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「毎日の朝読書」にオススメの一冊
出勤前に本を読みます。
せいぜい数ページ。1ページの日もあります。心身の負担になってやめてしまうよりは、少しずつでも毎日続けられる方がいい。そう考えています。
いろいろなジャンルを試しました。私の場合は「禅」に関する本が最適です。「毎朝生まれ変わった気持ちで」という考え方を内包しているからでしょう。「さっそく実践しよう」「仕事に落とし込んでみるか」と思える教えが多いのもポイントです。
一方、慌ただしい数分にガチの専門書を開いたところで頭に残らないのも事実です。せっかくの習慣を義務的にこなすのはもったいない。
私のオススメはこちら。
出版社はPHP研究所。著者は経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥(くわばら てるや)さんと、臨済宗妙心寺派の教学部長や布教師会会長を歴任した宝泰寺住職・藤原東演(ふじわら とうえん)さんです。
ひとつの章が数ページ。前半は桑原さんがスティーブ・ジョブズの発言を分析し、後半は藤原さんが関連する禅の教えを解説しています。
たとえば110ページ。まず桑原さんがジョブズの「僕らはこの移行にちゃんとついて行かなきゃいけない。僕らは時代に取り残されたくないからね」という言を取り上げ、以下の文章で締め括る。
成功も勝利も一瞬のものでしかない。ジョブズはみずからに成功をもたらしたものを否定したり、捨て去ったりすることで、新たなひらめきを得るタイプだった。
次に藤原さんが道元の「正法眼蔵」を引用しつつ、こんな提言をしてくれます。
権勢のある者が定めた決まりだからと追従したり、古人や先哲が残した伝統だから変えてはいけないと断じたりしていていいのか。ことの是非をきちんと問わずに、そんなレベルで修行や学問をするのなら、そんなものはただの因習である。
私の仕事は書店員。当てはめて考えました。
真っ先に頭に浮かんだのは、こんなシチュエーションです。ある本がすごい勢いで売り切れる。ドカンと再注文。まったく動かない。
かつて上司から教わったことを思い出しました。
「売り切れたから発注というのは、必ずしも正解ではない」
「その場所に他の本を積んだら、もっと売り上げを伸ばせたかもしれない」
機械的な「完売即追加」がいちばんラクです。現場の細かい状況に目を向けない人ほどデータと話題性だけで大量注文し、過剰在庫でお店の経営を圧迫してしまう。
古くからのセオリーに盲従していれば、結果が出なくても誰からも責められない。でもそこに甘えていたら進歩はありません。なぜ売れたのか? 年末年始で普段来ない人が来たから? SNSで一時的にバズッたから? お問い合わせをしてきたお客さんの年代は?
レジで接客した際の感触も含め、総合的に判断する。すると選ぶべき道がぼんやり浮かんできます。同じ本を同じ場所へ粘り強く積むことが正解なケースもあるし、思い切って変える方がいい場合もある。
「昔こうやったら上手くいった」はあくまでもひとつの事例。絶対的な勝利の方程式ではありません。だからといって時代の流れに迎合し、若者向けにアレンジすればすべてOKなんて平易な話でもない。守るべきは守り、変えるべきを変える。過去の成功体験にも未来への思い込みにも囚われず、諸行無常を認識し、時々の見極めを怠らぬ姿勢でいようと学びました。
残念ながら、現時点でこの本は版元品切れっぽいです。古書店などで見掛けたらぜひ。
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