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小説、詩、ことば

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よるが描いた世界
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失格

失格

 体だけの関係を保つのはゆるやかな自傷行為だね、と言われた。いつからか始まった右瞼の痙攣が不規則に続いていた。わたしの自罰的習慣に言及したのは、高校の同級生と再会して4年ものあいだ交際を続けている加奈子だった。加奈子は堅実で頭がよくて柔和でものいいがやさしくて、然るべき時にわたしの道を正してくれる、気高くて美しい女性だった。わたしが彼の存在を口にすると、加奈子は「常に少しずつ傷つきつづけていること

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波に酔う

波に酔う

文学をこねくり回してた時代のがよかったな. 女の主体性を論じれば空でも飛べる気がしてた. あなたが読む本の擦り切れたページには. 母を恋ふという文字を丹念に撫でた跡. 海に行きたいとわたしがあなたに言ったとき. わたしは死んでしまうあなたを想った. 波に. 呑み込まれて. 孤独に. 押し潰されて. 眠れない夜に流し込む液体は. あなたから愛を奪った. わたしから安らぎを奪った. 葉っぱを吸う女の子

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かこう

かこう

遅めの衣替え、あなたの聴いていた音楽をかけながら。粗く編まれたセーターの生地、額に汗が伝う。”You know I’m trying” この歌詞がきらいだ。だってわかっていた、あなたがどれほど努力してきたのか、あなたがどれほど失ってきたのか、どれほどの他人を傷つけ、自分を痛めつけてきたのか。あなたと一緒に過ごした服たちはまた今年も着られないままにタンスの奥へ押しこまれてゆく。まるで何もなかったみた

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無題

無題

愛をほかの人に託して、
責任転嫁。
広い宇宙のなかで、
あなたの代わりを探すのだけれど、
かたちのとおりに埋まらぬくぼみ、
どこか満たされない、ずっと泣いてるふり。
愛を、与えて欲しくて、
必死になって駄々こねる。わたし、
やっぱりあなたじゃないと、なんて、
使い古された皺くちゃのことば、
もう飽き飽きだよそんなの。懲り懲りだよ、
なのに、永遠を瞬間に感じるほど
あなたを待ちつづけている。
あなた

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四畳半のアパート

四畳半のアパート

 たぶん彼は、傷ついてくれない。サキホが彼と一緒にならない事実に直面しても、1ミリたりとも傷ついてくれないと思う。彼はそういう人間だから。はじめから世界を諦めていて、だから他人をコントロールできないことに対して怒りも悲しみも感じない。それは彼が片親で育ったことや鬱を患っていることに起因するのだろうが、そうでなかったとしても自分を大切に扱ってくれるかどうか、サキホには確信が持てない。彼の性質を理解し

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わたしのために怒って欲しい、わたしのために泣き喚いてほしい、どれだけわたしがあなたなのか、むね引き裂いて感情ぜんぶ見せてほしい、怒鳴って、殴って、悲しんで、ちゃんと、縛って、掴んで、握っててちゃんと、俺のために生きてってゆって、さみしいんだ僕ってゆって、ちゃんと、愛してあげるから

葬る

葬る

 たぶん、わたしは、何かの機能が欠如している、と、碧は思う。
 男が素直に自分の意に従っている姿を見ると、なぜだか涙が出そうでしかたなくなるのだ。それは、碧が頭をあずけると賢輔がこちらに肩を差し出すように、碧が「さむい」と言うと正平が後ろから毛布ごとつつんでくれように、そして今、碧が「抱きしめてもらっていいですか?」と言うと、目の前で悠人が手を広げて待っているように。
 中央線のオレンジのラインが

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あの時こうしておけばよかった。

あの時こうしておけばよかった。

 向かいに座る依澄と茉希は、早々に食事を終わらせてネットサーフィンをしている。二人ともカナヅチのくせに、多大なる情報の波には呑みこまれないらしい。水泳の授業終わり、肌に密着したスイムウェアが腹までずり下げられ、こぼれ落ちるいくつもの乳房を芳佳は想起した。女子高の着替えは警戒心がなく大胆だ。依澄は特に恥ずかしがらないたちで、その日新しくつけ始めたブラジャーのデザインの、どこがどういいというのを、実物

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To be honest

To be honest

すこしだけ眩暈がする。街灯を眺めながら、冷めた夜風にあたっていると、世界がベランダに縮小されて、すべてがどうでもよくなってしまう。早すぎた下駄が裸足を叩く音がする。わたしの貧乏ゆすり。何万回やっても、人とつながりつづけることは私には難しい。今日言われたおめでとうの数が、去年からの成果。1年後にはまた、ぜんぶ遠くなっている。真っ当に祝われるのは居心地が悪くて、忘れられてるくらいなほうが、何故かほっと

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 neutralmonaural

neutralmonaural

思い出しちゃったなんで文章書いてるか、劣等感まみれの私、世界に対して怒ってるけどそれってわたしに対しての怒りだよね。なんで認めてくれないのって、世界にゆって、自分に対して駄々こねてる。「ばかじゃない? あきらめな」って言われたほうがまだはやい、鋭い感情を持て余したからわたしは表現をはじめた、これからもかわれない認めないなら一生、創造をつづけていくべきだとおもうそれしか生きる道はない。

他者になり

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Escape from luv

Escape from luv

 からだが重力に逆らえず、沼地を歩くように足取りが重たい。やっと便器に腰をおろした彩伽は、先程まで自身の肌に張り付いていた布をみて絶望した。処女雪のようにまっさらな敷きものに、鮮血が3滴ほど滲んでいた。鉛のような腕を持ち上げて、大きめのものを手に取った。それを下着に敷いている間も、彩伽の身体は病原菌に滅亡させられるような心地だった。やっとの思いで布団のなかへ潜り、脇に挟んだものを確認すると103.

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多細胞生物なので僕たちは死にます。

多細胞生物なので僕たちは死にます。

「ラーメン食べて帰ろうよ」
 君がいうから僕はうなずく。
 型にはめられたようなありきたりの食べ物を頬張ると、湯気によって視界が曇らされた。
 美味しいねとも言わない。君は麺で塞がれた口を、咀嚼のためにしか使わない。
 なんのために、僕たちここにいるの?
「壮真はさ、私のこと抱ける?」
「物理的には」
「物理的にはとは」
「行為自体はできると思うよ」
「抱くって、行為以外になにがあるの?」
「心」

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かえりたい。、。

隣りに寝ている女は僕の本当を知らない。女はよく食べ、よく笑う。僕のはなうたを聴いて涙をながし、瞳のなかをのぞいて憤る。白くて柔らかい肌を吸い上げると小さく嬌声をあげて、僕の身体を強く締め上げる。女は傲慢で罪深い。僕の魂を留めようとする。女の髪は短く、微かに木材の香りがする。振り向いてもこちらを見ていない。僕を見透かしてどこか遠い過去を覗いている。僕は嫌になって鍵盤を叩くけれど、女はもっと大きな音を

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ばかつまんないな世界 はよフィクション完成させてください よる持て余しすぎなんじゃないのきみ 君といったらきみのことなんだよ そうだ カフェインをトリスギルト目が冴えちゃうよねえ いいから黙って目瞑れよ弱虫