「平凡」が持っている強さとは？　渋沢栄一に学ぶ「完全な常識」の価値

「『完全の常識』とはそういう意味だったのか・・・」

先日、渋沢栄一さんの「論語と算盤」という著書から、「智情意」の大切さについてまとめました。

知性、感情、意志の3つをバランスさせることで、穏やかで豊かな心を保つことができるという内容でした。この記事でも取り上げましたが、「智情意」について、「論語と算盤」にはこのような記載があります。

「智、情、意」の三者が各々権衡を保ち、平等に発達したものが完全の常識だろうと考える」

この一節に登場する「完全の常識」という言葉。この意味が初めは分かりませんでした。この言葉が意味していることが何なのかについて考えます。

常識とは

常識とはそもそもどんな意味なのか。辞書を調べるとこんな記述があります。

【常識】
健全な一般人が共通に持っている、または持つべき、普通の知識や思慮分別。

我々が日常会話で使う「常識」は「知っていて当たり前」「やって当然」「守るべきマナーや分別」といったニュアンスで使うことが多いのではないでしょうか。逆にこれから逸脱している様を「非常識」と言ったりします。

一方で、「常識人」という言葉もあります。

【常識人】
常識を心得ており、常識を基に物事を判断したり、行動する人。 一般大衆に近い感覚を持ったツッコミ役でもある。

この「常識人」に対して、渋沢栄一さんはこんな考え方を持っています。

平凡な常識人こそ一番である

この考えを理解する上で、「偉い人」と「完璧な人」という2人を比較すると分かりやすいです。

人間として備えるべき性質に欠陥があったとしても「偉い人」はそれを補って余りあるほどの優れた能力を持っています。しかし、欠陥がない人に比べてとがっているがゆえに「変人」扱いされたりもするのが「偉い人」です。

一方で、「完璧な人」は欠陥がない人のこと。足りないところがない人です。智情意の3つの要素のバランスがとれ、かつ、発達している状態の人の事をいいます。

つまり、「完璧な人」とは「智情意」をバランスよくもっている「常識人」ということです。先にご紹介した「完全の常識」とは欠陥の無い智情意のバランスがとれた常識人と理解することができます。

仕事や組織のトップのポジションにおいてはヒーローやリーダーのようないわゆる「偉い人」が求められます。ただ、社会や組織を構成している大多数の人が「偉い人」である必要はありません。そうした大多数の人に求められるのは「完璧な人」の方であると言えます。

渋沢栄一さんは、ヒーローやリーダーのような「偉い人」の用途は限定的だが、智情意がバランスしている「完璧な人」はいくらでも必要であると考えます。「完璧な人」はあらゆる場面で求められます。こうした、大勢の「完璧な人」が働いておれば何の不足もないと言えます。

社会を構成する全員が「偉い人」だったら、社会は麻痺してしまい、生きにくい世の中になってしまうでしょう。一方、全員が常識を持った完璧人間であったら、偉い人は必要ないのかもしれません。

異端＜常識

「完全な常識」つまり、「欠陥のない完璧なバランスを持った常識人が大切」と聞いて、どう思うでしょうか。「なんか面白くなさそう」と感じたりしませんか？

今の時代は個性の時代です。異端であること、非常識な面を持っていることが個性であり、価値であると考える人も多いと思います。

これに対して渋沢栄一さんも理解を示しています。特に青年時代期において、平凡な常識を養って「欠陥のない人を目指せ」と言われると、窮屈で苦痛を感じ、真っ向から対立したくなるでしょう。これは若者に共通する、ある種の「性質」であると言えます。

しかし、実際の社会に目を向けると、様々な業界や組織において異端な行動や、突飛な知識があることよりも、健全な常識を持っている人が支配していることを渋沢さんは指摘しています。常識がどれほど偉大な物かを理解すべきであると説きます。

まとめ

人間が豊かに、人と人とが上手く生きて行く指標が「智情意」、つまり知性、感情、意志の3つをバランスさせることでした。こうすることで渋沢さんは「完全な常識」を得られると言います。この言葉の意味は、「欠陥の無い智情意のバランスがとれた常識人になれる」という「完璧な人」という意味です。

異端な素質を持った「偉い人」が活躍できる場所は局所的ですが、「完璧な人」はあらゆるシーンで活躍できます。だからこそ、誰もが「完璧な人」を目指すべきだと渋沢さんは言います。

「常識」と聞くとつまらない人というイメージを抱きがちですが、「智情意」がバランスよく持てている「健全な常識」を持った人は、どんなシーンでも求められ、活躍できる、オールマイティな人と言えるのかも知れません。

知性、感情、意志のレベル感やバランスを意識しながら、「完全な常識」を目指せば、より豊かな人生を歩んでいけるのかも知れませんね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。