見出し画像

2018/12/11

儚いもののうち、紫煙は好きなもののひとつ。莨は嫌いだが、紫煙を眺めているのは好きだ。奥の席の男が吐いた紫煙が、一緒にいた彼の背中を掠めて、申し訳なく思ったが、甘い香りがした。莨の減りがはやかった。強く吸う人なのだろうと思った。

天井の電気がひとつ、外れていた。不釣り合いに釣り下がった電灯はカメラを向けると眩しかった。

机にはさまざまな雑誌が立てかけられていた。美術書、喫茶店雑誌、地図。ゆるやかに統一されたそれは、誰かの本棚を覗いているような気持ちになった。

いろいろな人の話をした。その間に、いろいろな人が店に入っては出ていった。若い女性の店員が、初めて見る店員だったが、昼食にしては遅い時間にまかないの焼きそばを食べていた。優しい背中だった。

店を出るころには客はほとんどいなかった。外が寒いことを忘れていて、雨が降っていたことは知る由もなかった。

いいなと思ったら応援しよう!