夏を楽しむ

エッセイ集「楽しむマナー」のなかの、
藤原正彦さんの「暑さのマナー」

海外に行ったら、みんなが暑さを楽しんでいたそう。

不思議だったのは誰も暑さをこぼしていないことだった。
30度を優に超す日が何日続いても皆、「ナイス ビューティフル ディ」などと声をかけ合っていた。

全英テニスに出掛けたら、1万人を超す長蛇の列だった。
列の末尾について観察していたら、 炎暑に不平をこぼす者などいないどころか、
皆がうれしそうに談笑したり、アイスクリームを頬張ったりしている。
列が動かなくなると、しびれを切らすどころか、多くの老若男女が芝生の上に寝転びシャツを脱ぎ日光浴を始めた。

次いで訪れたポルトガルのエヴォラでは何と40度だった。それでも人々は、屋根のひさしの下で通りを眺めていたり友人とゲームを楽しんでいた。昼食時のレストランでは、店先に張ったテントの下で食事をとる人が多くいてびっくりした。冷房の効いた薄暗い室内よりも、底抜けの青空、ゆらゆらと燃えるような陽光、時々の熱風とも呼べる乾いたそよ風を浴びながらの方がよいのだろう。

最近暑くなってきて、冷房の室内に避難することばかり考えてたけれど、

私も"ナイス　ビューティフル　デイ"と言いながら、夏を楽しめたらなって思った。

暑いなか、アイスを食べたり、
風鈴の音の心地よさを感じたり、
扇風機やそよ風のありがたさを感じたり、
今しかできないことだからね。

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