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彼干(ひがん)。

乾涸びてしまった。

「もう駄目なのかな?」

水に浸しても戻らなかったし、もう手段が思いつかなかった。

「こうなる前なら、まだやりようはあったんだけど」

彼女はそれを聞くと、やるせなさを表明するみたいに溜息をついた。でも、彼女自身もすでに理解していたと思う。溶けた脳みそを元の姿に成形しても、溶けたことで失われた記憶や考えが戻るわけではない。しかも、そういうハリボテな修復さえも、彼に施すことはもうできないのだ。 

「……」  
 
僕は彼女に原因を尋ねようとしたけれど、すぐにその言葉を飲み込んだ。やりようのない状態で追求しても、そこには救いがない。彼女の後悔を粒立てても、乾涸びてしまった彼が立ち戻る訳では無いのだ。

「少し……ほんの少しだけ、目を離していただけなんです」

人が乾涸びてしまう時間は、簡単に伸び縮みをする。彼女にとっての刹那は、彼にとって永遠だったのかもしれない。

「弔いをしましょう」

弔いは死者のためではなく、生者の快復のために行われる。僕と彼女は一ちぎりずつ彼を食べ、彼との思い出に浸った。


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