どうしても「○○○書店」で買いたい1冊
昨年アップした↓を読み返しました。
記事の中で、トルーマン・カポーティ「真夏の航海」(講談社文庫)をとりあげています。著者が10代の頃の未完作で、しかも訳はあの安西水丸さん。初期ならではの青さが作品に爽やかな彩りを与えていて、後年の代表作に繋がる要素も見出せます。
音楽でたとえるなら、インディーズ時代に出した幻のミニアルバムといったところでしょうか? ぜひ多くの人に読んでほしい。新刊書店では入手できない状況が続いていたので、ずっと復刊を願っていました。
そしてふと思い出したのです。読書メーターでフォローしている人が、少し前にカポーティの「サマー・クロッシング」という新刊を「読みたい本」に登録したことを。そのときは深く考えずに「また未発表の作品が翻訳されたのかな」ぐらいで流しました。
でもいま気づきました。「サマー・クロッシング」って、つまり”Summer Crossing"ですよね。これって「真夏の航海」の原題じゃないのか? いや間違いなくそのはず。
己の鈍さに呆れ果てました。散々「復刊希望」とか言っておきながら、いざ新訳が出たらあっさりスルー。無責任もいいところじゃないか。。。
というわけで紹介させてください。
発売は3月2日で版元は開文社出版。↑によると、訳者の大園弘さんは九州国際大学の教授。カポーティに関する研究書も出されているようです。村上春樹さんや水丸さんの翻訳とはまた異なるテイストが期待できそう。
水丸さん訳の「真夏の航海」で特に印象に残っている箇所がふたつあります。
「夏の希望は冬の種子になった。つぎにくる四月が、花を枯らすずっと前に、風が花を散らしたのだ」
「その時、グレディが座っていた椅子が倒れて、その弾みで揺れたテーブルの上の鏡が夕暮れの光の矢を放った」
いかがでしょう? この美しさを前にしたら、どう評してみても敗北感を拭えません。新訳ではどう表現されているのか楽しみです。
すぐにでも読みたいところですが、どうしてもこの本は表参道の「山陽堂書店」で購入したい。同じエリアに住んでいた水丸さんと縁のある本屋で、彼のイラストを用いたポストカードなども販売されています。存在を知らなかった「真夏の航海」と偶然出会えたのがここなので、新訳もできたら同じ場所で買いたいのです(置いてなければやむなしですが)。
自分の職場も「この本は、できたらあの店で買いたいなあ」と思っていただける書店にしていきたい。よく「本はどこで買っても一緒」といわれます。客観的に見ればその通り。だからこそ主観的な個の思い入れを大事にしたいのです。
WBCが終わり、のんびり過ごしたい休日のお伴に「サマー・クロッシング」をぜひ。