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『スティル・ライフ』池澤夏樹

この本を初めて読んだのは大学2年生のときだ。授業で扱った池澤さんの短編「北への旅」が妙に刺さり、授業終わりに寄った図書館で代表作を手にしたのがはじめ。当時、読書習慣の’ど’の字もなかった私に読むきっかけをくれた本であり、いまや現在の私の指針、バイブルである。

”この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。”

一見突き放すような文章だ。けれど、読んでみてほしい。これほど清らかでのどかな本はないと思う。

さらりとした文章が、言葉が、心に浮かんでは溶けてゆく。新感覚だった。感情という感情がすぅっと引いて、誰かと私の、世間と私の間を取り持って穏やかにしてくれる。静かで心地よい。
この本に出会ったことで、著者の言葉を借りて言えば、読書は外の世界と私の世界の呼応と調和をはかる手段となった。

私の読書の原点。

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