ふさわしい機会
身の丈に合った生活には、素直に憧れてしまう。
日々の家事や生活、寝食や運動に、もう少し気を遣えたら良いのにと思うが、現実には時間に追われる内におざなりになってしまう。働くこと、生活すること、小さな楽しみを見つけて生きていくことを両立することは、分かってはいてもなかなか難しい。
最近は、都会の生活に限界を感じて、農家になって田舎暮らしをする人もいるそうだ。実際は都会での生活よりもかえって忙しいと思うが、自分たちの歩幅を大事にするような、地に足が着いた生活のイメージが魅力的に見えるのかもしれない。
カリフォルニアのワイン産業でも、かつてのように牧歌的な暮らしを送ることは難しいようだ。土地や果実の高騰、厳しい競争、新技術やトレンドへの適応、資金繰り、顧客の嗜好の変化、等々。多くの事柄に習熟しなければ、ワイン作りを続けることができない。
そうした、日々の時間を吸い取られるかのような勤労の上に、多様な味わい深いワインが生まれるかと思うと、頭が下がる思いがする。
ところで、数は少ないが、自分たちのやりたい事と身の丈にあった暮らしを両立させることに成功している生産者も存在する。Haliotideはそんな一例だろう。
Haliotideは醸造家のNicole Bertotti Pope氏と栽培家のLuke Pope氏が作るSan Luis Obispo coastを拠点にした、零細のスパークリング・ワイン専業のワイナリーだ。
Nicole氏は、カリフォルニアにおけるスパークリング・ワイン作りの名門であるDomaine Carnerosで勤務する間に、いつか自分の手でスパークリング・ワインを作りたいと思うようになった。その後、Stolo vineyardで職務に従事している間に、この畑の果実からなら素晴らしいワインを作ることができると確信し、ワイナリー設立に向けて具体的な準備を始めたという。独立に際しては、置かれた状況とタイミングの為せる技、ということが実感に近いらしい。
Haliotideのワイン作りでは、澱引きやリドリング等、多くの工程を手作業で行っている。さらに、品質を高めるための時間も惜しまないため、リリースまで3年から6年ほどかけるらしい。今はStolo vineyardとTopotero vineyardから果実の供給を受けて、Blanc de blancsとRose sparklingを一種類ずつリリースしている。
幸運にもBlanc de Blancsを入手することができたので、機会を見つけて試してみることにした。
レモン、青リンゴ、ライム、白桃、生姜、グレープフルーツ、軽いトースト香を伴う豊かな香り。塩味とミネラルが感じられる。綺麗な線がスッと伸びていくような酸。そして、その線から滲み出てくる複雑な味わいが波のように寄せては返してくる。じっくりと噛み締めていたくなる余韻。リラックスした味わいの中にも緊張感がある。SLO coastの個性が表現された素晴らしいスパークリング・ワインだ。
望む生き方を全うするために、目標を立てて、情熱と勇気で挑戦心で、問題と挫折を乗り越えていく物語にも魅力はあると思う。しかし、ふさわしい機会が訪れること待ちながら、とりあえずは日々の生活を身の丈に合わせて楽しむ生き方も、そう悪くない気がしてきた。
本日のワイン:
Haliotide Blanc de Blancs 2019
94+pts
http://haliotide.com