マガジンのカバー画像

エッセイ

183
主に昔語りと創作。 つまらなそうだ? そうでもないぜ。
運営しているクリエイター

記事一覧

ポルトガルスタイル

ポルトガルスタイル

リスボンにジェロニモス修道院という、世界遺産がある。
その巨大な図体を過剰なまでにまめまめしい装飾で埋め尽くした、ある種、異様な建築である。
特に中庭の回廊をめぐる石柱の一本一本に、これでもかと刻み込まれたレリーフ彫刻は、見る者を不安にさせること間違いない。
何というか、部分と全体のバランスに均衡が取れておらず、鑑賞者はどこに注目すれば良いのかわからなくなるのである。

ポルトガルが、その歴史上た

もっとみる
猫再び

猫再び

共同アトリエには、時々わたしのnoteにも登場する、自腹で地域猫に餌をやっている作家さんがいる。
先日の朝、彼女がこちらの顔を見るなり「タグチさん、お願いがあるのです」といってきた。

このお嬢さんは決して悪い人ではないが、相当ちゃっかりしている。
そして押しが強い。

そもそも地域猫への餌やりも、管理者側の「そういう事されると、近所から苦情が来るかもむにゃむにゃ・・」というやんわりしたお達しに、

もっとみる
人生修養

人生修養

わざわざリンクは貼らないが、昨日自分が書いた、なんというか書きっぱなし、言いっぱなしみたいな日記はやはりよろしくないように思う。

昨日は昨日で、どうしてもそんなことを言ってしまいたい気分だったわけで、間違ったことを書いたとも思わないが、でもまぁ自分の発信としては、ガサツであったなぁ。

noteを初めて一年半、いつの間にかフォローする方も、していただいた方も増えた。
毎日のように文章を読ませても

もっとみる
上野の森から

上野の森から

国立博物館まで「はにわ」展を見に行く。

太古、日本人はあの装飾過多な縄文土器や土偶を、延々と一万年も作り続けていた。
しれっと一万年と書いたのだが、以後の時代を全て足しても3000年なので、これは日本人の歴史のゆうに2/3を超える。
恐ろしく長いのである。

その後、突然シンプルモダンな弥生式に方向転換して、今度は打って変わって禁欲的な壺などを作る。
これが千年弱である。
縄文の足元にも及ばない

もっとみる
お隣

お隣

現住所には中学生の時から50年近く住んでいる。

ここはいわゆる実家である。
建て売りだったが、当地にくる前はずっと公団団地に住んでいたから、まぁ、手垢のついた言い方をすれば、両親が苦労して手に入れた夢のマイホームというわけだ。

独身の一時期や、結婚してからの数年、実家から離れて暮らしたこともあったのだが、なんだかんだでここに戻ってきた。
建物は後に私が新しくして、もう建て替えてからの方が長くな

もっとみる
意識されない能力(美術編)

意識されない能力(美術編)

さて昨日の話だ。

要約すると、体育やスポーツの才能というのは体力とか持久力ではなくて、実は「自分がイメージした動きを、自分の体でそのまま再現できる能力」なのではあるまいか、ということであった。
そんなこと書いてなかったかもしれないが、まぁそういうことが言いたかったのである。

こういう能力に何か名前がついているのかどうかはわからない。
世の中には賢い人がたくさんいるので、きっと誰かが研究している

もっとみる
意識されない能力(体育編)

意識されない能力(体育編)

6・3・3の学校時代、通信簿の体育の欄はいつだって3だった。
基礎体力は周りと比べてそんなに劣っていないと思うのだが、なんにせよ競技スポーツ、とりわけ球技が壊滅的に下手だった。

元々片目の視力が低く、遠近を把握する力が弱かったこともある。
しかし何というか、より根本的には、「自分が見たもの、イメージしたものを、ダイレクトに体に反映する能力」が決定的に欠けていたのだと思う。

すなわち、例えば車を

もっとみる
聴力とミュージックビデオ

聴力とミュージックビデオ

最近の歌が聞き取れない。

朝ドラの主題歌など、何ヶ月も毎日聴いているのに、どうしてもわからないフレーズがある。
今回だけではない、前回も前々回も、すべては聞き取れなかった。

近頃の歌唱法が合わないのかとも思ったが、考えてみれば、あの英語だか日本語だかわからない桑田佳祐のボーカルは、聞き取ることができる。
ならば、老化による聴力の低下なのだろうか?

「最近の歌が聞き取れない」ではなくて「最近、

もっとみる
団地のわたし

団地のわたし

最近までNHKで放送されていた「団地のふたり」というドラマを見ていた。

子供の頃から団地住まい、出戻りの大学講師と独身イラストレーターという、50代女子のシスターフッド物である。
その年で女子というのもどうかと思うが、人間30過ぎるとそんなに中身は変わらないし、「ずっと友達であった」という設定のふたりには、やはり女子という言葉がよく似合う。

演じるのは小泉今日子と小林聡美。

個人的にはアイド

もっとみる
菊とバットと闇バイト

菊とバットと闇バイト

大谷の話題はもういいよと思っていたのだが、彼と縁もゆかりもない、ご当地埼玉のスーパーで感謝セール開催、というニュースには笑ってしまった。
そういえば、ちょっと前まではこの時期、優勝しようが負けようがダイエーが感謝セールをやっていたものだが、ソフトバンクになったのはいつからだと思って調べたら、もう20年も前だった。
あらあら。

まぁ市井のスーパーが、なんとなく便乗してしまおうと思うくらい、大谷は偉

もっとみる
お仕事前夜

お仕事前夜

明日は、またまた絵画教室の代理講師として駆り出される。

前回出講した時、「もうしばらくはお会いすることもないと思います」なんておどけて笑いを取ったのだが、2週後にまたしれっと出てくるというのは、いったいどんな顔をすればいいのか?

まぁ相変わらず細かいところは丸投げなので、好き勝手に教えて構わないところは、気が楽といえば楽だ。
しかしだからといって大枠を外すわけにはいかない。
明日は静物水彩と決

もっとみる
サビとブチトラ

サビとブチトラ

共同アトリエの作家に、ひとり猫好きのお嬢さんがいて、自腹を切って地域猫に餌をやっている。

野良たちは世代交代が早い。
元々いた黒猫と鉢割れは、後から来た太々しいトラ猫に追い出され、やがてそのトラと白猫がつがいになって、子猫が3匹生まれ、そのうち白猫と子猫たちの姿が見えなくなったと思ったら、最近は錆猫と斑トラが幅を利かせている。

今までの猫は概ね、よほどでないと人に近づかなかったのだが、新顔の2

もっとみる
美味いものが食べたい

美味いものが食べたい

今日はトンカツを揚げた、というか焼いた。

元々、連れ合いは揚げ物をしない人で、我が家では、トンカツとかコロッケとかはもっぱら私が作って食卓にのせるものだった。
正直、私だって揚げ物は面倒でやりたくないし、油の後始末も嫌なのだが、それではいつまでたっても献立に揚げ物が出てこない。

そう、多少手間がかかろうが私は揚げ物が大好きなのである。

しかしある時から、あらかじめフライパンで炒ったパン粉で衣

もっとみる
平和な休日

平和な休日

久々に終日家で過ごす。

たまに休むと、なんとなく手持ち無沙汰になるもので、ちょっと花壇の手入れでもしようかという気になった。
端的に言って貧乏性である。

実は我が家の「猫の額」花壇、春までチューリップを植えていたのだが、これがなんというか徒長してしまって、どうもうまい具合に育たなかった。
それで花が終わってから球根を育てるのはやめにして、別のものに植え替えようと思いながら、この夏の暑さに負けて

もっとみる