「不可能だと言われれば、それを可能にしてしまう。それがアメリカの矜持だ。」
という台詞を、「沈黙の艦隊(かわぐちかいじ作)」で読んだ記憶がある。本作は手に汗握る展開が見ものだが、登場人物の口から出てくる印象的な言葉も魅力だ。ちなみに、実写ドラマもなかなかの完成度なので、気になる方にはお勧めしたい。
ところで、カリフォルニアでは、長らく以下のニ領域ついては優れたワインを作ることは不可能だと言われてきた(あるいは、今もそう言われている)。
それは、ピノ・ノワールとスパークリング・ワインだ。
いわく、カリフォルニアには冷涼な産地が少ない、米国の消費者の嗜好に合わせて作られたワインでは、ブルゴーニュやシャンパーニュのような味わいは期待できない、そもそも上質なワインはフランスから輸入すれば良いので、わざわざ国産化を試みる必要がない、等々。こうした批判は枚挙に暇がない。
ピノ・ノワールについては、現在、カリフォルニアで優れたワインが多く生産されている事実に鑑みれば、こうした批判が根拠に乏しいことはすぐに理解できる。専門家の中にはオレゴンをより優れた産地として取り上げる向きもあるようだが、質・量の両面から、カリフォルニアがオレゴンよりもピノ・ノワールの産地として劣っているという証拠は見つけにくい。
しかし、スパークリング・ワインについては、米国内外の資本による大手のワイナリーが幾つか存在するものの、今のところ生産者の数やワインの生産量が如実に拡大しているとまでは言えない状況にある。
そんな中にあって、Ultramarineはカリフォルニアのスパークリング・ワインの地位向上に大きな役割を果たしてきた。文字通り、畑違いの分野からオーナー兼醸造家に転身したMichael Cruse氏は、トライ&エラーを繰り返しながら、カリフォルニアでしか作れないスパークリング・ワイン作りを目指している。そうした挑戦への賛辞とそのストーリーに負けない品質から、あっという間に米国で最も高価なスパークリング・ワインへと登り詰めた。
とはいえ、有名になればそれだけ批判の対象にもならざるを得ない。いわく、シャンパーニュのような奥ゆかしさや洗練性に欠ける、トップレベルのシャンパーニュよりも高価なカリフォルニアのスパークリング・ワインに市場価値を認められるのか、等々。名声の向上に比例して、否定的な見解も示されるようになってきた。
しかし、UltramarineのLate disgorged Blanc de Blanc を飲む前にそうした批判を行うことは、あまりに時期尚早だ。
レモン、青リンゴ、白桃、ライム、グレープフルーツを中心とした豊かな香り。美しく繊細な酸。泡は落ち着いている。エレガントなボディから滲み出る旨味。そして、とても長い豪華なアフター。第一級のシャンパーニュと比較しても遜色がないだけでなく、まさしくカリフォルニアのワインという個性がしっかりと主張されている。
世の常だが、極めて優れたワインほど生産本数が少ないため、愛好家の中でも入手することは大変に困難なようだ。残念でならない。
そんなワインは存在しないも同然なので、「カリフォルニアに優れたスパークリング・ワインは存在しない」という仮説は、現在も有効だという意見があるかもしれない。しかし、いずれそう遠くないうちに、不可能を可能にするようなワインが登場するだろう。それが革新性と多様性を尊ぶカリフォルニアの矜持なのだから。
本日のワイン:
Ultramarine Charles Heintz Blanc de Blanc late disgorged 2014
96pts
https://ultramarinewines.com
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