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【書籍紹介】「人の器」を測るとはどういうことか―成人発達理論における実践的測定手法

今回、ご紹介したい書籍はオットー・ラスキー『「人の器」を測るとはどういうことか―成人発達理論における実践的測定手法』(日本能率協会マネジメントセンター)です。

本書の出版には、私にとってご縁のある専門家・実践家の皆さんが何名も参加されています。

本書の監訳をされたのは、これまで数々のオットー・シャーマー『U理論』関連書籍の翻訳及び執筆を務めてこられた中土井僚さん(オーセンティックワークス)

本書の翻訳を担当されたのは、『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』著者であり、サイケデリック学者・瑜伽行唯識学者の加藤洋平さんです。

また、ケン・ウィルバー氏の提唱したインテグラル理論の国内における普及・実践に取り組まれてきた鈴木規夫さん(Integral Vision & Practice)が、本書に推薦文を寄せられています。

オットー・ラスキー『「人の器」を測るとはどういうことか』

今回は、本書『「人の器」を測るとはどういうことか―成人発達理論における実践的測定手法』について、前提となる背景を含めご紹介できればと思います。


国内における成人発達理論の広がり

ロバート・キーガン博士の理論の紹介

日本国内における成人発達理論の広がりは、2010年代以降に顕著に見られるようになります。

2013年にロバート・キーガン『なぜ人と組織は変われないのか(原題:Immunity to Change)』が、2017年に『なぜ弱さを見せ合える組織は強いのか(原題:An Everyone Culture)』が出版されるなど、国内ではハーバード大学教育学大学院名誉教授であるロバート・キーガン博士の理論が先行する形で紹介されてきました。

『「人の器」を測るとはどういうことか』著者オットー・ラスキー氏は、上述のロバート・キーガン博士に師事し、また、組織心理学・組織行動論の権威であり、『プロセス・コンサルテーション』を提唱したエドガー・H・シャイン博士に大きく影響を受けた人物でもあります。

また、中土井僚さんは『なぜ弱さを見せ合える組織は強いのか』の監訳者を務められていました。

『ティール組織』出版以降の潮流

国内のビジネス環境における発達心理学、成人発達理論、人の意識と発達への注目は、フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』の出版をきっかけに加速することとなりました。

10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞した本書は、発達心理学者や意識の研究者の理論を組織の変容・発達に応用してモデル化し、それを紹介した書籍でもあります。

また、2019年には『ティール組織』で引用されていた意識の研究者・思想家の1人であるケン・ウィルバー氏の書籍『インテグラル理論(原題:A Theory of Everything)』が出版されるなど、ビジネスの領域において人の意識と発達の知見が次々と紹介されていく潮流が生まれました。

『ティール組織』出版以降、いわゆる成人発達理論がビジネスの領域に広く紹介されるようになり、安易に人を測定する物差しとして活用される危険性も高まりました。

「その物差しは、一体何を「良し」と判断するための物差しなのか?」
「その物差しは、人や組織の価値を判断するための唯一絶対の物差しなのか?」

上記のような視点が欠けたままでは、物差しは偏った使われ方をしてしまいます。

このような中、鈴木規夫さんはケン・ウィルバーに限らず、ロバート・キーガン(Robert Kegan)ザッカリー・スタイン(Zachary Stein)、スィオ・ドーソン(Theo Dawson)、スザンヌ・クック・グロイター(Susannne Cook-Greuter)といったさまざまな学派、流派に属する研究者たちや研究・実践の潮流を踏まえつつ、実際に対人支援の領域で成人発達理論を活用するとはどういうことかについて、2021年に著書を出版されています。

『「人の器」を測るとはどういうことか』出版の背景

『「人の器」を測るとはどういうことか』の原著である『Measuring Hidden Dimensions: The Art and Science of Fully Engaging Adults』は、2006年に出版されています。

そして、本書を初めて日本語訳して紹介されたのが、先述した加藤洋平さんです。

オットー・ラスキー博士(Dr. Otto Laske)に学んだ加藤さんは初め、『心の隠された領域の測定:成人以降の心の発達理論と測定手法』と題してご自身のサイトでPDF形式で本書を紹介されていました。

2015年3月には、鈴木規夫さんが『心の隠された領域の測定』についての推薦文を寄稿されています。しかし、この時点で出版社を通じての物理書籍の出版には至っていませんでした。

ここから数年後、オットー・ラスキー博士が主宰するInterdevelopmental Institute (IDM)のプログラムに中土井僚さんが参加され、ラスキー博士から「日本の出版社の紹介してほしい」と相談されたことから、『「人の器」を測るとはどういうことか』の出版に繋がります。

『「人の器」を測るとはどういうことか』出版記念企画の開催

私自身が『「人の器」を測るとはどういうことか』を手に取ることとなったきっかけは、NPO法人場とつながりラボhome's viにおいてファシリテーターとして活動していたことです。

フレデリック・ラルー氏とも継続的に対話を重ねる『ティール組織』解説者・嘉村賢州が代表を務めるhome's viにおいて、当時の私はホラクラシー(Holacracy)という組織運営法の実践やワークショップ運営、海外の企業事例の紹介などに取り組んでいました。

ホラクラシーの探求の文脈から中土井僚さんとの、成人発達理論をはじめとする探求の文脈から鈴木規夫さん・加藤洋平さんとのご縁をいただき、昨年から今年にかけては「人としての器」研究チームとIntegral Vison & Practiceの定期的な会合をご一緒していました。

そして、今年4月。これまでのご縁を紡ぐ形で『「人の器」を測るとはどういうことか』出版記念企画を実施し、私自身はこの企画の全体設計・運営として携わることができました。当日の対話の様子は以下からご覧いただけます。

本書は出版から3週間で重版となり、今回の出版企画も120名近くの方のお申し込みをいただくなどその注目度の高さを感じていました。同時に、複数の団体、研究機関、実践者が一堂に会しての多面的な視点による探求も不可欠に感じていました。

ゲストの僚さんには、なぜ本書はこれほど注目を集めているのか?その社会背景や文脈は?といったテーマを問いかけ、『Measuring Hidden Dimensions』を『「人の器」を測るとはどういうことか』と訳した背景を伺えた他、本書を日本語で紹介するにあたっての僚さんの願いに触れることができました。

また、なぜコーチングからオットー・シャーマー博士のU理論、組織開発、そして成人発達理論へと探求領域を広げてこられたのかついてもお話の中で伺うことができ、今回の出版記念企画は僚さんの探求の旅路の一端を知る貴重な機会にもなったように思います。

後日、一連の出版記念企画を終えての僚さんの監訳者としての所感が以下のnote記事にてまとめられています。。書籍の出版や編集に関心のある方にも是非一度、ご覧頂きたい内容だと感じました。

2024年6月追記

終わりに

以上、オットー・ラスキー『「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法』について、本書を取り巻く文脈や経緯、私自身の実践も踏まえつつまとめてきました。

「人の発達を測定するとはどういうことか?」
「コーチやコンサルタントにはどのような姿勢・あり方が求められるか?」

このようなことを考える上で、本書は多くの示唆や発見をもたらしてくれるように思います。さらに詳しくご覧になりたいという方は、ぜひご一読を。

以下の参考リンクも、ぜひご覧ください。

さらなる探求のための参考リンク

5/21 (火)自律型人材を育てたいのに上手くいかないままなのは何故なのか?~成人発達測定に見る、自律型人材育成に失敗する共通点~

『人の器』を測るとはどういうことか?―中土井僚

人の「器」は測定可能か?―人と組織が育つ本/JMAM(日本能率協会マネジメントセンター) 出版部

【新刊書籍のご案内】「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法―加藤洋平(サイケデリック学者・瑜伽行唯識学者)

IVAPライブ24.03.06 〜『「人の器」を測るとはどういうことか』〜


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