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先入観を変えるほどのワインに出会うことは、稀で幸運なことだ。

2000年代の中頃、「カリフォルニアでまともなピノ・ノワールなど、作れる訳がない。」という論調が、国内外で広く信じられており、カリフォルニア・ワインの愛好家の中でも懐疑的な意見は少なくなかった。Kistlerなどは良い意味で例外だったが、「カリピノ」に対するイメージを転換するほどではなかった。

当時、筆者はカリフォルニア・ワインに傾倒し始めた頃で、ピノ・ノワールにさほど大きな関心は無かったが、「そうまで言われないと、いけないものかな。」と思いつつ、そうした議論を眺めていた。

そんな時、カリフォルニア・ワイン通の間で、とある生産者が騒がれ始めた。

「エレガンスを感じる本物のピノ・ノワールだ!」

Cobbの作るピノ・ノワールはブルゴーニュのグラン・クリュと比較しても恥ずかしくない味であるとか、今後のカリフォルニアのピノ・ノワールの指針となる味だとか、とにかく好事家の間で相当な騒ぎだった。

そんな一部の熱狂に反して、米国でのCobbの人気は低調で、セールの対象になることも多かった。多くの人がまだカリフォルニアの可能性に対して懐疑的だったからだろう。

しかし、その後、評論誌でも、度々、高く評価される等、着実に味わいを向上させてきたCobbは、今やSonoma Coastを代表する生産者となっている。

振り返ってみれば、2000年代はカリフォルニアでピノ・ノワールが大きく発展し始めた時期だった。そうした時期に、後の有名生産者のワインに出会うことができたことは、幸運だったと思う。

その後、さらに幸運な出来事があった。California Wines Alive TastingsのためにRoss Cobb氏が来日した際、同氏とEd Kurtzman氏を交えたディナーが大阪で開催されることとなり、垂涎のワインを生産者の解説付きで楽しむことができる幸運な会に、縁があって参加することができた(*)。

Ross Cobb氏は、Williams Selyem, Flowers, Hirschという名だたるワイナリーでの勤務経験を経て、2001年にCobb winesをスタートした。Coastlands vineyardというSonomaの中でも古いピノ・ノワールが植樹された自社畑を所有している他、ブルゴーニュ品種を中心に、契約畑からも極めて優れたをリリースしている。

中でも、SebastopolにあるRice-Spivak vineyardから作られたピノ・ノワールが、当日の会では印象に残った。

赤スグリやフランボワーズを中心とした赤系の香り、森のニュアンス。美しい酸と充実した旨味の中に、若干の陰性感。長いアフターを締めくくるフィニッシュに愛嬌を感じる。健康的な果実味を土台に、ワインの個性が見事に表現されている素晴らしいピノ・ノワールだ。

Robert Parker Jr.氏が予測したように、今やカリフォルニアは世界でも最も優れたピノ・ノワールの産地の一つとなった。Cobbの登場以降も、次々に優れた生産者が登場しており、世界のピノ・ノワール愛好家の注目を集めている。今後も好事家の期待を良い意味で裏切るピノ・ノワールが登場することを切望してやまない。

*この話題に触れる際、Cobbのインポーターを務められたilovecalwine社の創業者である海老原卓也氏について触れずにいることはできない。2023年に惜しくも逝去された同氏とは、この会での交流が、筆者にとって最初で最後の機会となった。カリフォルニア・ワインの貴重な情報を発信してきた同氏のBlogを愛読者の一人として、当日、隣席で様々にワイン談義を交わすことができたことは望外の喜びだった。ただ、その後の事態の急展開については、予想することさえできなかった。本当に残念でならない。故人の御冥福を心からお祈り申し上げます。


本日のワイン:
Cobb Rice-Spivak Vineyard Sonoma Coast Pinot noir 2019
94+pts
https://cobbwines.com

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