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『もてなしとごちそう』中村安希

”そんな大変な状況にある人に、こんなにも親切にしてもらうばかりでいいのだろうか。さすがに今回は状況が状況であるだけに、彼の境遇に加えて、与えられたものの大きさについても心配しないわけにはいかなかった。すると姪っ子がこう言った。
「今日の叔父は、お客さんが来たので張り切っているのか、とても嬉しそうです。こんな風に楽しそうにしている叔父を、私たちも久しぶりに見ました。だから今日は、私たちの家に食事に来てくださったことに、家族の者として感謝します」”


著者によるひとり旅ご馳走ルポ。

「同じ釜の飯を食う」は、苦楽を分かち合った親しい間柄であることを指す言葉だ。

実家を離れ、結婚まで一人暮らしを経験するのが一般的なライフスタイルとなっている現代。人と関わりを持たなくても生きてゆける。ごはんもひとりで用意できる。自炊、お惣菜やコンビニ弁当に頼るなどして。

しかし、ひとりで食べる夕飯ほど寒々しいものはない。「いただきます」に「めしあがれ」の返事がなくて寂しい。味噌汁をすする音が一人部屋に響くと虚しい。

一人旅をする著者の国籍や肩書きなど気にも留めず、貧しくとも自分の食卓へ誘ってくれる人々。その姿に、孤食・個食を自然に受け入れている私たちへの問いかけを感じた。

元気がないときの「一緒にごはん食べよう」がしみじみと嬉しいのはなぜだろう。この本にヒントがある気がする。

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