【振り返り記録】今年2023年から開始した、毎月実施×少人数制の「この指止まれ」読書会を振り返る
今回は、私が今年から始め、毎月実施してきた少人数制の「この指止まれ」形式の読書会の振り返りを行おうと思います。
毎月一度、『これらの書籍のどれか一冊を選んで、読書会をしませんか?』と、毎回4冊の書籍を候補に挙げてSNS上で呼びかけ、希望者が集まった書籍について扱う読書会を実施する試みを、今年5月から始めてきました。
今年5月から始め、現在12月に至るまで延べ15回、参加人数はメンバーもその都度入れ替わりつつ、延べ79名にご参加いただきました。
読書会で取り上げた書籍は、以下のようなものです。
以下、扱った書籍に出会った背景や、そもそもなぜ毎月の読書会を思い立ったのか?読書会を継続する中で見えてきた気づきなどについてまとめてみようと思います。
本記事は今年行った読書会全体の総括と、各読書会での気づき・学びの振り返りをまとめているオムニバス形式のような記事となっており、大変文量が多くなっています。
そのため、気になる項目へ目次から飛んでいただくことも推奨しておりますが、もしお時間ある方は全体に目を通していただけると幸いです。
読書会そのものについての振り返り
開催のきっかけ
現在、私は生業として組織変革のファシリテーション、イベントや研修でのワークショップの実施、新しい働き方・組織づくりに関する調査と執筆といったことに取り組んでいます。
4世代家族の長男として生まれ、家業(米作り)も継いだという経緯も相まって、『世代を超えて豊かに育っていく関係性、組織・社会の仕組みづくり』をめざして日々、活動に取り組んでいます。
その中で、人と人との協力関係をいかにうまく築いていくか?という観点から、対話、ファシリテーション、組織づくり、経営に関するさまざまな流派での知見や実践事例を学ぶと同時に、個人、組織、コミュニティへと紹介してきました。
しかし、これらの知見を広く世の中に届けていくためには、所属や業界の垣根を超えてこれらの哲学、技術、知識体系、事例を分かち合う機会を改めて増やしていく必要があると感じるようになりました。
私自身、日本語、英語など言語の違いを問わず、『人の創造性やポテンシャルを発揮するためのアイデア』に関して日々情報を集めており、本を読むのも好きなタイプです。
そして、私自身が何年も語り継いでいきたいと感じる大切な知恵が詰まった本を、興味関心の合う仲間たちと時間をかけて丁寧に読み込み、対話することの重要性を感じるようになりました。
こうした背景が、「この指止まれ」読書会を始めたきっかけです。
興味関心の合う仲間たちも、それぞれに仕事や家族、その他の活動に集中したいと感じるときや、するべきタイミングもあります。
そんな彼ら彼女らの日々や、いざ「学ぼう」となった際の熱意・エネルギーを大切にするために、毎月継続という形は取りつつ、「この指止まれ」のように毎回参加表明をもらう形で実施することとなりました。
最終的にどのようなメンバーで読書会当日を迎えられるのかは、主催となる私自身もわかりません。
参加表明のあった人も急用によって参加できなくなったり、逆に当日滑り込みのように参加表明があったりと、読書会が開催されるまでにそのような目まぐるしい人の入れ替わりを何度も体験しました。
結果的に、ほぼ毎回、違った顔ぶれのメンバーが揃うユニークな取り組みになったように感じます。
2023年、読書会で扱った書籍
改めて、今年開催した読書会で暑かった書籍は以下のようなものです。
選書の基準としては、私がこれまで学び、まちづくりや企業・団体に対して実践してきた対話の場づくり、ファシリテーション、組織づくりといったテーマのものを扱うこととしました。
それぞれ扱った書籍は以下のリンクからアクセスすることができます。
読書会の運営方法
読書会の運営方法は極力、プログラム的な要素は削ぎ落とし、シンプルに対話を重視した構成を行おう、という方針を意識しつつ運営方法を考えることとなりました。
まず、以下のようなオンライン上のシートをJamboardで準備しました。
読書会を始める前の準備として、画面左側の付箋のテーマに触れつつ、初めの一言を1人ずつ話してもらいます(チェックイン)。その後、「今回の読書会で話し合いたいテーマ・気になったこと」について書き出しの時間を設けます。
テーマを書き出した後は、参加者の皆さんのエネルギーの高いところから対話・探求を進めていくことにしました。そして、必要があればその都度付箋でメモなどを書き足していきます。
読書会の最後は、1人ずつ今回の感想を話す時間(チェックアウト)を取り、終了となりました。
一回あたりの読書会の時間は90分ほどです。
また、読書会を継続する中で徐々に、この90分間を「テーマについてざっくばらんに対話する前半部」と「読書会の学びの中で、何を持ち帰るか?に焦点を当てて話す後半部」にうっすら分けて進行するようにシフトしてきました。
なお、一回の読書会の度に振り返りの記録を自分なりに書き残す、ということも徹底して行ってきました。それは、先述した『人の創造性やポテンシャルを発揮するためのアイデア』をより広く届けるための一環でもあります。
もしよろしければ、以下のリンク先もご覧ください。(記録の際、対話に参加した皆さんのプライバシーを守るため、個人を特定できるような情報については改変などを加えています。)
ここからは、実際にそれぞれの書籍を扱った読書会の振り返りを、2023年12月になった現在の地点から行なっていこうと思います。
『対話型ファシリテーションの手ほどき』
対話型ファシリテーションとは?
『対話型ファシリテーションの手ほどき』は、認定NPO法人ムラのミライ(旧団体名:ソムニード)が開発したメタファシリテーション®を学んだ際に紹介いただいた一冊です。
対話型ファシリテーションとはメタファシリテーション®︎の別名であり、ムラのミライでは以下のように紹介されています。
このメタファシリテーション®︎を紹介している書籍として、『途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法』があります。
『対話型ファシリテーションの手ほどき』は、メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)について身近な事例を交えた入門書と言えるものです。
本書について詳しくは、以下の読書記録もご覧ください。
読書会を通じての学び
何より、この形式(少人数×「この指止まれ」式の参加者募集×毎月実施)で初めて開催した読書会であり、とても思い出深い会です。
今回扱った『対話型ファシリテーションの手ほどき』は、人々が目的に向かってコミュニケーションを行う際に起こりがちな誤解や思い込みを解き、現実的で地に足のついた対話や議論を可能にする方法が紹介されています。
しかし、数年前に初めて知った本書はここ最近では話題にも出ず、テーマとしても扱われることが私の周囲では少なくなっていました。
潜在的な、この本を読み返したいというニーズが高かったのか、本書を初めの候補本に取り上げたとき最も参加表明が多かったことも印象的です。
そもそも、ファシリテーションというものはどういうものか?それについて短くとも本質的なテーマに触れている本はどれか?となった時、思い当たった本でしたので、実際に読書会を開催できた時は嬉しかったですね。
その際の記録は、以下もご覧ください。
『対立の炎にとどまる/プロセスワーク入門』
アーノルド・ミンデルとは?
アーノルド・ミンデル(Arnold Mindell)は、プロセス指向心理学(Process-Oriented Psychology)、また、それらを対人支援・対集団支援へ活かしたプロセスワーク(Process Work)の創始者として知られる人物であり、『対立の炎にとどまる(原題:Sitting in the fire)』の著者でもあります。
1940年1月1日にアメリカ・ニューヨーク州生まれのアーノルド・ミンデルは、アーニー(Arny)の愛称で呼ばれ、現在はパートナーのエイミー・ミンデル(Amy Mindell)と活動を共にしています。
幼少期の経験について、ミンデルは以下のように述べています。
その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で工学と言語学、大学院では理論物理学を学んでいたミンデルは、留学先のスイス・チューリヒでユング心理学と出逢います。
1969年にユング派分析家の資格を取得したミンデルは、ユング派が得意とする個人が見る夢の解釈のあり方を広げ、それを身体、グループ、世界へと展開していきます。
その考えはユング心理学の枠組みを大きく超えたものであり、1991年にアメリカ・オレゴン州に拠点を移したミンデルは、プロセスワークセンターを設立します。(下記リンクは、現在の組織体であるProcess Work Insutitute)
これ以降、ミンデルはタオイズムや禅といった東洋思想、シャーマニズムの概念を援用しながら自身の考えを語るようになりました。
アーノルド・ミンデルの思想との出会い
私とアーノルド・ミンデル氏の初めての出会いは、 廣水 乃生さんが講師としてやってきた『場づくりカレッジ』という場づくり・ファシリテーションを学び、実践するプログラムでした。
その際に初めて私は、人の集団では表面的なやりとり以上に非言語の、明確化されていないメッセージのやりとりが行われていること、そのような場をファシリテーションするとき、ファシリテーターはそのダイナミクスの構造を捉え、違和感やメッセージに対する自覚を高める必要がある、といったことを体系的に学んだと記憶しています。
その学びに何か確信的なものを感じたのか、以降私は『紛争の心理学』『ディープ・デモクラシー』と、どんどん日本語訳されたミンデルの書籍を手に取り、それらの原著も取り寄せるまでに至ります。
ところで、どうして原題は『Sitting in the Fire(炎の中に座る)』なのでしょうか?
そのような問いを持ってみると、同じようなタイトルの本も見つかるではありませんか。ラリー・ドレスラー著『Standing in the Fire(邦題:『プロフェッショナル・ファシリテーター』)』です。
2017年以降、私は組織・集団のプロジェクトや、ワークショップを運営するファシリテーターを生業としてきました。
その中で、グループ内の葛藤や対立が深まる中で一触即発の場面や、暴力性が噴出するような場面にも遭遇してきました。
そのような時、ファシリテーターとしての私は文字通り炎に焼かれるような緊張感、緊迫感、存在を揺さぶられるような危機感に身を置かれます。
それでも、そんな中でも、対立を超えたその先に、より良い未来を描きたい…と願い、自分の存在を投げ出すような覚悟と決心を持って場に臨み、真摯にファシリテーターとしての役割を全うする。
そのような体験で感じていたものが、『炎』ではなかろうか、というのが私の仮説です。
初めての邂逅以来、アーノルド・ミンデル氏が創始したプロセス指向心理学、プロセスワークを実践するプロセスワーカーの方々とも出会い、対話を重ねてくる中で今ここに至りますが、『紛争の心理学』は2022年12月に『対立の炎にとどまる』として復刊され、再び本書と縁が結ばれました。
また、今回の読書会を思い立つ前に、本書の出版直後、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)という読書会が連続企画として開催され、私もその場にも参加しておりました。
※全3回シリーズの『対立の炎にとどまる』ABD読書会の第1回、第2回、第3回の参加記録はリンクを、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)については以下も参考までにご覧ください。
読書会を通じての学び
『対立の炎にとどまる』は、読書会の回数にして最も多く扱うこととなった書籍です。
※第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回の「対立の炎にとどまる」読書会の開催記録は、リンクを、第2回の読書会をきっかけに生まれた「プロセスワーク入門」読書会は以下をご覧ください。
それだけ、人間関係や組織で働く中での葛藤・対立をいかに扱うか?ということがより多くの人にとって興味深いテーマであったのかもしれません。
この読書会をきっかけに久しぶりに再会した友人と共同開催となったことで、会の実施そのものも安定し、毎月の取り組みとして長く続いていくこととなりました。
毎月増えていくJamboardも気付けば以下のようにナレッジとして積み重なっており、今年最後に実施した回ではこれらを踏まえながらじっくり対話する時間となりました。
上記のように、同じ書籍を何度も読書会で扱っても参加者の構成によって毎回違ったテーマが扱われ、回を重ねるほど情報がデータとして蓄積されることで、友人との主催チームは徐々に研究会のような趣となっていったことも面白い経験でした。
オンライン読書会の形式であっても緊張感が張り詰めるような場面や感極まる場面が見られたことなども、『対立の炎にとどまる』読書会で得られた大きな学びです。
たとえオンラインであっても、人の感情に触れ、時に揺さぶり、それを参加者皆で丁寧に扱うプロセスを実現できるのだ、という体験は、人と人が集って対話することの限界を広げることができたように感じました。
『ホラクラシー/愛、パワー&パーパス』
ホラクラシー(Holacracy)とは?
ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。
フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。
ホラクラシーは、2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。
Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。
ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。
ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。(可視化ツールは他にもHolaspiritというサービスも国内では多く活用されています)
ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。
このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。
さらに詳しくは、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版の解説者である吉原史郎さんの以下の記事及び、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。
私自身のホラクラシー実践について
私自身が、この新しい組織運営のあり方について関心を持ったのは、2016年の秋から冬にかけての頃でした。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスは、フレデリックラルー著『Reinventing Organizations(邦訳名:ティール組織)』にインスピレーションを受け、新しいパラダイムの働き方、社会へ向かうために世界中の実践者が学びを共有し、組織の旅路をサポートしあい、ネットワーク構築を促進することができる場として催されました。
いち早く日本人として参加していた嘉村賢州さん、吉原史郎さんといった実践者たちは、この海外カンファレンスの報告会を開催することとなります。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD』の報告会は、2016年10月19日に京都、10月24日、25日に東京にて開催され、嘉村賢州、吉原史郎の両名は組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
※日本におけるフレデリック・ラルー『ティール組織』出版は2018年1月24日。
これ以降、当時、私が参加していた特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『ティール組織』探求を始め、同年2016年11月以降、『Reinventing Organizations』の英語原著を読み解く会も始まりました。
また、2017年6月以降はhome's vi自体をティール・パラダイム的な運営へシフトするため、『ティール組織』で事例に挙げられていた組織運営法であるホラクラシーの導入を行う運びとなりました。
当初は、NEXT-STAGE WORLD以降、嘉村賢州さんらとコミュニケーションしてきたメンター、ジョージ・ポー氏(George Pór)にご協力いただき、またミーティング・プロセスの伴走はホラクラシーの実践を深めていた吉原史郎さんに参加してもらうことで進めていきました。
私自身は2017年7月以降、ホラクラシー(Holacracy)のファシリテーターとして実践を積み始めました。
これ以降、私にとっての新しいパラダイムの組織づくりの探求は、ホラクラシーを軸に進んでいきます。
2017年11月、2018年8月には、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、いち早く関心を持たれた国内の実践者の皆さんと海外の知見を分かち合う機会を持つことができました。
2019年9月には、ホラクラシーの開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のトレーニングにジョインし、そのエッセンスや源泉に触れることを大切にしてきました。
この間、さまざまなラーニング・コミュニティやプロジェクトチームが立ち上がり、それらのプロジェクトメンバーの一員として参加する過程で、ホラクラシー実践におけるファシリテーションや組織の仕組みづくりについての実践を積み重ねてくることができました。
読書会を通じての学び
『ホラクラシー』という組織運営法は、現在の私を形作る大きな要素となっており、本書や著者、海外の実践者の皆さんから学んだ知見は、現在の私の組織づくりの支援などにも活かされています。
元々、私がhome's viという団体で探求および実践していた『ティール組織』という新しい組織運営・経営のコンセプトの中で、最も強く惹かれたのがホラクラシーでした。
しかし、初めて知った2010年代後半には、書籍の旧版が絶版状態となっており、長い間一般の人々はその知見に触れるチャンスが少なく、私自身は著者に学びにオランダへ飛ぶこととなりました。
そして今年2023年6月、ついに新訳版書籍が英治出版より出版されることとなったのは、私にとっても大きな喜びでした。
『対話型ファシリテーションの手ほどき』でも扱っていた、人と人のコミュニケーションで起こりがちや解釈の違いや思い込みによるボタンのかけ違いを解こうという試みが、ホラクラシーにおいては仕事や組織運営において実践されます。
そして、日々の状況の変化に応じて、組織としての目的実現のために柔軟に組織構造すらも作り替えていくということにもチャレンジすることとなります。
こういったことを分かち合うにはとても時間が足りなかったのですが、それでも、興味関心のある方それぞれが、どのような背景から本書に関心を持ったのか?その中で、この知見を日々にどのように活かしていけるだろう?という対話は、他の読書会にない熱量が伴ったことは事実です。
読書会の流れとは別ですが、同時発生的に私のかつての師であり、現在は海外に住む友人のような存在であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏の書籍の邦訳出版が今年8月にありました。
ヨーロッパを中心にホラクラシーの知見を組織に伝えてきたコンサルタントであり、コーチであるクリスティアーネですが、ご縁あって彼女のパートナーである日本法人NexTreams株式会社と共同で、読書会を実施する運びとなり、この会には20名の参加者が集ってくださりました。
毎月開催している読書会の特別版、スピンオフのような企画でしたが、この会は先述のABDという形式で行い、より多くの皆さんと同じ本を題材に対話をしていくこともできました。
後日、東京の会場でクリスティアーネとも再会することができたのですが、言語の壁も超えて互いの現在地や探求を分かち合えたことは嬉しい出来事でした。
彼女との出会いがなければ、私は言語の壁を超えてオランダまでホラクラシーのトレーニングに参加しようとは思わなかったでしょう。
再会できた瞬間、思わずハグして、「本当に久しぶり。会えて嬉しいよ」と数年越しに伝えることができました。
『すべては1人から始まる』
トム・ニクソン『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』の中で紹介されているソース原理(Source Principle)の探求は、2019年に開催された、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏の来日イベント『Teal Journey Campus』に遡ります。
この時、私はhome's viという団体のメンバーとして、この企画の運営スタッフとして参加していました。
2019年の来日時、フレデリック・ラルー氏は組織におけるソース(Source)という概念について、その場に集まったビジネスリーダーや起業家、経営者、コンサルタントに紹介し、組織や経営、リーダーシップの領域で知られることとなりました。
その際の記録は、『ティール組織』解説者である嘉村賢州さんのブログに残されています。
上記のブログ記事から、『ソース(Source)』に言及されている部分を参照してみましょう。
私の探した限り、『ティール組織』探求の文脈の中で『ソース(Source)』について言及されたのは、この時が初めてのように思います。
以下、このソース(Source)とはどういったものか?を紹介しつつ、ソース(Source)の概念を扱った書籍がどのように私と交わり、読書会実施に繋がっていったのかもまとめていければと思います。
ソース原理(Source Principle)
『ソース原理(Source Principle)』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。
2022年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。
今年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。
さらに、『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、少しずつソース原理(Source Principle)の知見は世の中に広まりつつあります。
日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)『A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。
その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著『Work with Source』が出版されました。
ソース原理にまつわる潮流は、このような背景を持ちます。
ソース(Source)
トム・ニクソン『Work with Source(邦題:すべては1人から始まる)』を参照すると、ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を意味しています。
また、本書中の用語解説では、『脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと』と説明されています。
ステファン・メルケルバッハ氏の書籍においては、この役割を担うことになった人について、特に「ソース・パーソン(source person)」と呼んでいます。
トム、ステファンの両者に共通しているのは、ソース(Source)は特別な人だけがなれる役割ではなく、誰もがソース(Source)である、というものです。
アイデアを実現するために一歩踏み出すことは、社会を変えるような大きなプロジェクトの立ち上げに限りません。
友人関係や恋人関係、夫婦関係などにも、誘ったり、告白したり、プロポーズしたりと主体的に関係を結ぼうと一歩踏み出したソース(Source)が存在し、時に主導的な役割が入れ替わりながらも関係を続けていく様子は、動的なイニシアチブと見ることができます。
さらに、自身の研究課題を決めること、就職を思い立つこと、ランチを作ること、休暇の予定を立てること、パートナーシップを築いていくこと等、日常生活の様々な場で誰しもが何かのソース(Source)として生きていることをトム、ステファンの両者は強調しており、日常生活全般にソース原理(Source Principle)の知見を活かしていくことができます。
読書会を通じての学び
先述のように、私は『すべては1人から始まる』出版前にソースの概念に触れる機会があり、そこから体系的にこの知見について紹介してくれる書籍の出版の機会を待ち望んでいました。
そして、株式会社令三社によるトム・ニクソン『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』の邦訳出版プロジェクトの立ち上がりとほぼ同時期に、循環グローバル探求コミュニティという有志のコミュニティに参加し、そこで初めて著者のトムと対面する機会を得ました。
著者のトムとの対話、そしてソース原理(Source Principle)に関する学びは、人生の大きなトランジションを迎えていた当時の私に深く突き刺さり、この知見は自分の人生を生きていこうとするすべての人にとって役立つ叡智だと感じました。
その後、私は『すべては1人から始まる』の出版以降も折に触れて、この知見の紹介に携わってきました。
『すべては1人から始まる』の日本の人事部「HRアワード2023」入賞記念企画のレポートや、ソース原理の提唱者ピーター・カーニック氏の来日企画のレポートと並行し、本書を扱った読書会も実施することにしたのです。
今年開催した読書会の中では、同じ書籍を扱ったものとして最も開催数の多い4回実施することができ、第1回、第2回、第3回、第4回の開催記録もリンク先からご覧いただけます。
読書会の中では、そもそも自分自身がソースとして活動した実感や経験はどのようなものがありそうか?という、実体験にフォーカスした対話が盛り上がることがわかりました。
このソース原理に関する探求は現在もエネルギー高く取り組めており、来年1月にはトム・ニクソン『すべては1人から始まる』の他にもう一冊の、『A little red book about source』の著者ステファン・メルケルバッハ氏が来日することが決定しており、以下の企画にも参加していく予定です。
『敵とのコラボレーション』
本書を扱う読書会を企画したきっかけは、先述のソース原理(Source Principle)を探求・実践していたことが直接のきっかけです。
私は縁があって邦訳前に原著の『Work with Source』と著者のトムに出逢うことができ、このソース原理(Source Principle)というアイデアはその後の私の人生を大きく変えました。
『あるアイデアの実現に向けて動き始める際に感じる「自分が無防備になるリスク」を感じつつ、最初の一歩を踏み出して行動する個人』を『すべては1人から始まる』ではソースと呼びますが、このソースとして活動していく中で重要に感じられた要素の一つが『敵とのコラボレーション』でした。
自分の思い描いたアイデアを実現しようとする、それも、より大きな規模や範囲に影響を及ぼすものに取り組みたいと思った時、アダム・カヘン氏の言う『賛同できない人、好きではない人、信頼できない人』とも時に協働する必要が出てきます。
そんな時に改めて探求しようと思ったのが今回、読書会で取り上げる『敵とのコラボレーション(原題:Collaborating with the enemy)』だったのです。
アダム・カヘン氏のこれまでの歩み
アダム・カヘン氏(Adam Kahane)は現在、人々が最も重要かつ困難な問題に対して共に前に進むことを支援する国際的な社会的企業であるレオス・パートナーズのディレクターを務められています。
レオスは、互いに理解、同意、信頼がない関係者の間でも、最も困難な課題に対して前進できるようなプロセスを設計・ファシリテーションを実施し、アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカ、オーストラリアなどでセクター横断的な対話と行動のプロセスの支援を実践されています。
カナダ・モントリオール出身、ミドルネームをモーセ(Moses)というアダム・カヘン氏は、1990年代初頭にロイヤル・ダッチ・シェル社の社会・政治・経済・技術に関するシナリオチームの代表を務め、その頃に南アフリカの民族和解を推進するシナリオ・プロジェクトに参画しました。
以降、これまでに世界50カ国以上において企業、政府、市民社会のリーダーが協力して困難な課題に取り組むプロセスを整え、設計、ファシリテーションを行なってきた第一人者です。
1993年、後にU理論(Theory U)、Uプロセスを発見することになるジョセフ・ジャウォースキー氏(Joseph Jaworski)、オットー・シャーマー氏(C.Otto Scharmer)らとジェネロン社での協働が始まった他、学習する組織(Leraning Organizations)で有名なピーター・センゲ氏(Peter Senge)の立ち上げたSoL(Society for Organizational Learning)として登壇するなど、現在の組織開発における様々なキーパーソンとのコラボレーションを行なってきた人物でもあります。
今年3月には氏の5冊目の書籍である『共に変容するファシリテーション(原題:Facilitationg breakthrough)』出版に合わせて来日された他、7月には氏の処女作である『Solving Tough Ploblems』が『それでも、対話を始めよう』という新訳版として英治出版から出版されるなど、日本にいる私たちにも積極的にメッセージを伝えてくださっています。
アダム・カヘン氏と私の出会い
私とアダム・カヘン氏とのご縁は、まだファシリテーションというものに出会って間もない2013年に遡ります。
友人の1人が、氏の初めての書籍である『手ごわい問題は対話で解決する(原題:Solving tough ploblems)』を紹介してくれたことが始まりです。
『本当に、タフな問題を「対話」で解決できるの?』と紹介してくれた友人は語っていましたが、そこに書かれていたカヘン氏の事例やプロセスは衝撃的なものばかりでした。
また、2014年にはアダム・カヘン氏3冊目の著書となる『社会変革のシナリオ・プランニング(原題:Transformative Scenario Pranning)』が出版され、その際に東京で開催された出版記念ワークショップの会場で初めてお目にかかりました。
後に、私が京都を拠点とするhome's viに所属してからも、メンバー同士や組織を超えた研究会などで何度も話題に出ては、意識し続けてきた存在です。
今年3月に来日された際には本当に久しぶりに再会することができ、書籍の出版に関してのあれこれや、彼のファシリテーターとしてのあり方、最新の研究・実践についても伺うことができました。
読書会を通じての学び
本書の中でアダム・カヘン氏は、対話が常に最善の解決策ではないとし、コラボレーションが活きるシチュエーション、その他の方法の方が適切なシチュエーションなどを事例も交えて紹介してくれています。
そして、その事例は家族のトラブルから、対立勢力が集う国の未来を占うプロジェクトまで大小様々です。
読書会では、私たちが直面した身近な対立を扱い、それらについてどのように対処できそうだったのか?現在進行形のものがあれば、それらをどう扱っていけそうか?についての対話が展開されました。
対立や葛藤をいかに扱うか?という観点は『対立の炎にとどまる』でも扱いましたが、本書『敵とのコラボレーション』では、その対立や葛藤をどう見立てるか?どのように扱えるか?のモデルを提示しています。そして、自分が本当に実現したい状態に照らして、選択肢を提示してくれています。
これらの知見は私たちが見ているものが正しいとは限らず、様々な視点が存在する中でどのような選択がより大きな目的実現につながるか?を考えるきっかけを与えてくれるものであり、複雑性・多様性が増す今後の社会でも必要となる物事の捉え方のように思われます。
本書を扱った読書会は、ここまでまとめてきた一連の読書会の中で、今年最後に開催した読書会となりました。
ここまで開催してきた読書会や、扱ってきた書籍1冊1冊、出会ってきた方々との対話の1つ1つが意味を持ち、繋がり、私に何かメッセージを与えてくれているように思います。
最後に、この一連の読書会についてまとめ終えての心境を書き綴っていこうと思います。
振り返りを終えて
この記事の冒頭に、今年5月から始め、現在12月に至るまで延べ15回、参加人数はメンバーもその都度入れ替わりつつ、延べ79名にご参加いただいたと書いていましたが、その豊かさを改めて実感できたような気がします。
毎月行ってきていた「この指とまれ」読書会は、そもそも私自身のこれまでの約10年に及ぶプロセスという土台があり、その中から生まれてきた試みである、ということも改めて確認することができました。
人生の旅路やトランジションといった紆余曲折を経て、私の活動の方針は『人や組織のポテンシャルをより良く発揮していける叡智を次世代へ受け継ぎ、文化として育んでいく』というものに再定義され、現在はこの方針に従って様々な活動に取り組んでいます。
最近では特に書く・発信するという活動にも焦点が当たっていますが、それはある対話の場で出てきた以下のような思いも手伝って、その思いは一層強くなってきています。
現在、私がこれまで書き残してきた記事や記録から新たに執筆その他の相談をいただくことも増えてきており、私自身も制作に携わらせていただいたwebメディアもつい先日、新たに公開されました。
書いてまとめ、情報発信すること。
一人ひとりとじっくり対話の機会を持つこと。
実際の現場で、修羅場や対立・葛藤に直面すること。
大きなビジョンを描き、少しずつ仲間を増やして分かち合うこと。
などなど、これまで断片的に行ってきていた私の活動が、この読書会を立ち上げて継続してきたことで、少しずつ繋がってきたような実感もあります。
改めて、豊かな時間を共にできた皆さんに感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。
来年、2024年以降はこれまで積み上げてきた活動をさらに前進させていくことに加え、『大きなビジョンを描き、少しずつ仲間を増やして分かち合うこと』にもより注力しながら取り組んでいければと感じております。
これに関して、私が探求を始めているテーマとして、『コレクティブ・インパクト』というものがあります。
コレクティブ・インパクトとは、2010年代初頭から世界中に広まった新しい社会変革のアプローチであり、私がこれまで探求と実践を続けてきたファシリテーションや組織づくりを、1つの組織を超えてより広い共同体や社会全体に活かしていく上で重要になるアイデアだと私は考えています。
今年やったような少人数制の読書会形式が良いのか……
継続的なメンバーを募って研究会・探求会のような形を模索していくのが良いのか……
現時点では私も考え中ですが、年明け以降はこのアイデアを分かち合い、切磋琢磨していけるような仲間づくりといったところにまず焦点を当てていければと感じます。
ここまでこの記事を読んでくださった方の中で興味があるという方ももしいらっしゃれば、ぜひご連絡いただけると幸いです。もし、何かアイデアなど思いつかれましたら是非お話ししていきましょう。
この記事自体もまた、何か読んでいただいた皆さんにとって新たな気づきや探求のきっかけとなれば幸いです。
さらなる探求のための参考リンク
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