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どこかの街で

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2018年12月の記事一覧

2018/06/27 (回想録 Vol.9: イタリア[7])

2018/06/27 (回想録 Vol.9: イタリア[7])

聖堂の裏の広場には人が集まってきていた。ちょうど昼時だったので、ふらついていると次第にランチやカフェを目当てに人が増えてくるのが実感された。さっきまではいなかった大道芸の人が十字路の真ん中にボストンバッグを広げていた。

この小さな町のどこにこれだけの人がいたのかが不思議だったが、人に満たされたテラスは正しい状態であるように感じられた。

聖堂の脇にある酒屋は閉まっていた。店の前のショーウィンドウ

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2018/12/24

2018/12/24

昨晩、正確には今日のとても朝早く、完全に無意識に投稿をしていたらしい。
睡眠薬を飲んで夢遊状態になることはあるのだが、冷静に考えると怖い。

昨日は街で門松屋さんのトラックがあった。珍しかった。

2018/12/22

2018/12/22

七階から見える街は寒々としていて、栄えている駅前さえも遠目には閑散と見えた。研究に疲れて顕微鏡をのぞきながら鉱物の撮影をして気を紛らしていた。

岩石の表面は平らに見えてもわずかな起伏があって、カメラの中では山や谷のように存在していた。カメラの位置は顕微鏡に合わせて高く配置しているので、少し背伸びしたときのつま先が冷えているのを感じた。

しばらく撮影をして、いくつかをTwitterにあげた。

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2018/12/21

2018/12/21

実験室の隅に放置されたいろいろな残骸たちが、ひとかたまりの哀愁を漂わせていた。敷かれた新聞は2017年のものだったが、現在とさして代わり映えのしないニュースを伝えていた。

交差点の手前の道路で、トラック一台が大きく左にはみ出していた。その前のバンは右のウィンカーを出していたが、ウィンカーを出すには気が早い距離だった。

ショッピングモールの灯りがいつもより暗かった。時間が遅かったから、いくつかの

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2018/12/20

2018/12/20

今日は或る任意の原稿の締め切りだったが、時間がなくて諦めることになった。草稿は草稿のまま抽斗の中にしまわれた。

路地の向こうから四人ほどの男女が歩いてきて、その後を一人のお婆さんが早足で歩いていた。道の右側には地面に置かれたライトを兼ねた看板のみの小さな居酒屋と、何か由緒の書かれた立て札が門の傍らにある邸宅があった。左側には工事中の駐車場や新しいデザイナーズマンションがあった。奥にある運営されて

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2018/12/19

2018/12/19

古本屋の前に、新しいプランターが並べられていた。女性が膝を曲げずにかがんで本の入った箱を物色していた。
丁字路のほうへタクシーが左折をしようとし、ちょうどやってきた自転車と鉢合わせた。双方が一瞬ためらって、それぞれがうまく譲り合ってやりすごした。

タクシーの曲がった先には、昨日積んであった瓦礫を軽トラックが積んでいるところだった。タクシーはそれを追い越し、少し先の邸宅の前で止まった。

タクシー

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2018/12/18

2018/12/18

本道をひとつ裏手に入ると、比較的大きな住宅の並ぶ閑静な町にはいる。剪定された枝くずを束ねたものが道端に二つ積んであった。いつも、猫やハクビシンが通り抜ける木戸の前だった。

少し先のガレージは電動のシャッターで、前に差し掛かるとちょうどシャッターが静かにおりているところだった。
後ろから、自転車に追い抜かれた。

自転車が曲がった先は、二股に、登り坂と下り坂にわかれている。登り坂の先にある赤茶色の

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2018/12/14

2018/12/14

よく晴れた午前も、風はつめたい。ビルの隙間を通る強い風が、赤茶けた落ち葉を道なりに運んでいた。地域コミュニティの運営する小さな喫茶店はまだ開店しておらず、木の机の上に小さな椅子が四つずつ、ひっくり返されて乗せられていた。

室内に、造花か本物かわからない紫色の花が置かれていて、程よく日光を受け止めていた。この花を見て、何かを思い出したのだが、次の瞬間忘れていた。

駅前の遊歩道には、波の形をかたど

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2018/12/13

2018/12/13

乗り遅れたバスに引き続いて、別のバスはすぐにやってきた。人々は二人掛けの座席にそれぞれ一人ずつ座っていき、ちょうどすべてが一人ずつで埋まったとき、バスは動き出した。

駅を離れると、おおよそバス通りはたいして明るくないので、敢えて外を眺めなければ景色が視界に入ってくることは無かった。街と街の間に流れる小さな川を渡ったことにも気づかないまま、丘のふもとのバス停に到着した。バスは坂道を上り、国道を横切

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2018/12/12

2018/12/12

日本は自動販売機が多いとよくいうが、よくよく意識してみると、想像にも増して多かった。最近あたらしくできた居酒屋のかど、そのつぎの交差点のかど、おれた突き当たりの駐車場の脇、さらにその裏側には三つも並んでいた。

値段も競うように安く、150mlで100円のものもあった。売る人も、買う人もいないのに競いあっているのは不思議だと思った。もちろん売り手も買い手もいるわけだが、実態はなかった。

この間眺

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2018/12/11

2018/12/11

儚いもののうち、紫煙は好きなもののひとつ。莨は嫌いだが、紫煙を眺めているのは好きだ。奥の席の男が吐いた紫煙が、一緒にいた彼の背中を掠めて、申し訳なく思ったが、甘い香りがした。莨の減りがはやかった。強く吸う人なのだろうと思った。

天井の電気がひとつ、外れていた。不釣り合いに釣り下がった電灯はカメラを向けると眩しかった。

机にはさまざまな雑誌が立てかけられていた。美術書、喫茶店雑誌、地図。ゆるやか

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2018/12/10

2018/12/10

喫茶店から眺める人の群れは、岸辺にうちよせる波のように寄せては返し、規則的な流れを作っていた。駅前の大きな交差点に面しているため、信号が切り替わるのと同時に、こちらの岸の小さな路地に人が流れ込んでくる。

コーヒーを運んでくれた店員は研修中だったが、その空間にいた誰よりも感じがよかったが、目の印象の無い人だった。黒縁眼鏡の奥にある瞳は、薄い膜で覆われているかのように(実際レンズ一枚を隔てているわけ

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2018/06/26 (回想録 Vol.8: イタリア[6])

2018/06/26 (回想録 Vol.8: イタリア[6])

イタリア・パヴィーア。快晴。
この町で唯一観光地然としているのはこの最大のドゥオーモ。小さなこの町には異様な大きさだった。正面には騎馬の像の男性が手を伸ばしていた。この馬の像の陰嚢だけがカラフルに塗られていた。いたずらなのか、そういう計らいなのかはわからなかった。

観光地というものがあまり好きではない。だからあまり記憶がない。
ただ、昼食で入ったカフェの店員がいい人だった。一人でいたうえ、資料を

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2018/10/13 (回想録 Vol.7: 或る喫茶店[2])

2018/10/13 (回想録 Vol.7: 或る喫茶店[2])

荒井由実の名曲の一つに、「海を見ていた午後」という曲がある。そこに登場するドルフィンというレストランの話。

根岸線根岸駅をおりると、小さなロータリーがあった。元町の繁華街からさして離れてもいないこの町は、遠く離れているかのように静かで、住宅街然としていた。
駐輪場の向こうには切り立った丘があった。崖はコンクリートで固められていて、その上には林とマンションが立ち並んでいた。人々の生活のただなかにあ

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