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家族のこと

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娘や夫のはなし
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#子育て

秋の参観日

秋の参観日

 朝日とともに窓から入る風が、一瞬するどく腕をなでる。家々の隙間に見える山の一部が秋めいていて、クローゼットから深い赤色のニットを出す。
 行ってきます、と手を振った娘のはねるポニーテールと、「交通安全」の黄色いカバー。もう半年で進級だなんて、娘が産まれてめまぐるしく過ぎる日々は、ただひたすらに駆け抜けてゆく。
 教室の後ろから、まっすぐに黒板を見る瞳を、ぴんとのばした腕を見る。たった数年前の、は

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ふと泣きたくなる話

ふと泣きたくなる話

 木漏れ日が娘の頬に落ちたとき、ふと泣きたくなった。
 じいじいと鳴く声をたよりに枝という枝を見つめてセミを探す。伸びた羽に流れる翅脈は木の幹と同化し、生暖かい風に揺られる葉の影がそれを一層見えにくくする。頭上でけたたましく鳴いているのに目を凝らしても見つけられず、10メートルほど離れた場所にいる娘に目をやる。
 昨年買った麦わら帽子を深くかぶり、先ほどの私よりも長く、まっすぐに枝を見上げている。

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娘の雨傘を買った話

娘の雨傘を買った話

「明日のお天気、雨かなぁ?」
 夜、天井のライトをちいさく灯してベッドへもぐりこむと、もうすこしで4歳になる娘が言う。ぱちり、と大きく瞬きした瞳は、暗闇の中で溢れそうな光をきらりと灯している。こぼれた輝きをまっすぐに受けながら、私の言葉で残念がらせてしまうのがわかって、ちくりと心が痛む。
「明日は晴れるみたいだよ」
 夕方の天気予報でそう言っていたと伝えると、「そっかぁ」と気の無い返事をしたあと、

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振り返った娘と目が合う、5秒前の話

振り返った娘と目が合う、5秒前の話

 両足を投げ出して床に座り、時計を眺めて途方に暮れる。
 規則正しく進む針は、頭の中で数えるよりも随分はやく時を刻む。
 ちく、たく、ちく、たく。
 秒針の音はおおかたそう表現されているけれど、誰もが、いつでもそう聞こえているのだろうか。
 少なくとも今の私にとっては、ちく、ちく、ちく、ちく、と耳の奥へ柔らかい針を打ち付ける音に聞こえる。1秒おきに増えるその針の先から、得体の知れない生あたたかいジ

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2度目の胃腸炎と娘の話

2度目の胃腸炎と娘の話

 ぎりぎりと締めつけられる脳みそに眉がゆがむ。無数の針を持った胃液が、粘膜を突き破って腹まで刺さるようだった。食道は酸で焼けただれ、呼吸で肺が動くたび、絶えず込み上げてくる何かを抑えていた。……と、2週間ほど急性胃腸炎で寝込んだり、スローに生きて滋養していた。
 必要なこと以外は何もせず、うどん、うどん、おかゆ、うどん、の生活がやっと終わり、数日前から自炊をする気力が回復してきた。

 胃腸炎にな

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シャツワンピースを着て試着室で泣いた話

シャツワンピースを着て試着室で泣いた話

 大学生の夏、バイトを終えた足で深夜バスの停留所へ向かった。
 前輪と後輪のあいだにぽっかりと口を開けたトランクルームがある。荷物を預ける乗客が長い列を作っていた。
 運転手が流れ作業のように長方形のトランクケースを次々に投げ入れているのを横目に、乗車口へ向かう。肩からかけたトートバッグはバスの中に持ち込むと決めていた。
 乗車口へ行くと、特有の匂いが充満していた。久しぶりだな、と思いながら数段の

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春に思い出す音がある話

 ソメイヨシノがぷっくりと芽をつけはじめた。
 娘の通う保育園から、卒園式のお知らせが届いた。
 気づけば今年は幼稚園組と保育園組へ別れる年齢だった。娘を含め、半数ほどの園児はそのままひとつ上の学年へ上がる。もう半数は、他の幼稚園へ進級する。その別れと区切りの春、卒園式を執り行うとのことだった。

 お知らせの端に描かれた証書を手渡すイラストに、中学卒業の日を思い出した。中学卒業といっても、中高一

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変わらないものを見つけることの方が難しいのだ、という話

 ほんの数年前、はじめて「わうわ」としゃべったとき、私たちは歓喜した。

 数年前の冬の休日、寒さが和らいだ日はよく散歩をしていた。ブランケットを積んだベビーカーを押し、娘と手を繋ぐ。1歳になる前だった娘は歩くことを覚え、ベビーカーに乗ることを一層嫌がった。大人の手のひらよりもちいさな靴を履き、私の靴よりもちいさな一歩を噛みし目ながら、娘はずんずん歩いた。

 道端に生えた雑草をしゃがみこんで見つ

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砂の中の貝殻と涙の話

 保育園の屋上には園庭がある。
 海がないはずなのに、そこには2ミリ程度の小さな貝殻がたくさんあるらしい。たまに、ビニール袋に入れた小さな貝殻を「かかにおみやげだよ」と持ち帰ってくれる。
 
 はじめて持ち帰ったとき、
「どうして砂場なのに、貝殻があるの?」
と娘に聞かれた。貝殻は、砂場の中にひっそりと埋まっているらしい。
 わからなかったので保育園の先生に伺うと、「砂場用の砂を買うと入ってるんで

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なんでもない日にケーキを買う話

なんでもない日にケーキを買う話

踏んだら痛いことは知っていた。
現に、ジンジンとした痛みが私の足裏に広がっている。

カーテンを開けると、リビングに散乱したカラフルなブロックが色あざやかに映った。惨状を知っていたのに、娘がねむる横ですべてあきらめて目を閉じた昨晩の自分を、苦々しく思う。

重いはきだし窓を開けると、澄んだ空気が足元をすうっとかけ抜けた。
ベランダに出て太陽が差す場所へ手をかかげると、春になりたての光が皮膚の薄皮を

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残したい景色はいつも目の前にあって、嵐のように去る話

残したい景色はいつも目の前にあって、嵐のように去る話

無謀にも、「覚えておきたい」と思う。
人は忘れる生き物なのに。



外に出ると、3歳の娘と私は手を繋ぐ。
玄関を出て、娘は左手を差し出す。目は行く先のみを見ている。
娘の頭の横で宙に浮いている小さな手は、握り返されるのを静かに待っている。その手をぎゅっと掴むと、弾かれたように駆け出す。

待って、早いよ。そう言って、娘の揺れる髪の毛と、きゅっと上がった頬を斜め後ろから見る。喜びが、小さな身体か

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サンタクロースは、まぎれもなく娘なのだ。

サンタクロースは、まぎれもなく娘なのだ。

12月初旬、3歳の娘は悲しんでいた。

「12月になったのに、サンタさん、まだ娘ちゃんのところに来てくれないんだよね」

寂しそうに眉毛を八の字にして言うものだから、私は焦ってアドベントカレンダーを購入した。

毎日1つずつ、この枠をあけるよ。
最後の「24」をあけた日の夜、サンタクロースがプレゼントをくれるよ。

真剣な顔で、うん、うん、と言いながら説明を聞く娘。
紺色のそれを手渡すと、両手でし

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3歳と過ごす秋

3歳と過ごす秋

「はっぱの下に何があるか知りたいんだよね」

そう言って、牡鹿のツノに似た枝を落ち葉の山へ突き刺す。
枝を左右に揺らすと、茶色い葉がカサカサと音を立てた。

ふいに、枝を天に掲げる。

顔を上げて見る枝の先端には、紅い葉が1枚刺さっていた。

「なんだか、お芋食べたくなっちゃうね」



ちょうどいい画像があったので、見出し画像作ってみました。
アルファベットフォントばかりかなと思ったら日本語フ

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夫と娘が紡ぐ、ふたりの時間。

夫と娘は、ふたりきりの時間を大切に過ごす。
そして私の願いの話。



夫は、仕事が休みの土日はもちろん、平日も、できるだけ娘のお風呂や寝かしつけをしたいという。
娘は3歳半。3歳になった頃、夫は突然「男である自分は、どうしても娘と過ごす時間にカウントダウンを感じる」と言った。
一緒にお風呂に入ることも、まくらを並べて寝ることも、あと数年のうちにできなくなるかもしれない。

「大切にしたいんだよ

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