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サビとブチトラ

共同アトリエの作家に、ひとり猫好きのお嬢さんがいて、自腹を切って地域猫に餌をやっている。

野良たちは世代交代が早い。
元々いた黒猫と鉢割れは、後から来た太々しいトラ猫に追い出され、やがてそのトラと白猫がつがいになって、子猫が3匹生まれ、そのうち白猫と子猫たちの姿が見えなくなったと思ったら、最近は錆猫と斑トラが幅を利かせている。

今までの猫は概ね、よほどでないと人に近づかなかったのだが、新顔の2 匹は初対面の時からそんなに警戒感を出さない。
今日などは錆猫が、私の目の前で腹を出して眠り始めた。

お嬢さんの考察によると、最近空き家になった近所の家で飼われていたのではないかという。
確かに2匹とも同じような首輪をしていて、仲も悪くない。

いくらなんでも引っ越しで置いて行かれたということではなさそうなので、たぶん住人が亡くなるか、急に施設に入るかして、物理的に自分の家に入れなくなってしまったのだろう。
まぁあくまで推測でしかないのだが、ちょっと切ない話ではある。

ところで、かように同情を誘う背景を背負っている新顔なのだが、残念なことにあまり可愛くない。

急に現れて、それまでアトリエで好き勝手やっていたトラを隅に追いやってしまう押しの強さ、2匹でタッグを組むような狡猾なチームワーク、そしてちょっとでっぷりした体型の上につり目気味で人相(猫相か?)が悪い。
何より、人に懐いているらしいくせに、毎日餌を与えるお嬢さんにすら触らせることをしないらしい。

どうにも愛され要素が少ないのである。

私の作品は一時ネコばかりだったのだが、あまり可愛くないと評判であった。
私自身、たいして猫好きというわけでも猫を飼っていたわけでもないが、奴らの人を小馬鹿にしたような、超然とした趣には惹かれるものがあったので、自然作品もそんな表情になったのだろう。

なので決してブス猫も嫌いではないが、やはり現実に愛想の悪い猫が目の前にいると、「お前もう少しなんとかやりようがあるだろう」という思いが拭えない。
よくネット上にあるような、「雨の日に震えながらつぶらな目をしてついてきて、いつの間にか居着いてしまった」みたいな健気な猫に、一度でいいから出会いたいと思うのだ。

猫も人も可愛げというのは大切だ。
私も可愛い爺さんになりたい。

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