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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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「メンテナンスの星の元に生まれた天才」

「メンテナンスの星の元に生まれた天才」

 前回のエッセイでピッキング業者さんの話を書いたが、昔に知り合いのカフェで深夜だけBARのお手伝いをさせてもらっていた時のことを、文章を作りながら思い出した。

 その日お店に行くと、僕と交代になる社員から食器洗浄機が動かなくなり、昼間にそのメーカーの修理担当の業者に来てもらったと聞かされた。
 当時その食洗機はまだ設置してから2年もたっておらず、そんなに早く壊れるのはそもそも食洗機自体に問題があ

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「真夜中のピッキング」

「真夜中のピッキング」

 BARで飲んでいたお客さんが酔っ払い、トイレから出る時にかなり勢いよくドアを閉めたなぁと思っていた。
 その後会計が終わりお客さんがお店を出た後に確認をすると、酔ってトイレから出る際の解錠が中途半端になっていたのか、ドアを勢いよく閉めた拍子に内側から鍵がかかった状態になっていた。
 トイレの扉が開けられない現状に「うん?」と30秒ほど固まってしまい、「おいおいおいおい!これどえらい事態に陥ってん

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「夢の暗示するもの」

「夢の暗示するもの」

 BARでお客さんと話していると夢の話になった。夢に詳しい男性のお客さんがいて、寝ている時に見る印象的な夢は、今の精神状態や近い未来への暗示などであることが多く、夢だからといって馬鹿にできないということであった。
 すると一人の女性客が、昨晩寝ていたら大きな怪物に追いかけられる夢を見て汗びっしょりで目を覚ましたけど、何か不吉なことがあるのだろうかと不安そうに聞いた。
 それは精神的に追い詰められて

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「チラッと読んでみてもいいかも」

「チラッと読んでみてもいいかも」

 ビジネスホテルなど初めての施設では、寝るのが怖くて電気を消せないと告白すると、その気持ちが分かるという者も、あまり気にせず寝れるという者も同じぐらいいた。

 そこで僕が自分の家でも月に二〜三日はなんか怖い夜があって、真っ暗な状態では眠れないことがあると言うと、「それはない」とか「ビビりすぎだ」と馬鹿にされた。
 その中の一人に「じゃあ豆電球点けて寝てるの?」と聞かれたので、「いやそういう時は間

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「花瓶の葬式」

「花瓶の葬式」

 花瓶を割った。

 その花瓶は僕の友人がまだ若く金もない頃に、それでもどうしようもないほどに魅了されて購入したものである。それから十年以上大事に使っていたその花瓶を、友人は僕の働くBARのカウンターに置いてくれと持ってきた。それは友人がもうその花瓶に飽きたとか、もっと高価でいいものを見つけたからという理由ではない。友人は自分の大事な花瓶と、その想いを僕に託したのだ。そして僕は、その花瓶を割った。

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「あの夢の余韻」

「あの夢の余韻」

 久しぶりに足を挫いた。こんなにもちゃんと足を挫いたのはいつ以来だろうか。
 こうして右足首から迫り上がってくる久しぶりの痛みに、哀愁を帯びた懐かしさまで感じている。
 歩いてる途中にちょっと足を捻ったぐらいであればわざわざこうして文章にすることはない。サッカーの試合中に、ファール覚悟の殺人スライディングを食らった時ぐらい足首を挫いたのである。

 その日はお酒を飲んで気分が良くなっていた。先輩に

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「ナンパの極意」

「ナンパの極意」

 東京では梅雨明けが宣言され、いよいよ夏も本番を迎えようとしている。花火大会も、夏祭りも、海開きも、制限を設けないのは4年ぶりとなり、コロナ禍という未曾有の事態を乗り越えて迎える夏は、きっと上昇を続ける気温と共に熱狂的な季節になるのではないだろうか。
 BARの営業終わりに恵比寿の駅前を歩いていても、そこら中を飛び交う声がいつもより軽やかで高らかに響いている気がした。女性達は露出度の高い装いでステ

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「怪談みたいな・・」

「怪談みたいな・・」

 僕がバーテンとして立つ店までは家から電車で二駅分あるのだが、雨が降ってるとか荷物が多いなど、特別な理由がない限りはなるべく歩いて行くように心掛けている。徒歩で四十分以上かかるが運動を目的とした場合はそれぐらいが丁度いい。

 先日いつものように家を出発し、BARの最寄にあたる二つ目の駅近くの横断歩道を渡っていると、向かって来る人波の中から「難波さん!」と声をかけられた。顔を上げると昔ライブで一緒

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「BARカウンターの花」

「BARカウンターの花」

 小さなカウンターだけのBARをやっている。知り合いが飲みに来ればすぐに席は埋まってしまうし、雑居ビルの三階にあるうえ大きな看板も出していないので、初見のお客さんがふらっと入ってくることなど月に一回ほどしかない。たまに初見のお客さんが入ってくると、「えっ?なんか知らん人が入って来たぞ」というBARのマスターとしてはあるまじき驚いた表情を浮かべてしまう。僕のそんな態度に困惑したお客さんも、カラオケ屋

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「#6 口笛を吹いて気まずさが増す」

 若い頃は好きな人達や、気の許せる仲間達と酒を飲んで過ごしていれば良かったけれど、年齢を重ねるに連れそうもいかなくなって来る。
 上司や先輩などに誘われた場にあまり面識のない人がいることもあるし、友人と飲んでいても、「今なんか久しぶりに友達から連絡来てんけどここに呼んでもいい?」とか、「ちょっと難波君に紹介したい人がいるんだけど、ついでに誘ってもいい?絶対気が合うと思うんだよね!」なんてやり取りが

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