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イチ書店員が記す「2024年新潮文庫の100冊」に関するあれこれ

先日お客さんが↓を買いに来ました。

こちらは「2024年新潮文庫の100冊」に入っているので、特典である「ステンドグラスしおり」をお渡しできます。しかしカウンターへ置かれたものには「新潮文庫の100冊」という帯が付いていない。フェア台へ積まれたものではなく、前から元棚にあるものを手に取られたのでしょう。

私の職場では、フェアの帯が付いた本か、8種類ある「2024年プレミアムカバー」のいずれかをご購入の方に6種類あるしおりのどれかを選んでもらっています。でも対象書籍を買った人にお渡ししないのはおかしい。

ゆえに「『新潮文庫の100冊』の帯は付いていませんがラインナップに入っているので、こちらからお好きなしおりをどうぞ」とお伝えしました。喜んでいただけてよかったです。

たまたま「ぼくはイエローで~」が含まれていると知っていたから対応できました。100冊すべてを覚えているわけではありません。何度か目を通したので主要なものは頭に入っていますが完璧ではない。対象作品を紹介する小冊子をレジ用に確保しておいた方がいいかも。

あと気になったのは、沢木耕太郎「深夜特急」の1巻だけが「100冊」に入っていること。

全6巻です。26歳の沢木さんが新鮮な体験をピュアに楽しむ前半の巻の軽やかさが印象深い。でも私は成長と引き換えに身に着けてしまった小賢しさに愕然とし、終わりを意識して重さが増す後半こそリアリズムの宝庫だと考えています。結末も含めて。

私のいるレジに「深夜特急」の2巻以降を買いに来る方がいらっしゃったら、その方はラッキーかもしれません。明言はしないけど。

他にも待望の文庫化が話題のガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」や生誕100年を迎えた安部公房「砂の女」などもラインナップに入っています。名作が目白押しで素晴らしい。

そんななかで「今年のオススメ」を一冊選ぶなら↓でしょうか。

3年前に読書メーターへ書いたレビューを紹介させてください。

陽の当たる場所で幸せに生きている人には必要ない一冊かもしれない。人生の苦味、挫折、自分だけ取り残されたような恥の意識。それらを生々しく描くことで読者に仲間意識を抱かせ、「それでも生きていける」と前を向かせてくれる短編集。お約束の救いやいかにもな展開を匂わせてそうはならない乾いた感じがいい。答えはいつだって自分で見つけるもの。本は背中を押すだけ。巻末の対談でも触れられていたが、恋愛について一行も書かない恋愛小説は最高に粋。ミステリィ作家としてのキャリアの賜物だ。やはり全力で挑んだ負けの経験はムダにならない。

お求めはぜひお近くの書店にて。

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