生産者と評論家
新しい生産者の情報を探すときには、専門家のレビューが掲載されている専門誌は役に立つ。ここのところ、Antonio Galloni氏が創設したVinousを購読してるが、同誌には様々なレビュアーがいて、世界各地のワイン産地に関する記事を公開している。
購読期間が長くなってくると、好きなレビュアーが分かってくる。中でも、Josh Raynolds氏はお気に入りだった。同氏のレビューは、簡潔だが必要なポイントが抑えて書かれており、点数の相場はやや厳し目だが、スタイルの違いに関わらず良いワインには高得点を出している。残念ながら2023年に逝去された。
Josh氏は、北米内でもワシントン州やカリフォルニアのPaso Robles、Santa Lucia Highlands、San Luis Obispoをはじめ幅広い地域をレビューしているが、その中のオレゴン・レビューの一文が目を引いた。
「今後のオレゴンの期待の若手は、AudeantとMorgen Longだろう。」
当時、オレゴンのワインに詳しくなかったこともあり、今から大御所を含めて総ざらいするよりは、期待の若手がいるのなら素直に信じて個人輸入すれば良いと考え、両ワイナリーのワインを入手してみた。
それ以来、Morgen Longは最もお気に入りの生産者の一人になっている。
Seth Morgen Long氏はブルゴーニュを始めとする生産地で経験を積んだ後、Linga Francaでの勤務を経て、Wilamette valleyでMorgen Longというワイナリーをスタートした。オレゴン初のシャルドネを専業とする生産者であり、文字通りのワンマン経営だという。
同氏のワインの特徴は、極めて繊細で美しい上に絶妙にバランスが取れている点にある。キュヴェ毎の個性もしっかりしている。近年は、大幅なワインの値上げを図りつつ、品質や畑の改善に前のめりに取り組んでいる。
今回、新しい畑であるTemperance Hillのシャルドネを手に入れて飲んでみた。香りは、レモン、ライム、生姜、白桃、メロン、洋梨、グレープフルーツ、蜂蜜を中心に複雑な香りがグラスから飛び出してくる。果実味は分厚く、多層的な味わいと噛みしめるような旨味がある。他方で、酸が強いためか口当たりは優しい。とても長いアフターと苦みを伴うフィニッシュ。出色のシャルドネと言って良い。
動画で見るSeth氏は朴訥とした印象で、何度も考えを咀嚼してから話をするタイプの人に見える。ワインを作る際にも、繰り返し自身の考えを検討しながら、より良いワインを作ろうとしているのだろう。そんな同氏は、ワイン醸造については概ね突き詰めたということで、今後は栽培家との関係性の構築や畑についての理解を深める方向で努力したいという。
Josh氏は最後のオレゴン・レビューの中で、「Seth氏のワインはシャルドネの優雅で飾らない表現だ」と控えめな賛辞を送っており、点数も今後の発展を予感させる付け方だった。今後の成長を継続的にレビューする機会が失われたことが惜しまれてならない。とはいえ、評論家とスター生産者は互いに協力関係にあることが多いが、無名のスターをベテランの評論家が発掘することは幸運な事例だろう。
本日のワイン:
Morgen Long Temperance Hill vineyard Chardonnay 2022
97pts
https://www.morgenlong.com
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