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読書日記 歴史、社会、経済

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歴史・社会・経済についての本を紹介します。
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記事一覧

「日ソ戦争」 麻田雅文 著 中公新書

「日ソ戦争」 麻田雅文 著 中公新書

一九四五年八月八日、ソ連は日本へ宣戦布告しました。ソ連と日本の戦争「日ソ戦争」は、日本がポツダム宣言を受け入れ降伏した後も続きました。

半月たらずの戦争でしたが、日ソ戦争に参加した兵士は、ソ連軍がおよそ一八五万人、日本軍も一〇〇万人を超える(p.249)という大規模な戦争になりました。その残した爪痕はとても大きいのです。

日本人の民間人は約二四万五〇〇〇人が命を落とした(p.250)と言われて

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「始皇帝の戦争と将軍たち」鶴間和幸 著 朝日新書

「始皇帝の戦争と将軍たち」鶴間和幸 著 朝日新書

よくあれだけの広大な土地を統一しようとしたものだと思います。統一までの10年(前230-221)の六国滅亡の10年戦争の「戦国地図」を見ると、みるみるうちに秦の領土が大きくなりそれに伴い隣国が滅亡していきます。

秦が五ヶ国をつぎつぎと滅ぼしていくなか、斉だけがその戦争にも関わることなく、非戦の道を歩んだ(p.129)のですが、ついに秦に滅ぼされてしまいます。

秦王政が軍事大国の王であるとすれば

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「異次元緩和の罪と罰」 山本謙三著 講談社現代新書

「異次元緩和の罪と罰」 山本謙三著 講談社現代新書

この本を読んでいて思い出したのですが、1960年、当時の池田勇人総理大臣は、「所得倍増」をスローガンとしました。これは分かりやすく、実際その後10年で倍増以上の成果を出しました。

それに比べ、異次元緩和「物価前年比2%増」・・これは分かりにくい。そもそも一般大衆は、物価の上昇を恐れるものです。政府と日銀がこの目標を掲げたとき、僕は、なんでこんな文言にしたんだろう?と思いました。「所得前年比◯%増

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「張良」 宮城谷昌光 著 中央公論新社

「張良」 宮城谷昌光 著 中央公論新社

「張良」 宮城谷昌光 著 中央公論新社

中国の歴史上の人物で最も興味のある人物が、張良です。

紀元前200年ごろに活躍した軍師で劉邦による漢帝国の樹立を助けた参謀です。

あの時代に情報の大切さを知り、諜報活動を行い、集まった情報から戦いの戦略を立てていきます。

張良は、人の心理を知り尽くしているとも言えます。

例えば、天下を平定したあと、臣下が謀反を起こしそうな空気になった時、張良は、「

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「教養としてのインテリジェンス」 小谷賢 著 日経ビジネス人文庫

「教養としてのインテリジェンス」 小谷賢 著 日経ビジネス人文庫

インテリジェンスとは、国家の外交・安全保障政策に寄与するために情報を収集・分析・評価する組織です。有名なのは、イギリスのMI6、アメリカのCIA、イスラエルのモサド、旧ソ連のKGBなどです。

情報部門の予算規模は、軍事予算全体の3〜10%ほどで、かなり大きな額になります。

主な情報収集の手段としては、公開情報(Open Source Intelligence、「オシント」)、スパイなどの人的情

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「ドイツ人のすごい働き方」 西村栄基 著 すばる舎

「ドイツ人のすごい働き方」 西村栄基 著 すばる舎

日本は、ドイツにGDPで抜かれました。人口が日本の2/3ぐらいなのに・・・です。
この本は、ドイツの働き方がなぜ効率が良く、生産性が高いのかについて書かれています。
ドイツ人は残業しません。

朝早くに働き始め、夕方には颯爽と仕事を終える

終業間際には一斉にデスクを片付け始め、17時にはオフィスから人が消える

デスクの上は毎日、新品のように整理整頓されている

年間約30日間の有給休暇をフル取

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「ナチ親衛隊(SS)」 バスティアン・ハイン 著 中公新書

「ナチ親衛隊(SS)」 バスティアン・ハイン 著 中公新書

ナチ親衛隊については、貴族的なエリート集団と誤解されることが多いが、中下層出身者が多いのです。中下層出身者の中には、自分たちはエリートの仲間入りをしたという意識が強くなり、より過激な行動に走ったのかもしれないと思いました。

もちろん、中にはエリートもいました。例えば、ヒムラーの実家は保守的で厳格なカトリック信者の知識階級。父はギムナジウムの校長でした(p,21)。つまり、親衛隊は、上層と中下層出

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「スタグフレーション」 加谷珪一 著 祥伝社新書

「スタグフレーション」 加谷珪一 著 祥伝社新書

「スタグフレーション」 加谷珪一 著 祥伝社新書

2年前に書かれた本ですが、ここで指摘されていることが本当に起こり始めているように感じます。

日本は、先進国の中で、最も不景気下でのインフレ、つまり「スタグフレーション」が起こりやすいと著者は言います。

このところの物価上昇とどうも景気がいいとは感じられない状況は、もはやスタグフレーションに片足突っ込んだ状態なのではないかと思ってしまいます。

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「データでわかる2030年雇用の未来」 夫馬賢治 著 日経プレミアシリーズ

「データでわかる2030年雇用の未来」 夫馬賢治 著 日経プレミアシリーズ

このまま何もしないと、地球温暖化は止まらず、先進国の少子高齢化が進み、食糧は不足する・・・。生成AIの発展により、仕事を奪われる人が増え、格差は拡大するでしょう。

著者は、そうならないために、産業革命が起こるだろうとのことです。産業革命は、ウェディングケーキ・モデルを考慮しなければならないと言います。

ウェディングケーキ・モデルとは、
「世の中の状況を、「経済層」「社会層」「環境層」の3つに分

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「世界の終わり」の地政学 下 ピーター・ゼイハン 著 集英社

「世界の終わり」の地政学 下 ピーター・ゼイハン 著 集英社

著者によれば、アメリカが国際秩序の維持に積極的でなくなり、世界から撤退していくと言います。

その理由は、著者の主張に従えば、以下のようにまとめられます。

エネルギー自給の達成:シェール革命により、アメリカはエネルギー自給が可能になり、中東などのエネルギー供給地域への依存が大幅に減少。そのため、これまでのように海外の安定を守る必要性が薄れている。

内面に向かう国内世論:アメリカ国内の世論も、海

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「世界の終わり」の地政学 上 ピーター・ゼイハン 著 集英社

「世界の終わり」の地政学 上 ピーター・ゼイハン 著 集英社

原題は、「The End of the World is Just The beginning」です。物騒ですねぇ。
今回は、その上巻についてです。
上巻の目次は、
第1部 一つの時代の終わり(始まりは、いかにして始まったのか?;偶然の超大国アメリカ;流れをがらりと変えたもの ほか)
第2部 輸送(長い道のり;制約からの解放―輸送を工業化する;アメリカナイズされた交易 ほか)
第3部 金融(通貨―

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「デジタル生存競争」 ダグラス・ラシュコフ 著 ボイジャー

「デジタル生存競争」 ダグラス・ラシュコフ 著 ボイジャー

著者の考えによれば、少数の富裕層やデジタルエリートたちは、世界の富のほとんどを所有しています。彼のマインドセットは、指数関数的な成長を信じ、壁にぶつかったらそれを乗り越える技術が生まれると信じているように見えます。

AIがいろいろな問題を解決してくれるかもしれません。でも、AIには莫大な電力が必要なのです。

しかし、例えば、「電力の大部分を再生可能エネルギーによって賄うためには、風力発電や太陽

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「戦争の値段」 加谷珪一 著 祥伝社黄金文庫

「戦争の値段」 加谷珪一 著 祥伝社黄金文庫

軍事にはお金がかかります。平時でも、原子力空母1艘につき年間800億円の費用がかかり、しかもメンテナンスのため、「原子力空母は1年のうち半分程度しか稼働できない(p.53)」とのことです。

実際に戦争になると、大変なお金になります。例えば、日本の軍費/CDP比は、日清戦争0.17、日露戦争0.6、日中戦争・太平洋戦争8.8(p.31)です。そして、経済体力を無視した戦費調達を実施すると、ほぼ確実

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「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」 野口悠紀雄 著 幻冬舎新書

「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」 野口悠紀雄 著 幻冬舎新書

10年以上前、政府の幹部2人が、2%の物価上昇を目標にすると言ってにこやかに微笑んでいる画像を見て、僕は強い違和感を持ちました。物価の上昇は結果的に起こるもので、目標とすべきものではないと考えたからです。

本来であれば、生産性が上がり、企業業績が好転し、賃金が上昇し、物価が上がると言うのが順とうな流れです。それであれば、景気が良くなったと言えます。

しかし、物価は上がっていますが、実質賃金は下

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