カリフォルニアワインでまったり
晩酌の記憶で綴る、個性と多様性のカリフォルニア・ワインについての雑感。
流行に乗ったワインは、好事家の間でも支持されやすい。 ワインの世界では、しばしばアルコール度数が話題になる。10-11%の低アルコール度数が飲みやすくて好ましい、12-13%もあれば十分に堪能できる、14-15%のエネルギッシュな表現が好きだ等、その中身は様々だ。 ワインの世界は選択肢が多様であるとは言うものの、伝統産地における過去の経験則や、昨今の外食産業における素材重視の流れも相まって、実際は、アルコール度数は13%台以下であるものが好ましいという意見が大勢だろう。
世間の評価というのは、当てにならないことも多い。 職場で高い評価を得ている人が必ずしも仕事や顧客に誠実に向き合っているとは限らないように、知名度や顧客リストが華やかな生産者に焦点が当たる一方で、並外れた品質でも妥当な価格で取引されるワインが見過ごされることは少なくない。 そうした事がなぜ起きるのか明快に説明できる証拠を持っている訳ではないが、ワインに関して言えば、消費者は必ずしも味を重視している訳ではないのだろう。無名の美味しいワインを飲んでも、他人に見せびらしたり喜びを
憧れの対象には強烈に近づきたいという思いに駆られる反面、近づくほどに振り返って見る自分の姿との違いに気付かされるものでもある。 崇拝の対象になっているワイン産地と言えば、その最右翼としてブルゴーニュの名前を挙げる人は少なくない。音に聞こえた個性豊かな生産者を数多く擁し、それに劣らぬ修飾語の数々で彩られた産地から作られるワインは、世界中で熱狂的な信者を生んできた。 そんな熱情に駆られて、数々の新興産地がブルゴーニュ品種、とりわけピノ・ノワール種の生産を試みてきた。しかし、ブ
Zinfandelには、カリフォルニア・ワインの魅力が詰まっている。 カリフォルニア・ワイン業界では、Historic Vineyard Societyの活動に見られるように、20世紀に施行された禁酒法以前に植樹された畑の保存活動が盛んになっている。カリフォルニアには様々な古樹を持つ畑があることもあり、同団体の活動は、近年、国際的に注目されている。そして、Zinfandelは、そうしたカリフォルニアの歴史ある畑において存在感のある品種と言って良い。 しかし、Zinfand
「きっとまだ見ぬ驚きのあるワインがあるんじゃないか。」 関心が高まってくると、そんなワインを自分の手で見つけ出したいという欲が出てくる。しかし、案外、偶然に頼る他は、そういうワインに出くわすことは難しいのかもしれない。 筆者がカリフォルニア・ワインに興味を持って調べ始めた頃は、白ワインと言えばシャルドネかソーヴィニヨン・ブラン、赤ワインならカベルネ・ソーヴィニヨンかジンファンデル、稀にピノ・ノワールというくらいで、選択肢は多くなかった。 そのせいか、しばしば代わり映えの
知識欲や好奇心を満足させることはワインの大きな楽しみに違いないが、何も考えずに飲んで楽しめることも大事なことだと思う。 アルコール飲料の中でも、ワインほど品種や産地、醸造法が多様なものは少ないだろう。品種や産地、生産者、ビンテージや醸造法に至るまで、「こだわる」ポイントが多い分、自分が好きなワインを探す楽しみがある。 しかし、選択肢が豊富であるということは、なかなか自分の好みのワインに出会うことができない可能性も孕んでいる。情報収集し、予測を立て、選び抜いたワインが、思っ
身の丈に合った生活には、素直に憧れてしまう。 日々の家事や生活、寝食や運動に、もう少し気を遣えたら良いのにと思うが、現実には時間に追われる内におざなりになってしまう。働くこと、生活すること、小さな楽しみを見つけて生きていくことを両立することは、分かってはいてもなかなか難しい。 最近は、都会の生活に限界を感じて、農家になって田舎暮らしをする人もいるそうだ。実際は都会での生活よりもかえって忙しいと思うが、自分たちの歩幅を大事にするような、地に足が着いた生活のイメージが魅力的に
先入観を変えるほどのワインに出会うことは、稀で幸運なことだ。 2000年代の中頃、「カリフォルニアでまともなピノ・ノワールなど、作れる訳がない。」という論調が、国内外で広く信じられており、カリフォルニア・ワインの愛好家の中でも懐疑的な意見は少なくなかった。Kistlerなどは良い意味で例外だったが、「カリピノ」に対するイメージを転換するほどではなかった。 当時、筆者はカリフォルニア・ワインに傾倒し始めた頃で、ピノ・ノワールにさほど大きな関心は無かったが、「そうまで言われな
最近、円安で価格が高騰しているとはいえ、レストランやショップがこだわりのワインを揃えることは珍しくない時代になった。店としては、自身が表現したいことを体現できるワインを探すことが求められている時代とも言える。ヴァン・ナチュール・ブームの後は、北海道を始めとする国産ワインが人気のようだ。 他方、カリフォルニア・ワインの人気はそれほど高まっていない。どうやら、エレガントな味わいのイメージが持てないこと、高価格帯は伝統産地の高級品と大して変わらない価格であることが、敬遠される理由
「舞台に立つ役者は、観客に鍛えられる」 役者の成長には観客が欠かせないという意味だが、聴衆が見識に欠けていれば相応の役者しか生まれないとも取れる言葉だ。 今、Napaの生産者達には厳しい視線が注がれている。世界的な高級ワインの価格高騰の中にあって、同地域は特に値上げが激しい産地の一つであり、高価格帯のワインが売れなくなっているという。 消費者も鵜の目鷹の目で価値のあるワインを探している。Napaに代えがたい魅力があることは分かるが、高級ワインが争って高騰する様子を見て、
新しい生産者の情報を探すときには、専門家のレビューが掲載されている専門誌は役に立つ。ここのところ、Antonio Galloni氏が創設したVinousを購読してるが、同誌には様々なレビュアーがいて、世界各地のワイン産地に関する記事を公開している。 購読期間が長くなってくると、好きなレビュアーが分かってくる。中でも、Josh Raynolds氏はお気に入りだった。同氏のレビューは、簡潔だが必要なポイントが抑えて書かれており、点数の相場はやや厳し目だが、スタイルの違いに関わら
カリフォルニアに行くと、過ごしやすい気候と青い空のおかげか、開放的で前向きな気分になるのは筆者だけではないだろう。現地の人達も、どこか楽観的な性格の人が多いように思う。カリフォルニア・ワインが親しみやすく享楽的なのは、こうした気候や人々のパーソナリティと無縁ではないと思う。 ただ、近年は、サンノゼの住宅価格の高騰やサンフランシスコの空洞化といったニュースも聞かれるようになり、カリフォルニアでの暮らしもかつてほど魅力的でなくなってきているようだ。 ワイン産地についても、開発
音楽や芸術の分野で、強い衝撃が多くのフォロワーを生む現象は珍しくない。しかし、先駆者が革新を続ける限り、後進がオリジナルを超えることは容易ではない。 Sine Qua Nonというワインがある。カリフォルニア・ワイン好きの間で長く崇められてきた銘柄だ。漫画「神の雫」で使徒の一つに選ばれ、随分と話題になったこともある。今でも好事家達の憧れのワインと言って良い。 創設者であるManfred Klankl氏は、元々、ワイン業界の異邦人だが、趣味が高じて作ったワインがロバート・パ
どこの社会やコミュニティにも人気者というのはあるものだが、きちんとして実力のある人は、意外と目立たず静かに佇んでいるものだ。 先日、いわゆるカリフォルニア・ワイン好きが集うイベントに参加する機会があった。珍しい趣向で、各々がワインを一本持ち寄ることが参加条件となっていた。腕によりをかけて選んだワインを携えた参加者が集まり、ワインの話にも大いに花が咲いたので、会としては成功だったと思う。 多くの参加者がWSETやワインエキスパートといった資格を有していることもあってか、豪華
愛嬌のある人にはつい親しみを感じてしまうものだが、そんな人柄がワインに出ることもある。 カリフォルニアにおけるローヌ品種の草分けと言えば、Alban vineyardsを興したJohn Alban氏をおいて他にはない。同氏は、20代の誕生日にコンドリューの「安ワイン」と出会ったことで、後にローヌに渡ってワインを学び、カリフォルニアでローヌ品種の可能性を探求するパイオニアにまでなった。 生産者としても、Alban vineyardsはカリフォルニアの中で名実共に屈指のローヌ
「不可能だと言われれば、それを可能にしてしまう。それがアメリカの矜持だ。」 という台詞を、「沈黙の艦隊(かわぐちかいじ作)」で読んだ記憶がある。本作は手に汗握る展開が見ものだが、登場人物の口から出てくる印象的な言葉も魅力だ。ちなみに、実写ドラマもなかなかの完成度なので、気になる方にはお勧めしたい。 ところで、カリフォルニアでは、長らく以下のニ領域ついては優れたワインを作ることは不可能だと言われてきた(あるいは、今もそう言われている)。 それは、ピノ・ノワールとスパークリ