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読書日記 歴史、社会、経済

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歴史・社会・経済についての本を紹介します。
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「世界の終わり」の地政学 上 ピーター・ゼイハン 著 集英社

「世界の終わり」の地政学 上 ピーター・ゼイハン 著 集英社

原題は、「The End of the World is Just The beginning」です。物騒ですねぇ。
今回は、その上巻についてです。
上巻の目次は、
第1部 一つの時代の終わり(始まりは、いかにして始まったのか?;偶然の超大国アメリカ;流れをがらりと変えたもの ほか)
第2部 輸送(長い道のり;制約からの解放―輸送を工業化する;アメリカナイズされた交易 ほか)
第3部 金融(通貨―

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「デジタル生存競争」 ダグラス・ラシュコフ 著 ボイジャー

「デジタル生存競争」 ダグラス・ラシュコフ 著 ボイジャー

著者の考えによれば、少数の富裕層やデジタルエリートたちは、世界の富のほとんどを所有しています。彼のマインドセットは、指数関数的な成長を信じ、壁にぶつかったらそれを乗り越える技術が生まれると信じているように見えます。

AIがいろいろな問題を解決してくれるかもしれません。でも、AIには莫大な電力が必要なのです。

しかし、例えば、「電力の大部分を再生可能エネルギーによって賄うためには、風力発電や太陽

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「戦争の値段」 加谷珪一 著 祥伝社黄金文庫

「戦争の値段」 加谷珪一 著 祥伝社黄金文庫

軍事にはお金がかかります。平時でも、原子力空母1艘につき年間800億円の費用がかかり、しかもメンテナンスのため、「原子力空母は1年のうち半分程度しか稼働できない(p.53)」とのことです。

実際に戦争になると、大変なお金になります。例えば、日本の軍費/CDP比は、日清戦争0.17、日露戦争0.6、日中戦争・太平洋戦争8.8(p.31)です。そして、経済体力を無視した戦費調達を実施すると、ほぼ確実

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「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」 野口悠紀雄 著 幻冬舎新書

「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」 野口悠紀雄 著 幻冬舎新書

10年以上前、政府の幹部2人が、2%の物価上昇を目標にすると言ってにこやかに微笑んでいる画像を見て、僕は強い違和感を持ちました。物価の上昇は結果的に起こるもので、目標とすべきものではないと考えたからです。

本来であれば、生産性が上がり、企業業績が好転し、賃金が上昇し、物価が上がると言うのが順とうな流れです。それであれば、景気が良くなったと言えます。

しかし、物価は上がっていますが、実質賃金は下

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「日本史 不適切にもほどがある話」 堀江宏樹 著 王様文庫

「日本史 不適切にもほどがある話」 堀江宏樹 著 王様文庫

安直に流行りに乗ったのかなと思われるようなタイトルだったのですが、意外に?真面目に書かれている本です。

特にお金の面での記述が面白い。

武田信玄は、精強な騎馬軍団を持っていたのですが、その軍団を維持できたのは厳しい税制があったからではないかとのことです。「武田家が人民に課した「棟別銭」の税額は全国平均より約2倍も高かった(p.126)」とのことです。棟別銭とは、今で言う固定資産税のようなものだ

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「日本合戦譚」 松本清張 著 文春文庫

「日本合戦譚」 松本清張 著 文春文庫

この本に書かれているのは、長篠合戦、姉川の戦、山崎の戦、川中島の戦、厳島の戦、九州征伐、島原の乱、関ヶ原の戦、西南戦争。

その中で、やはり関ヶ原の戦は興味深いです。

家康側、三成側、それぞれGood Pint、Bad Pointがあります。整理してみました。
家康側Good Pint

加藤清正、黒田長政、細川忠興、福島正則、加藤嘉明、浅野幸長、池田輝政など、いわゆる七将は、三成が軍目付と謀っ

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「今村均」 岩井秀一郎 著 PHP新書

「今村均」 岩井秀一郎 著 PHP新書

今村均陸軍大将は、素晴らしい人だったのだと思います。大東亜戦争(太平洋戦争)開戦時に第十六軍司令官として活躍し、最後は要衝ラバウルで第八方面軍司令官として終戦を迎えた陸軍大将です。

インドネシアにおいて、今村の指揮する第十六軍の進撃は順調で、ついにインドネシア軍(オランダ軍が主力でアメリカ軍、イギリス軍などが参加していた)は降伏します。しかし、今村は敗者に対して居丈高になることはなく、常に寛容な

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「日蓮」 佐藤賢一 著 新潮文庫

「日蓮」 佐藤賢一 著 新潮文庫

日蓮は、「端から浄土行きを考えるのでなく、この娑婆で仏になることを考える(p.35)」法華経が何より尊いと信じ、どんなに妨害されようとも殺されそうになっても、その教えを広めようとします。伊豆流罪(1261年)になった10年後に佐渡流罪(1271年)になっても自分の姿勢を変えないのですから、硬い信念があり鉄の意志を持つ人だったのでしょう。

法華経の教えには、成仏できないとされてきた悪人や女性も往生

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「同調圧力」 鴻上尚史 佐藤直樹 著 講談社現代新書

「同調圧力」 鴻上尚史 佐藤直樹 著 講談社現代新書

「同調圧力」 鴻上尚史 佐藤直樹 著 講談社現代新書
『社会というのは「ばらばらの個人から成り立っていて、個人の結びつきが法律で定められているような人間関係」だと考えています。(p,25)』と、世間学を専門とする評論家の佐藤直樹さんは言います。ですから、社会では法のもとに平等となるはずですから、原理的には同調圧力は起きない。法を守らない行為は、法的根拠を持って罰せられるだけです。

佐藤さんと対談

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「日本の10大カルト」 島田裕巳 著 幻冬舎新書

「日本の10大カルト」 島田裕巳 著 幻冬舎新書

世界(あるいは宇宙)に真理なるものはあるのかもしれないけれど、それを完全に解き明かすことは多分できないことだと僕は思っています。近づくことはできるのでしょうけれど・・・。

例えば、世の中には、「私は真理を知った」と宣言する人がいて、その人がグルになり、その人の周りに人が集まりカルトが出現するのでしょう。

僕は捻くれていますから、「私は真理を知った」と宣言する人がいたとしても「ほんまかいな?」と

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「縮んで勝つ」 河合雅司 著 小学館新書

「縮んで勝つ」 河合雅司 著 小学館新書

人口減少総研が、出生数が過去5年の平均下落率であるマイナス4・54%が今後も続いていくと仮定し、年齢別死亡率を反映させて独自の試算を行ったところ、日本の人口は、「2045年には早くも1億人を下回り、2050年に9000万人、2060年7600万人、2070年6200万人ほどとなる。2023年生まれの人が57歳となる2080年には4900万人にまで減り、2120年は1500万人ほどの「小国」となると

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「靖国神社の緑の隊長」半藤一利 著 幻冬舎文庫

「靖国神社の緑の隊長」半藤一利 著 幻冬舎文庫

2021年1月に亡くなった半藤一利さんの最後の著作になります。

先の戦争でのエピソードが書かれています。

前書きで、半藤さんは次のように書いています。

「兵士(軍属を含めて)の死者はおよそ二百四十万人と言われていますが、そのうち七割は、食べものや飲みものがなく、飢えて亡くなっています。最低限の食料さえ補給されず、日本から遠く離れた山のなかや、聞いたこともない名前の島で見捨てられた、無惨な死で

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「エロティック・キャピタル」 キャサリン・ハキム 著 共同通信社

「エロティック・キャピタル」 キャサリン・ハキム 著 共同通信社

感想を書くのが難しい本です。評価が分かれる本でしょう。

人の個人資産としては、エコノミック・キャピタル(経済的資産)、ヒューマン・キャピタル(人的資産)、ソーシャル・キャピタル(経済的・社会的価値)の3つがこれまで議論されてきました。

社会学者である著者は、それに加え、美しさ、性的魅力、自己演出力、社交スキルを合わせた個人の資産であるエロティック・キャピタルを提案しています(p.11)。

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「やさしくない国ニッポンの政治経済学」 田中世紀 著 講談社新書メチエ

「やさしくない国ニッポンの政治経済学」 田中世紀 著 講談社新書メチエ

ずっと日本は協調的な国だと思っていましたが、2000年をすぎたあたりから、「あれっ?」と思うことが多くなり、今や日本はかなり利己的な国民だと思うようになりました。

僕は、1982年から1996年末まで日本の企業で働いていたのですが、当時の会社員の中では、「同じ釜の飯を食った」という身内意識が強かったように思います。

その後アメリカで4年半過ごし日本に帰ってきたのですが、何か日本の空気が変わって

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