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すーこ小説まとめ

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私の書いた小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
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学校司書・本上実景の見た光景

学校司書・本上実景の見た光景

 山中市立豊山小学校は、山のふもとにある小学校です。この小学校には、少しめずらしい学校図書館があります。
 学校図書館のドアには、「豊山小学校図書館」のプレートが貼られ、その少し下に「しずかにすごそう」と書かれた桃色の紙が貼られています。図書館に入ると、こんな本棚が目に飛びこんできます。

豊山小児童文庫
※このたなには、世界に一冊の本が集まっています。とても大切に読みましょう。

 一冊手に取っ

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朝霧と夕暮れ

朝霧と夕暮れ

 霧の朝、私は車を時速20km程で走らせていた。今走っているのは高速道路だ。先ほど、かろうじて速度制限表示が見えた。そこには「50」の文字がぼうっと光っていた。私は怖くて時速20kmがやっとだ。前も後ろも見えないほどの濃霧のなか、私は霧が晴れるのをただ待ちながら、アクセルを浅く踏み続ける。
 このあたりで霧が出ること自体は珍しくない。よく左手の山が霧に包まれているのを横目に、この道を走らせたことは

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ミライリア

ミライリア

 手鏡の形をしたものを持っている。しかし、覗き込んでも私は映らない。映るのは、後ろの部屋の壁だけ。それを持って歩いてみる。よく見ると、他にも映らないものがある。部屋に備えつけの家具は映るが、私の持ち物は映らない。何、これ。
「未来を映す鏡、ミライリア。今ここに映るのは、少し先の未来」
 誰? 心のなかで唱えたはずなのに、呼応するように声がする。
「私だよ、各務鏡子。あんたの手中にある、その鏡さ」

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花も人も

花も人も

 ここに越してきて三年が経つ。最近近くに新しい人が越してきた。公園で野の花と話すおばあさん。蔦の絡まる二階建てのアパートに、あの人は一人暮らしをしているらしい。母さんが、二十四時間営業している最寄りのスーパーのレジで聞いたと言っていた。今日も近所の人たちが好奇の目で遠巻きにあの人を見るのを横目に、僕は自転車を漕いで帰宅する。
 中学校三年生の途中で母さんと引っ越してきて、今年は大学受験の年だ。僕の

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54字の物語3篇 ~54字のプチ宴~

「54字の物語」

末文「小さい秋見つけた。」で3篇

🍁

なんとか間に合ったので、突貫ですが参加いたします。
楽しい企画をありがとうございます。
よろしくお願いいたします。
#54字のプチ宴

システムと紙の手帳

システムと紙の手帳

「うえむらちゃん、なんで紙の手帳にタスクやスケジュール転記してるん? システム一元化のほうがよくない?」
 私の手帳を見ながら隣席の同期の山本が尋ねてくる。手帳をぱたりと閉じて微笑む。
「書くと記憶に残るから、とかかな」
 私が答えると、すかさず山本が捲し立てる。
「システムでメモしておけば、後から検索できるよ。カレンダーで通知も来るし、スマホとも連動させられる。それに、重いしかさばって持ち運びが

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表裏一体

表裏一体

「なんで紙なんですか?」

 ミスは少ないが仕事が遅い私。仕事は早いがミスが多い倉田。短所を補い長所を盗み合えばいいと、初めて上司抜きでふたりで営業資料を作ることになった。
 私が原稿を作り、彼が資料にまとめながら意見を出し、私が検討して原稿に反映させ、彼が直した資料を私が確認する。確認のたびにミスが見つかり、彼に修正を依頼する。紙面上で確認しないまま直したと言うが、それゆえの新たなミスが残る。つ

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黒塗りの贈り物

黒塗りの贈り物

黒く塗りつぶされた画用紙。黒塗りの下には、詩画がかいてあった。
詩を夫の日生健人が書き、絵を妻の琴子が描いた。SNSに上げたその絵が酷評された夜、彼女は投稿を消し、夫の詩ごと黒色のペンで紙を塗りつぶした。
その詩画は生まれてくる子へ贈られるはずだった。

琴子は居間のソファーで臥せっていた。琴子の産休に合わせて在宅勤務に切り替えていた健人が、側にいるよう頼み込んだのだ。
健人が萩焼の湯呑みを持って

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紙飛行機の思いが放たれるとき

紙飛行機の思いが放たれるとき

 そう書かれたチラシを持って、夫が私に言う。
「紙飛行機を飛ばしたいんだ。付き合ってくれない?」
 自分の願望のように誘ってきた。いつもさりげなく気を回すのだ、この人は。私が雑紙入れに入れたそのチラシは、買い物帰りに断れずに受け取ったものだった。

 ニ〇ニ三年九月一日。転職して四年が過ぎていたこの日。ずっと真面目に働いてきた会社で横領事件が起き、こんなときに一週間休暇を取らされた。こんなときだか

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朝茶は七里帰っても飲め おかわり

朝茶は七里帰っても飲め おかわり

最初から読む 目次 茶筒(マガジン)

おかわり 小娘と茶袋

「初めまして。宝煎大学デザイン工学部三年生の杵築アンリと申します。本日は、お忙しいなか、見学をさせてくださりありがとうございます。一生懸命学び取りたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします」
 声が漏れそうになるのを、口許を覆って抑え、慌てて拍手を送った。

 うれしの製薬では、今週から今年のインターンシップ、いや、オープン・

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流れ星に願うシュウマツ

流れ星に願うシュウマツ

 流れ星でも観ようか。末永周平の誘いに、同じプロジェクトチームの平松星那はウキウキしながら、彼に続いて屋上へと続く階段を上がる。

「流れ星に、周ちゃんは何を願うの?」
 八月十二日、月曜日の深夜。会社の屋上で寝そべりながら星那が言う。終電をふたりして逃した。たまたま周平がタクシーを呼ぼうとスマホの上を滑らせた指。流れていく通知のニュース記事を横にスライドさせているうちに、「ペルセウス座流星群が極

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望月見守る結婚式

望月見守る結婚式

目次

 今朝の月は満月、望月だ。晴れの日にふさわしいまんまるの月が、まだ薄暗いなかに金色に光っている。朝から生暖かい二階のベランダで一人、空と藤の木を見上げながら昨夜のことを思い返していた。

 昨夜、葵がうちに来て、先月末ぶりに一緒に夜ごはんを食べた。きらりちゃんもご実家に帰っていた。そう、二人の結婚前夜だった。前回結構夜深くまで話したから、近況報告もそこそこに、早くお風呂を済ませるように促し

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桃犬猿岸一揆計画

桃犬猿岸一揆計画

 ピンポーン。ずいぶん遅い時間に誰だろう。
「はーい」
「桃川運送です」
 いつもうちに配達に来てくれている桃ちゃんだ。桃川運送の桃川さん。先代のときから、うちの親もお世話になっていた。もし子どもがいたら娘くらいの年齢なので、桃ちゃんと勝手に呼んでいる。
「いつもありがとう! どうぞー」
 インターフォン越しに言って、マンションのオートロックを解除する。最近何頼んだっけな、こんな遅くまで大変だ、な

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めーやんはねむらない①

めーやんはねむらない①


①めーやんとオムライス 未月さんちには、4さいになる女の子がいます。名前は芽衣ちゃん。あだなはめーやん。めーやんは、おかあさんの翔子さんとふたりぐらしをしています。
 めーやんは保育園に通っています。今日も元気いっぱい遊びまわって、おかあさんを待っていました。

 お空がみかん色からぶどう色になった頃、おかあさんがおむかえに来てくれました。おかあさんは、せんせいにあいさつをして、めーやんのところ

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