世間の評価
世間の評価というのは、当てにならないことも多い。
職場で高い評価を得ている人が必ずしも仕事や顧客に誠実に向き合っているとは限らないように、知名度や顧客リストが華やかな生産者に焦点が当たる一方で、並外れた品質でも妥当な価格で取引されるワインが見過ごされることは少なくない。
そうした事がなぜ起きるのか明快に説明できる証拠を持っている訳ではないが、ワインに関して言えば、消費者は必ずしも味を重視している訳ではないのだろう。無名の美味しいワインを飲んでも、他人に見せびらしたり喜びを共有することは難しい。他方、有名で入手困難なワインを飲む時には、多くの人が注目してくれる。
しかし、生産者側から見れば、知名度を上げるにはワインが売れなくてはいけないものの、ワインが売れるには知名度が必要だと言われると途方に暮れるしかない。
「飲むまで味が分からない商品」を扱うことには相応の難しさがあるという訳だが、そんな前提を受け入れて実直に高品質のワインを作り続けている生産者は、消費者にとって大変有難い存在と言って良い。
Detertは優れているだけでなく、Napaの中でも最も条件に恵まれたワイナリーの一つだが、世間の評価は不遇な時期が続いてきた。かの有名なTo Kalon vineyardの一部を有する家系に生まれたTom Garrett氏は、John Garrett氏、Bill Cover氏と共に2000年にワイナリーを設立した。しかし、評論家の間での評価は、その出自にそぐわないものが多い。例えば、2010年以降、隣接地に立地するMacdonaldがNapaのワインシーンを牽引してきたことを考えれば、Detertは日の当たらない道を歩んできたと言っても過言ではない。
そうしたこともあって、DetertのワインはNapaの中でも穏当な価格で取引されており、知る人ぞ知るワインとして、好事家に愛されている。
East Blockと呼ばれる区画のCabernet Francの果実を使ったワインが看板商品だが、今回はCabernet Sauvignonを手に入れてみることにした。
赤黒系の果実、甘草、鉛筆の芯やレザー、ハーブの豊かな香り。層を感じる味わい。酸が強いことで、味わいは引き締まっている。ややタンニンは強いが、熟成が進めば解れていくだろう。豪華な食材の出汁が染み込んだ雑炊のような魅力がある。Napaの奥行きのある果実味と均整の取れた味わいが魅力の佳作なワインだ。
錚々たる生産者達がTo Kalon vineyardの果実を使用している事実に鑑みれば、Detertが抜きん出た存在になる日はまだまだ先だろう。しかし、果たしてこの生産者は世間からの評価のためにワインを作っているのだろうか。筆者はその答えを持ち合わせていないが、ワインから得られる喜びは疑いないように思える。
本日のワイン:
Detert Family Vineyards Oakville Cabernet Sauvignon 2018
94+pts
https://www.detert.com
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