令を出します。
攻撃命令を受け取ったキラーT細胞軍団は、ウイルス感染した細胞ごと容赦なく破壊してしまいます。
実は味方の細胞には「私はあなたの味方です。」というような名札のようなものがついていて、
敵味方の区別はつくのですが「ええい、面倒だ!味方ごとやっちゃえ!」という感じで、
キラーT細胞は敵味方区別なくやっつけてしまいます。
自国民が住んでいる民家ごと吹っ飛ばして敵を壊滅してしまうというような荒っぽい戦い方をします。
このように、ウイルスだけではなく、仲間の細胞ごと破壊してしまうのが、
たまに傷のキラーT細胞軍団ですが、がん細胞と対峙するような場合は、こちらの戦い方のほうが理に適っています。
ちなみにキラー細胞の仲間であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、平時に体内を巡回して、ガン化した細胞を見つけたら、破壊するという秘密公安警察のような役割を果たす細胞です。
なお、よく笑うとNK細胞は増えるといわれています。
「B細胞」はキラー細胞のように敵味方区別なくやっつけるのではなく、敵を敵と認識し、その敵用の武器を用意して、攻撃するという、高等戦術を使います。
B細胞は、司令官たるヘルパーT細胞から攻撃命令を受けると、がむしゃらに敵に突進!というような無謀なことはせずに、
まず「どんな敵ですか?」と司令官に聞きます。
司令官(ヘルパーT細胞)は、前線で戦っていたマクロファージから得た情報をB細胞に伝えると、B細胞は敵に合わせた武器を用意して、それで戦い相手を殲滅させます。
B細胞はその後、記憶細胞に変身して、今回戦った相手のデータを残し、もし再度同じ敵が侵入してきたときにすばやく倒すための準備までします。
また、それだけではなく、未知の相手を倒すための用意まで行います。
相手を倒すための武器(抗体)を4つのパーツに分け、1パーツごとにあらかじめ10種類を設計しておきます。
10×4で、40種類の設計図(遺伝子)を用意することによって、いざというとき、それらを組み合わせることによって、10×10×10×10=10,000種類の武器が作れるといいます。
(このようなメカニズムを明らかにしたのがノーベル賞受賞者の利根川進氏です)
このようにしてはじめて遭遇したような敵にも相対することができるよう準備しておくというのもB細胞の仕事になります。
このように免疫機能は想像を絶するとても非常によくできたシステムです。
脳神経も同様、驚くべきシステムですが、
(脳神経システムについては以下)
DNAシステムも「これ本当か?」と思うぐらいに、怖いほどよくできたシステムです。
なにしろ、デジタルプログラミング言語を使って、プログラミング及びその実行をしていくわけですから。
DNAには生体維持活動をするための設計図というか情報が、
デジタルプログラミング言語(4つの塩基(アデニン・グアニン・シトシン・チミン)
の並び方で情報を表現する)
によって書き込まれているわけですが、
原本がなくなると困るので、かかる情報を原本があるDNAからコピーする(コピーを担当するのがm-RNA)ということまでします。
そして、m-RNAにコピーされたレシピをもとに、
細胞内のリボソームという加工工場で、生物の体を作るためのたんぱく質を合成します。
ここまでのシステムを一体誰がどうやってどのような意思のもとで作り上げたのでしょうか。
進化の過程で偶然にできたという説明ではどうも納得できないところがあります。
そしてこのようなシステムが、
本人が気づかないところで自動的に作動し、
生体システムに対して、いちいち本人が意識的に細かな指示したり、
何かの操作したり、運転したりしなくても、生体は維持され、
本人は仕事のこととか、生活のこととか、
趣味のこととかだけを考えて暮らすことができるということも、これまた不思議ではないでしょうか。
あたかも、ハンドルを握らなくても、勝手に目的地まで自動的に行ってくれて、
その間乗っている人は車の中で好きなことができるそんな全自動運転自動車のようです。
ただ、そんな生体システム、免疫システムにも不調が生じる場合があります。
例えばリウマチは、B細胞が作った抗体に対して、抗体を作ってしまうという自己免疫病です。
全身エリマトーデスという病気は、B細胞が他の健康な細胞を直接攻撃してしまう病です。
アレルギーも自己免疫過剰の症状です。
自己免疫病については、免疫細胞が誤って活動してしまっているわけですから、
薬物療法をする場合は、免疫細胞を弱める薬(免疫抑制剤)を使うことになるのですが、
これは文字通り諸刃の剣で、投与すると、当然ながら免疫力が下がるという副作用が生じてしまいます。
なので、免疫抑制剤を投与する場合は、
感染症にならないように、よほど注意しなければならないわけですが、
そういうこともあってあまり用いられないのが、免疫抑制剤です。
免疫力を弱らせる要因として、過大なストレスがあります。
(ストレスが免疫力を弱らせるメカニズムについては以下をご参照ください)
免疫力強化等のためには、ストレスを溜めないということも重要になってきます。
なお、ガン治療などにおいては、免疫力を高める薬物治療があります。
自己の免疫細胞を活性化させて、ガン細胞を叩くという治療です。
具体的には、まず患者の免疫細胞を取り出し、試験管の中に入れ、さらに免疫力を高める薬を加えて、免疫細胞を活性化させた上で体内に戻すという方法です。
その他、試験管の中に患者の免疫細胞とガン細胞とを入れ、試験管の中で戦わせ、攻撃的になった免疫細胞を体内に戻すという免疫療法もあり、実際に行われているようです。
抗ガン剤(ガン細胞のDNAを複製できなくしたり、栄養を取れないようにしたり、細胞分裂ができないようにしたりする薬)も強力な薬ではあるのですが、ガン細胞以外の細胞にも攻撃を加え、それが副作用となってしまいます。
免疫療法は、ガン細胞だけを叩くので、副作用が少ないという利点がありますが、ただ完全に確立した療法といえるかどうかについてはエビデンスも多いとはいいがたいところがあるのでなんともいえないところもあるようです。
参考文献)
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