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「生誕100周年」にオススメしたい2冊

2025年。

日本文学界を代表する作家のひとりである三島由紀夫が、1月14日に「生誕100周年」を迎えました。

一般的に最も存在を知られ、読まれている作品はやはり「金閣寺」でしょうか。実際レジで定期的に販売しています。次いで「仮面の告白」と「潮騒」がランクインしそう。

法学部で学ぶ人は、裁判沙汰になった「宴のあと」が三島を知るきっかけだったかもしれない。若い層には角川文庫から出ている「夏子の冒険」や「不道徳教育講座」も人気が高いです。

ちなみに、私が学生時代から繰り返し読んでいる彼の著作はこちら。

2017年に読書メーターに書いたレビューを紹介させてください。

著者にも世間にも酷評された中編。構成上の突っ込み所や後半の息切れ感は確かにある。でも私はミシマの中でこれが一番好き。裕福な家に生まれ、エリート街道を突き進んでいた誠がなぜ高利貸しになったか。厳格な軍人である父を憎んだジム・モリソンが刹那的なロックスターになった経緯と似ている。理解するのもされるのも拒み、信じるものは己とカネ。だが大学の権威は認める二重規範。この複雑さこそ人の真実。私も社会への反発と阿りを同時に抱え、たまに己を指差して笑いたくなる。不可避の矛盾を物語とアフォリズムで暴ける和製ラディゲの凄み。

正直名作とは思いません。村上春樹流にいうなら、文体のねじが十分に締められていない。構成も大雑把です。一方で主人公・川崎誠の人生観と転落劇に、憧れめいた何かを感じたのも事実。カネを徹底的に軽蔑するために大金を荒稼ぎし、やがて失い、滅びへ向かう。それも存外悪くないのではと。もちろん自分にできるかはべつの話ですが。

誠にとっての「カネ」は、三島にとって何だったのか。名声? 文学? あるいは。

拙いながらに考察を重ねてみると、らしくないとはいえこれも確かに三島だと頷ける。だからこそ入り口に適しているのかもしれません。お酒を初めて飲む人にとっての青りんごサワーやカシスオレンジの位置付けでしょうか。

オススメをもう一冊。

転生をテーマに据えた「豊饒の海」の第一巻「春の雪」です。

同じく読書メーターへ書いたレビューの一部を。

聡子の清顕への恋はピュアでシンプル。だが清顕の聡子への恋は禁忌を破ることへのそれが第一義だったのかもしれない(好きだったのなら結婚できたわけだし)。ただ最初の入り口はそうだったとしても、自尊心で押し殺していた想いに嘘はなかった気もする。だからこその終盤。題に込められた意味を考えると胸が苦しくなるし、雪の日のエピソードを思い出して涙腺が緩む。華族のきらびやかな日常を絢爛な文体で生々しく描けば描くほど、見栄や建前や世間体がすべてな偽善性が際立つ。ここに三島の意図を感じた。

全四巻を読んだ人に感想を訊くと、口を揃えて二巻目の「奔馬」を絶賛します。非常によくわかる。世間が考えるところの「ザ・三島由紀夫」な美学と思想、力強さ、そしてそれらに裏打ちされたカリスマ性が凝縮されている一冊だから。

ただ、私は意志と肉体をストイックに鍛え上げた彼よりも、筋肉の鎧とマッチョな仮面の下へ隠され続けた何かに共感を覚えがち。そういう者にとっては「春の雪」こそが三島文学の、そして三島由紀夫の真骨頂と思えて仕方ないのです。

ぜひ。

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