「戦争の値段」 加谷珪一 著 祥伝社黄金文庫
軍事にはお金がかかります。平時でも、原子力空母1艘につき年間800億円の費用がかかり、しかもメンテナンスのため、「原子力空母は1年のうち半分程度しか稼働できない(p.53)」とのことです。
実際に戦争になると、大変なお金になります。例えば、日本の軍費/CDP比は、日清戦争0.17、日露戦争0.6、日中戦争・太平洋戦争8.8(p.31)です。そして、経済体力を無視した戦費調達を実施すると、ほぼ確実にインフレが発生(p.103)することになります。
現に、日中戦争・太平洋戦争から敗戦後、日本は準ハイパーインフレに見舞われました。1951年には、1939年に比較して、物価が180倍(p.112)にもなったのです(これでも、まだ準ハイパーなのだそうです)。
また、膨大な債務をなんとかしなければなりません。戦後に日本政府のしたことは、1946年に貯金封鎖と財産税の徴収という強硬手段を実施し、太平洋戦争によって発生した膨大な債務を処理しました。つまり、国民の資産を根こそぎ奪う形で太平洋戦争の帳尻を合わせたわけです(p.153)。
それでも、日本は、その後高度成長を実現したではないかという人もいるかもしれませんが、朝鮮戦争がなければ、日本は太平洋戦争の損失を取り返せず(p.162)、高度成長は起きなかったのではないかと著者は考えています。僕はその意見に同意します。
この本によれば、朝鮮半島をめぐる、日本、中国、ロシア、米国(英国)の関係は、日清戦争当時も、日露戦争当時も、太平洋戦争当時も、そして現在も基本的に変わっていない(p.165)とのことであり、常に戦争の可能性はありうることは念頭においておかなければなりません。
これから世界の情勢がどう変わっていくのかは分かりません。世界中で大きな変動があるかもしれません。その時に、米国が常に無条件に日本に味方をしてくれるとは限らないと思っていた方がいいでしょう。
米国が採用する基本戦略は、ユーラシア大陸において敵対する国が支配的にならないよう工作するか、もしくは、アメリカ大陸に閉じこもり、大陸の影響を受けないようにするかのどちらか(p.204)とのことですので、そのどちらに米国が動こうとしているのかを見極めながら、日本は外交努力をしていかなければなりません。
この本の「おわりに」に書かれていることですが、「パートナーシップとは、相手に媚びて同じようにように振る舞うということではなく、相手に対して自らの立場や利害を明確に伝え、相手と交渉することで培われる(p.269)」とのことです。
これから世界の情勢は大きく変化すると思います。日本の政治の世界でも、官僚の世界でも、経済の世界でもそうしたことのできる人はどのくらいいるのだろうか?と、少々心配になります。前例主義では立ち行かない時代がもう来ていると思います。
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