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ともやすが読んだ本とその感想です
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2021年12月の記事一覧

『冷蔵庫を抱きしめて』荻原浩

『冷蔵庫を抱きしめて』荻原浩

''「直子はなんでも自分でためこんじゃうから。俺も言う。例えばほら、直子が前に、俺たちのこと、磁石みたいに相性がいいね、って言ってただろ。あれ、ちょっと違うなって、俺、ずっと思ってて、いつか言おうと思ったままずるずると」
「わたしたち、実は相性が良くないってこと?」
「そうじゃなくて。磁石がくっつき合うのは、S極とN極だからなんだよ。似たもの同士なんかじゃない」''

 「生きづらい」は、名前のつ

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『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健

『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健

 アドラー独自の理論に基づいた個人心理学。それは当時時代を100年先行した思想だと言われ、いまだ時代の追いつくことのない考え方だ。

 個人主義的な考えが日本で広まって久しい。「人としてどうあるべきか」「人生をどう進めるべきか」「自分の価値とは」悩む人は増える一方のように感じる。ただ悶々とする人々。その悩みはすぐに解決するわけないし、そもそも一般的な答えがあるわけもないのに、なんで悩むんだろう…。

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与論島移住史『ユンヌの砂』南方新社

与論島移住史『ユンヌの砂』南方新社

 錦江町の広報誌でも取り上げられているので読んだ方もいらっしゃるかもしれない。

 田代地区盤山は、与論島から入植された方々によって拓かれた地だ。
お茶の銘産地として有名な盤山。その裏側には与論の人々が乗り越えた壮絶な歴史がある。

 戦争と言うと、武器を持った命の奪い合いをイメージする人は多いだろう。この本を読むまで私もそうだった。
 戦争には様々な形があるのだ。例えば、食糧不足が原因の栄養失調

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『ふるさとの民話集』鹿児島県教育委員会

『ふるさとの民話集』鹿児島県教育委員会

    鹿児島県版遠野物語。
県内各地のむかし話や言い伝えが編纂されている。
錦江町からは、
・穴谷(あなんたん) 宿利原に住むたぬき親子の話
・福蔵塚(ふくぞうづか) 田代 辺志切にいた山伏の話

 最近のむかし話ってだいぶ現代っ子に寄せてあってあまりに娯楽的というか。
「これをしたらきっと生活に役立つんですよ」「私たちが住んでいるところは◯◯にできていて、△△は危ないんですよ」「生き物の命をい

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『旅をする木』星野道夫

『旅をする木』星野道夫

"私たちが生きてゆくということは、誰を犠牲にして自分自身が生きのびるのかという、終わりのない日々の選択である。生命体の本質とは、他者を殺して食べることにあるからだ。近代社会の中では見えにくいその約束を、最もストレートに受け止めなければならないのが狩猟民である。約束とは、言いかえれば血の匂いであり、悲しみという言葉に置きかえてもよい。''

 自然と文明の矛盾を教えてくれる。私たちが落としかけている

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『隣の女』向田邦子

『隣の女』向田邦子

”「そっちへ行っては危い。そう思うと余計、そっちのほうへいってしまうものよ」
「この人だけはよそうと思うと、余計そっちへ吸い寄せられてゆく……」
八木沢はうなずいた。
「そういうこともあるな。でもね………。それじゃ、幸福は掴めないよ」
素子は、答の代りに、笑ってみせた。泣く代りに、精いっぱい笑ってみせた。”

高校生のとき国語の教科書で読んでから向田さんに憧れている。小気味良いテンポで進む小説やエ

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『とある暮らし』miyono

『とある暮らし』miyono

''(前略)最近は、いわゆる「働き方」や「お店」についての本をよく見かけるようになりました。様々な職業や仕事の話、または本屋やカフェなどお店についての特集本、情報誌。それはそれでおもしろいのですが、自分は、より「個人」に焦点を当てた本を読んでみたいと考えていました。隣で読書している人、駅のホームで並んでいる人、何気なくすれ違っていくたくさんの人たち。語弊を恐れず言えば「日々をふつうに生活している人

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『もてなしとごちそう』中村安希

『もてなしとごちそう』中村安希

”そんな大変な状況にある人に、こんなにも親切にしてもらうばかりでいいのだろうか。さすがに今回は状況が状況であるだけに、彼の境遇に加えて、与えられたものの大きさについても心配しないわけにはいかなかった。すると姪っ子がこう言った。
「今日の叔父は、お客さんが来たので張り切っているのか、とても嬉しそうです。こんな風に楽しそうにしている叔父を、私たちも久しぶりに見ました。だから今日は、私たちの家に食事に来

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『海のふた』吉本ばなな

『海のふた』吉本ばなな

”みんなの気持ちからここにかき氷屋があったことが消えなくて、ここを通るとふっと私のことやかき氷やエスプレッソの味を思い出してくれたら、私はここでしたかったことをしたことになって、それが私がこの街の自然に対してしたことでもあるの。ここにただ純粋な、愛を残したこと、それだけで。”

仕事柄、町という大きな存在の未来を考えることが多い。未来といっても、大体は今日の午後から明日のすぐそこまでのことだ。やっ

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『スティル・ライフ』池澤夏樹

『スティル・ライフ』池澤夏樹

この本を初めて読んだのは大学2年生のときだ。授業で扱った池澤さんの短編「北への旅」が妙に刺さり、授業終わりに寄った図書館で代表作を手にしたのがはじめ。当時、読書習慣の’ど’の字もなかった私に読むきっかけをくれた本であり、いまや現在の私の指針、バイブルである。

”この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄り

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