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2021年12月の記事一覧
『もてなしとごちそう』中村安希
”そんな大変な状況にある人に、こんなにも親切にしてもらうばかりでいいのだろうか。さすがに今回は状況が状況であるだけに、彼の境遇に加えて、与えられたものの大きさについても心配しないわけにはいかなかった。すると姪っ子がこう言った。
「今日の叔父は、お客さんが来たので張り切っているのか、とても嬉しそうです。こんな風に楽しそうにしている叔父を、私たちも久しぶりに見ました。だから今日は、私たちの家に食事に来
『海のふた』吉本ばなな
”みんなの気持ちからここにかき氷屋があったことが消えなくて、ここを通るとふっと私のことやかき氷やエスプレッソの味を思い出してくれたら、私はここでしたかったことをしたことになって、それが私がこの街の自然に対してしたことでもあるの。ここにただ純粋な、愛を残したこと、それだけで。”
仕事柄、町という大きな存在の未来を考えることが多い。未来といっても、大体は今日の午後から明日のすぐそこまでのことだ。やっ
『スティル・ライフ』池澤夏樹
この本を初めて読んだのは大学2年生のときだ。授業で扱った池澤さんの短編「北への旅」が妙に刺さり、授業終わりに寄った図書館で代表作を手にしたのがはじめ。当時、読書習慣の’ど’の字もなかった私に読むきっかけをくれた本であり、いまや現在の私の指針、バイブルである。
”この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄り