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2024年11月の記事一覧
老獪望郷流れ小唄 13(完)
月の綺麗な夜だ。田舎も江戸も夜空は変わらない。
この川沿いの道には大きな石がある。江戸に来た時はここで梅干し入りの握り飯を食ったなあ。美味かった、口がさっぱりとして旅の疲れが取れた気がした。
江戸には孫二人と孫の嫁、それに剣術指南の大男と娘が来ている。皆、家族だ。故郷では囲炉裏を囲んで飯を食った。美味かった。粗末な食事だったが、皆がいたから笑顔で食えた。だからこそ美味かったのだ。
江戸に着いて
老獪望郷流れ小唄 12
皆んなが揃ったら、、なんて言っている間に赤子の顔がこちらを向いていた。
「これは見つかったで御座んすな。」
「声、大きかったから、、」
「あ、、まあ仕方ねぇやなあ!どうにかして時間稼ぐ
しかあるめぇよ!」
赤子はジッとこちらを見ていたかと思うと、脱兎の如くこちらに走って来た。
「組み付かれるなよー!」
勇也の声に合わせて三人は別々の方へ駆け出す。
しかし、赤ん坊が走ってくるってぇのは
老獪望郷流れ小唄 11
あの夜、皆川良源は朱い石に聴診器を当てていた。
石を叩いたりして調べていたのだ。その時、不意に石の中に熱が起こり薄ぼんやりと光が生まれた。
「あれが、そうだったのかもしれない。」
良源は今夜は石を懐に忍ばせている。
ぼんやりとした光はうっすらと熱を放つ。
これなら分かるかもしれない。
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あれから三日が過ぎた。
勇也たちは代わる代わるに良源の診
老獪望郷流れ小唄 10
そんな中、柳生宗矩は言う。
「ちと引っ掛かるな、此度の物の怪。」
「旦那、何がですかい?子泣き爺は今まででも、手の
出し様の無さじゃあ最強ですぜ。」
「だがな、鉄斎。その子泣き爺は一体何がしたいんだ
ろうな。」
「へっ?」
「今までの物の怪は河童や天狗に火車、ろくろ首とて
目的はあった。それに実際に被害も出した。」
「確かに。」
「だが子泣き爺はこの辺りで泣いただけだ。それに如
老獪望郷流れ小唄 9
「そいつはぁ、あたしの出番じゃあないねぇい。だっ
て斬れないだろうさ。」
「確かに、それを言えば俺も同じだな。」
「いやいや二人して諦めねぇでくれよ。」
松方澪と柳生宗矩は口を合わせて言う。
昼間、鉄斎の書状を屋敷に届けた折、宗矩は留守だった。その後中身をあらためてから、澪を連れて信幸の屋台までやって来たものだ。
「諦めるも何もさぁ、、」
「斬るより他の手がいるが、どうだ鉄斎。」
中
老獪望郷流れ小唄 8
「ひゃああーこりゃあ見事に曲がったもんだ!」
勇也の得物、伸びる鉄の棒がカッチりと直角に曲がっている。正確には曲がってしまったのだが、、
「笑い事じゃねぇぜ、鉄っあん。これじゃあ河童の時
よりひでぇや。」
「確かになあ。岩でも殴りつけにゃあ、こうはなるめ
ぇやなあ。」
曲がった棒をしみじみと見ながら、中山鉄斎は言う。
「で、鉄っあん。今度のは何だい?」
皆川良源が尋ねた。
「あー
老獪望郷流れ小唄 7
「この野郎!離すで御座んす!」
虚を突かれた良源の耳に走り来る足音が聞こえた。
ひとつは脱兎の如く素早く足を動かし、もうひとつは規則正しい音をさせた。
そう思った時には、お咲の腕に取り付く男の姿があった。
「良源先生!?大丈夫ですか?」
規則正しく、そのくせに早い足音の主が良源の傍らに来る。
「お雪さんじゃないか。何だってこんな時分に?」
「痛い!」
お咲の悲鳴が上がる。
「てぇえい
老獪望郷流れ小唄 6
「頭、頭ぁー起きてますだろかぁ?」
帰るとすぐに勇也と美代の住まいの戸を叩く者がある。
「ん?この声わぁ、、」
「誰?勇也、分かる?」
「太助だな。」
戸を開けると確かに太助が立っていた。
「あ、あのぅ、夜分遅くにぃ申し訳ねぇこってぇ、、
あ、あのぅ、、」
「何だよ、太助。そんな事ぁ気にすんな。それよりど
うした?それこそ夜更けにお前が来るなんざあ、何
かあったな。」
「太助
老獪望郷流れ小唄 5
何度も頭を下げて離れていく老夫婦を見送ると
「いやぁ面目ねぇ、先生。全く気付けなかった。開け
っぱなしの家だから、気は張ってんだが。」
鉄斎が詫びてくる。が、気付かなかったのは良源も同じ事だ。
「いや、そういう家だから却って良いのさ。俺や鉄っ
あんなら気配は見逃さねぇしな。」
「まあ、いつもならねぇ。正直、全く分からなかった
んでさあ。」
鉄斎は頭の良い男だ。詫びてはいるが、それよ
老獪望郷流れ小唄 4
「ありゃあ、先生様でねぇかの、婆さんや。」
「あれま、先生様だねぇい、爺さんや。」
足から木屑を取り出したお婆さんはお爺さんと二人、良源先生の療養所に通ってもう二月にもなる。
この老夫婦、、いや待て。
そろそろ名を名乗りましょうや。
お爺さんの名は定、お婆さんの名はこうという。
こう婆さんの足は薬の効きも良く、最近では定爺さんと連れ立って江戸見物がてらに歩いている。
素朴な山育ち故に、折角治