絶望のミナ。
ミナは今日も、その絶望とは裏腹な夢を見ている。
ミナとの不倫は、いつも喜びの仮装をしていた。
「……またね」
僕は扉の前でいつも言葉を失って、ありふれた捨て台詞を吐いてしまう。
「うん、またね」
後から振り返ると、ミナの笑顔はいつも薄幸だ。それなのに、どうしてその瞬間はいつも喜びに満ち溢れていると捉えてしまうのだろうか。
ミナは独りだと、絶望に振り回される傀儡になる。会っている時の表情と、会っていない時の傍若な振る舞いとを、僕は上手く結び付けることができない。でも、その一翼を僕は確かに担っている訳だし、彼女がうっかりと死んでしまわない限り、僕はそれ以上を求める資格がない。僕がミナと過ごす時間の100%を彼女に尽くしたと考えても、それは僕の思い上がりに過ぎないのだ。
ミナは瞼を擦りながら、甘美な夢を語る。
「素敵なデートをしたの」
僕は彼を責めることができない。ミナのフェティッシュな愛憎は、彼の魅力に他ならないから。
「よく晴れた日曜日の公園で……ピクニック。ずっと手を繋いでいた。その手は温かくて、私はずっとドキドキしていた……ねぇ、ほんとにそういう時があったんだよ。私だって、嘘をつきたい訳じゃないんだよ」
ミナはそう言って肉体にすがる。希求する彼の痩躯を、僕の脂肪は妨げるだけの高さをもたない。
いつか、ミナの思いが間違って僕に向かったら、どうすればいいだろう? 構わないという言葉が、刃渡りになるような気がしてならない。僕は溜息の萌芽を噛み殺す。