恐竜代行。
恐竜代行を頼んだら、本当にティラノサウルスが来た。ティラノサウルスの中では小ぶりなんだろうけど、目の前にしたら象くらい大きい。うっかり食べられちゃうかと思ったら、流暢に言葉を話し始めた。
「お車はどちらですか?」
「……白のプリウス」
ティラノサウルスはにっこりと口角を上げて頬笑んだ。
「良いですね。僕達よりずっと燃費が良くて、小回りも利く」
ティラノサウルスは律儀に手袋をはめて、僕のプリウスをひょいと持ち上げた。
「さぁ、乗ってください」
ティラノサウルスは尻尾をパチンと道路に打ち付け、僕を背中に乗るよう促した。僕は恐竜の背中に乗るのが夢だったので、胸を躍らせながら乗った。
「さ、住所はどこでしたっけ」
「ねぇ、料金はその分払うから、適当に走らせてよ」
「承知しました。じゃあ、とりあえず明治神宮の方まで行きますね」
ティラノサウルスは鼻息を大きく吐くと、一気に駆け出した。それは何にも勝る楽しさだった。
「どうして、代行をはじめたの?」
僕はタンデムの後ろみたいに、大声で叫んだ。
「はじめは、みなさんの恐竜の代わりをしようと思ったんです。でも、誰も恐竜を飼っていなくてびっくりしました。そんな時、代行と勘違いをした電話が来たんです」
「そのお客はびっくりしただろうね」
「お客さんは?」
「僕はこれが夢だったんだ」
その夜、ずっと走って貰って料金は3万円だった。恐竜に乗って3万円なんて、世界は本当に良くなっている。