老獪望郷流れ小唄 12

皆んなが揃ったら、、なんて言っている間に赤子の顔がこちらを向いていた。

「これは見つかったで御座んすな。」

「声、大きかったから、、」

「あ、、まあ仕方ねぇやなあ!どうにかして時間稼ぐ
 しかあるめぇよ!」

赤子はジッとこちらを見ていたかと思うと、脱兎の如くこちらに走って来た。

「組み付かれるなよー!」

勇也の声に合わせて三人は別々の方へ駆け出す。
しかし、赤ん坊が走ってくるってぇのは、、実際怖いな!今までで一番物の怪らしいかも知れねえ!

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「無事かあ!」

転がったり跳ねたりして別々に動き回る三人。そこに柳生宗矩と松方澪が到着する。

「旦那ぁ、何ですかね、これわぁ。」

赤子は祭囃子に弾けて踊る様な三人を遠巻きに見て、じっとしていた。呆れているのかもしれない、、、

「あんたたち、いっぺん止まりな!」

澪が呆れた風に怒鳴りつける。

「へ?」

三人共にポカんとした顔で止まり赤子を見ると、立ち尽くしたままに小さな肩を震わせている。

「物の怪に呆れられたか。」

そんな宗矩の真面目くさった一言の後、突如泣き声が響き渡った。

「俺が泣かせたのか。」

慌てる宗矩に澪が落ち着いて言う。

「あたしの声に驚いたんでしょうよ。」

赤子は泣きじゃくり、その肌が徐々に灰色に変わっていく。

「しまった!硬くなったか。先に斬れば良かった。」

「旦那ぁ、斬りつけたらすぐに泣きまさぁね。」

「そうか、しかし確かに爺の顔をしている。」

「今までで一番、気色悪い物の怪かもしれませんねぇ
 、こいつわ、、」

流石の澪も身震いをした。

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「硬くなりやがった。」

「てことは、重くなったって事で御座んす。」

そこに荷車の土を跳ねる音がする。雪と鉄斎が来たのだ。

「ちょうどいいじゃねぇか!追い込んじまえ。」

雪がサッと荷車の後ろを子泣き爺に向ける。

「あっしが囮になりやす。」

佐納流園が荷車と子泣き爺の間に出る。

「さあ、来やがれ!」

それを見た子泣き爺がトンと土を蹴る。

「重くなったって身軽で御座んすか!?」

それでも流園はギリギリの所で後ろに跳ね、今度は荷車のすぐ前に陣取った。子泣き爺は跳ねるまでは良かったが、ドサりと土の上に落ちヨタヨタと動いた。

「やはり重いか。流石だな。」

「気合いで跳びましたねえ。」

ヨタヨタと起き上がろうとする様はまさしく赤子に見えて、思わず手を差し伸べたくはなるが、そんな事をすれば自分の首が締まるに過ぎない。

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その頃、狙われている良源は?

「鈍く光りやがった。お出ましって事だな。」

誰も見張りの居なくなった診療所の入り口から外に出ていた。耳に妙な小唄が聞こえてくる。

「こいつの事かい?しかし、何処から流れてきやがる
 ってんだ?流石は甲賀の術者って事だなあ。」

朱い石はまだ鈍く光っている。

「こいつで見つけ出せるかと思ったが、難しいか。」

石を見つめていた良源だったが、ふと顔を上げ辺りを見回した。

「まさか、、いや、それなら辻褄は合うが、、」

そう呟くと診療所を離れ闇に紛れていった。

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「斬れぬとは、手持ち無沙汰だな。」

「旦那ぁ、呑気ですねぇ。」

「まさか俺が一緒に跳ねる訳にもいくまい。」

「こんな時に何ですがねぇ、旦那ぁ。」

「何だ澪、妙案か。」

「いえね、あたしも美代の気持ちが分かった気がしま
 してねぇ。男ってのは様々ですが、生真面目なのも
 考えもんですねえ。」

「ん?俺の事か?」

「はい、躾け甲斐がありそうってもんで。」

澪はニコりと笑ってみせた。

「あんたらよぉー余裕で立ち尽くしてねぇでよお!」

勇也の声に再び子泣き爺に目を向けると、佐納流園が荷車の前で右に左に手を大きく広げて動いている。
勇也と太助は子泣き爺の後ろに周り、左右に広がり逃がさぬ構え。

「勇也、あたしらの出番は無いでしょうよ。」

「うむ、何か有れば動く。今は頑張れ。」

「頭、ごもっともですよぉ。」

「まあ、、だなあ。」

子泣き爺は立ち上がったはいいが、流園の妙な動きに呆れたのかまたしても立ち尽くしていた。


つづく


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