ABC?
知識欲や好奇心を満足させることはワインの大きな楽しみに違いないが、何も考えずに飲んで楽しめることも大事なことだと思う。
アルコール飲料の中でも、ワインほど品種や産地、醸造法が多様なものは少ないだろう。品種や産地、生産者、ビンテージや醸造法に至るまで、「こだわる」ポイントが多い分、自分が好きなワインを探す楽しみがある。
しかし、選択肢が豊富であるということは、なかなか自分の好みのワインに出会うことができない可能性も孕んでいる。情報収集し、予測を立て、選び抜いたワインが、思ったほどの味でなかった時は、次のワイン探しへの意欲が増すとはいえ、どこか気持ちがくたびれてしまう。
そういう時は、「とりあえず、難しいことを考えずに美味しいワインが飲みたい!」と思うのが人情だろう。
そんな悩める好事家にとって、カリフォルニアのシャルドネは最高の選択肢の一つだ。
カリフォルニアでは、かつてABC(Anything but Chardonnay)と言われたことがあるほどに、実に多くの生産者がシャルドネを仕込んでいる。さらに、近年、その品質が大きく向上しているだけでなく、リースリングのようなものから濃厚でトロピカル・フルーツを連想させるものまで、幅広い消費の選択肢が用意されるようになった。何より、太陽と気候に鍛えられた果実味には強い説得力がある。
こうした背景は消費者にとっては魅力に映るだろうが、一方で、生産者にとっては生存競争が厳しいことを意味する。実際、カリフォルニアのシャルドネ市場では、近年、有望な新規生産者が生まれていないといった声が聞かれることもあった。
Ferrenはそうした議論の例外と言って良い。
Ferren winesの共同創業者であるMatt Courtney氏は、かのHelen Turley氏が創設したMarcassinでの8年間の勤務を経て独立を果たした。Silver Eagle vineyard, Lancel creek vineyard, Frei Road vineyard (Zio Tony vineyard)といった銘醸畑の他、Volpert vineyardという新進の畑から得た果実で、極めて優れたブルゴーニュ品種のワインを作っている。好事家が求めてやまないMarcassinのワインが市場で高騰・枯渇していることを考えれば、貴重な後継生産者と言って良い。
近年、早摘みを意識したシャルドネが増えている中、Ferrenのシャルドネは、果実の強い凝縮感と共に透明感や洗練性を感じさせる。秘蔵の一本であったFrei Road vineyardのシャルドネを飲み、こうした印象は一層強いものになった。
レモン、メロン、青リンゴ、ライム、白桃、蜂蜜、グレープフルーツ、ジャスミンの複雑な香り。舌がチリチリするほど強く美しい酸。果実味は強いが、決して大柄で鈍重ではなく、旨味の芯を感じると共に軽快ですらある。中盤からフィニッシュにかけて優しくほどけながら尾を引く味わい。極めて優れたシャルドネだ。
飲み終わるのを待つ間もなくグラスに手が伸びてしまう。飽きることなく飲んでいる内にボトルが空になってしまう。もし、カリフォルニアのシャルドネがこんなワインばかりなら、Always Bring Chardonnayと言ってしまいたくなる。
本日のワイン:
Ferren Frei Road vineyard Chardonnay 2018
95+pts
https://www.ferrenwines.com/