〈DISCOVER〉unpis作品集 真昼の中の不定形な透明性の夢
No1:不定形な透明性の中の夢が真昼の白い光の中で
不定形な透明性の中の夢(不安)が昼の白い光の中で、ありふれたキッチン、テーブルの上、部屋の空間の光景の断面として、切り取られ定形化される。明解な線と形と色彩。日常的でシンプルな凡庸なモチーフ。しかし、固定された瞬間とも言うべきその時間性が、夢の閉じ込められた平面を騒めかせる。重ね合わされた透明な平面たちが、透過と反射の光の中で、不可能な立体を構成し、平面の中の直線が彎曲し曲線を帯び始め形から溢れ出し、意味が変更される。何処にも辿り着くことのできない透明性の夢が其処に目覚める。
No2:イラストレーター・unpis(ウンピス)さんの第一作品集、あるいは〈DISCOVER〉の意味について
イラストレーター・unpis(ウンピス)さんの第一作品集。
本のサイズは、縦22.5cm×横18.5cm×厚さ1.5cm、全P159。 約130点のオリジナル作品とクライアントワークが収録されている。(クライアントワークもまた素晴らしい。)制作過程やインタビュー記事も掲載。冒頭にunpis(ウンピス)さん自身の言葉で作品に対する思いと本のタイトル、〈DISCOVER〉の意味について述べられている。作品と呼応するような簡潔で端正な言葉。丁寧に作られた作品集。発行はグラフィック社。
「「DISCOVERには「発見」という意味があります。
〈COVER=覆い〉を〈DIS=取り去る〉ことで、
もともとそこにあったものの存在に気がつくということです。 知識や経験という覆いを取り去って、周り見回してみてください。
素通りしていた景色やもののなかに、面白いところや美しい瞬間を
発見することができると思います。」 (「DISCOVER」はじめに より引用)
漫画的な記号のような単純な線で構成された形に空間が区画され、その区画された領域に刻明な色彩が付与されたunpisさんのその作品。しかし、その表現の明解さとは裏腹に、そこには幾つかの謎が組み込まれている。
絵画(イラストレーション)を線と形と色彩で構成されている空間的構造を示す数式とすれば、unpisさんのそれは、未知の何かしらを求めるために、その満たすべき条件を等式の形に表わした数式、つまり、〈方程式〉の形をしたものと言える。unpisさんの作品は、わたしたちにひとつの謎を提示し、その謎を解く〈DISCOVER〉へと誘導して行く。
方程式としてのイラストレーション、〈DISCOVER〉という名前の謎
その作品の放つ、明解でありながら複雑な、鮮烈な美しさを、言葉で的確に言い表すことなど、私にできることではない。私が書く言葉など気にすることなく、一人でも多くの人にその作品集を手に取ってもらって、作品を見て欲しいと思う。
そして、unpis(ウンピス)さんによって、〈DISCOVER〉された世界の断片を一緒に覗いて見て欲しいと思う。それは少し不安定な真昼の夢の切れ端のようでもあり、来るべき未来の、なぜか、懐かしい予感のようでもある。そこには、世界のもうひとつの顔が姿を現している。
No3:unpis(ウンピス)さんの作品の中の、アンリ・マティス、ロイ・リキテンスタイン、フェルナン・レジェ、キース・へリング、安西水丸、佐々木マキ、キリコ、ルネ・マグリット、などなどの夢の断片
unpisさんの作品は、イラストレーターとして既にその独自な作風が確立されている。しかし、そこに強烈なオリジナリティ、つまり、〈unpis印〉的なるものを求めてしまうと、少し肩透かしを食らってしまうかもしれない。
アンリ・マティス(Henri Matisse)、ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)、フェルナン・レジェ(Fernand Leger)、キース・へリング(Keith Haring)、安西水丸、佐々木マキ、デ・キリコ(Giorgio de Chirico)、ルネ・マグリット(Rene Magritte)、などなど、彼らの夢の断片を表した線と形と色彩とモチーフをミキサーに入れて、シャッフルして、濾過し、型にそれを流し込むと、unpisさんの作品(のようなもの)が押し出されて来るという案配だ。
アンリ・マティスと安西水丸的な、繊細な線と限定された色彩による世界の単純化と普遍化、ロイ・リキテンスタインとフェルナン・レジェ的な平面的な描線による立体と画面の構成、キース・へリング的な逸脱による世界の狂乱的漫画化、佐々木マキ的な物語による時間性、デ・キリコとルネ・マグリット的な無意識の中の不安と焦燥。
unpisさんの作品には多くの先人たちの作品の残像が見え隠れしている。共通点と相違点がそこに複雑に入り組み混在している。そのことが、unpisさんの作品のオリジナリティに関して幾らかの物足りなさを、人に与えてしまうことになる。
ほどよい加減の先人たちの作品との距離。似ている訳ではないのだが、そうかといって、際立って、似ていないという訳でもない、その距離。埋没する訳ではないが、突出する訳でもない感じ。良く言えば、洗練された落ち着いたエスプリとユーモアの効いた自己主張の抑制された、多くの人々の共感を誘う作品、悪く言えば、大人しい記憶に残らない当たり障りの無いクライアントワーク的作品。良くも悪くも、その両面がunpisさんの現在の作品の在り様と言える。
No4:現在進行形の未完成の絵師(イラストレーター)、あるいは、化ける前の、創造者の格闘の相貌
しかし、unpisさんを、未完成の現在進行形の絵師(イラストレーター)として捉えるのであれば、その様相は大きく変わることになる。現在のunpisさんの作品は、その現在進行形の途上に存在するものとして、一時的な作品として存在していることになる。この事は現在のunpisさんの作品が未熟なものだということではない。それはその作品において、決定的なものとして完成されたものであり、それが放つ美しさは、掛け値なしに素晴らしいものだ。だが、そこに、未開の可能性が存在し、その未踏の領域へ行く途上の〈習作的作品〉という色合いを、あるいは、化ける前の、変貌する前の創造者の格闘の相貌を、見てしまうということになる。
この作品集にも、傑作と呼ぶべき幾つかの作品が存在している。例えば、DISCOVER(P6〜7)、木の枝と炎のある静物(P44)、ガラスと植物と布のある静物(P45)、フルーツとナイフのある静物(P50)、PAUSE(P60)、A SNAKE AND FRUITS(P87)。
それらの傑作は、他の作品と異なる次元から産出されたものではないか、と私は思っている。それらの傑作はunpisさんの内部に眠っている未踏の領域から生まれ出たものだと思う。つまり、unpisさんは、明らかにその内部に、アンリ・マティス、ロイ・リキテンスタイン、フェルナン・レジェ、キース・へリング、安西水丸、佐々木マキ、デ・キリコ、ルネ・マグリット、などなどの先人たちとは異質な何かを有している。
それは表面的な線や形や色彩といった絵画の構成要素の事ではなく、また、その構成方法の事でもなく、世界に対する認識であり、向き合い方であり、さらに世界との接合の仕方である。unpisさんの中の未踏の領域には、先人たちが持ち得なかった世界の未知の内奥と接続する回路が存在している。それは創造者の特別なオリジナリティの鉱脈として、unpisさんの中に、深く眠っている。
unpis(ウンピス)さんは、未完成の現在進行形の創造者(イラストレーター)なのだ。
それを本人が自覚されているのか否か、私には分からない。それ以前に、そもそも、そうしたこと自体が、単なる私の個人的な思い込みに過ぎないものかもしれない。
しかし、仮に、そうであったとしても、unpisさんの創造するイラストレーションをはじめとするその作品たちが、わたしたちのこころを強く握り締め揺さぶることに変わりはない。
不定形な透明性の中の夢が、真昼の白い光の中で、unpis(ウンピス)さんによって〈DISCOVER〉され、線と形と色彩を帯びて絵画の中に、方程式として、封印される。
追伸:アンリ・マティス、ロイ・リキテンスタイン、フェルナン・レジェ、キース・へリング、安西水丸、佐々木マキ、デ・キリコ、ルネ・マグリットの絵画の世界、その夢の断片
現在のunpis(ウンピス)さんの作品の中に、その夢の断片を見てしまう画家たちの作品集とその作品。これらの画家の作品の組み合わせは、一見、強引な煩雑なもののように見えるかもしれないが、慎重にその線と形と色彩とモチーフを腑分けし、再構成してみれば、それが必ずしも無理なものではないことが分かると思う。
ロイ・リキテンスタイン的フェルナン・レジェ的な線で描かれた部屋の中に、キース・へリング的な線で生み出されたモノたちが賑やかに騒ぎ立て、佐々木マキ的な物語が始まり、アンリ・マティス的安西水丸的な鮮やかな色彩が舞う。そこに、デ・キリコ的不安が影のように忍び寄り、ルネ・マグリット的驚異が湧き上が、世界の深遠なるものたちが、その姿を現す。
それは、unpis(ウンピス)さんが、彼らの正統なる継承者であるということも意味している。
unpis(ウンピス)さんは、アンリ・マティス、ロイ・リキテンスタイン、フェルナン・レジェ、キース・へリング、安西水丸、佐々木マキ、デ・キリコ、ルネ・マグリット、彼らが見つけ出した世界の美しさを、最良の形で引き継ぐ者のひとりなのだ。
アンリ・マティス(Henri Matisse)
ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)
フェルナン・レジェ(Fernand Leger)
キース・へリング(Keith Haring)
安西水丸
佐々木マキ
デ・キリコ(Giorgio de Chirico)
ルネ・マグリット(Rene Magritte)