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音楽のこと|Thank you for the music

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「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
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#thank_you_for_the_music

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「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
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(ちなみに“thank_you_for_the_music”は大好きなバンド、bonobosの曲からいただいた名前です)

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

分かりにくさ、分かりやすさ

映画のあと、ライブまでの時間を会場近くのプロントで過ごして、ふたたびLINE CUBE SHIBUYAへ。

折坂悠太さんのライブ2日目は、1日目とは違う印象を受けた。1日目よりも冷静なわたしで観られたということが大きかったのだと思う。折坂さんの歌、昨日よりエモいなーとか、お客さんの層がたぶん昨日とは違うなー(ビギナーが多かった感じ?)とか、「感じること」に「考えるこ

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【旅日記】東京2024秋|3.折坂悠太・呪文ツアー 〈 LINE CUBE SHIBUYA 10/17 〉

【旅日記】東京2024秋|3.折坂悠太・呪文ツアー 〈 LINE CUBE SHIBUYA 10/17 〉

あなたがくれた、とっておきの呪文

この旅の大きな目的というか、そもそもこのライブを観たくて決めた東京行きだった。LINE CUBE SHIBUYAはわたしの地元からは遠く、行きやすい会場とはいえなかったけれど、タイミングや流れに任せていたらいつの間にか東京に来ることになってしまった。

なんせ東京自体も久しぶりで、LINE CUBEは初めて。渋谷公会堂だった頃は何度か来たと思う。

開場前、列に

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「折坂悠太という歌があった」/折坂悠太 FUJI ROCK FESTIVAL'24・ホワイトステージ配信ライブレポート

「折坂悠太という歌があった」/折坂悠太 FUJI ROCK FESTIVAL'24・ホワイトステージ配信ライブレポート

(ライブレポートの練習として。敬称略。)

会場いっぱいにふくらんだ観客と、高まる期待が波のように押し寄せるホワイトステージ。バンドメンバーとともに現れた折坂悠太は、ブラックリネンのような柔らかなセットアップに身を包み、ステージの上、まずは深々と一礼した。

2022年のグリーンステージでも披露された「芍薬」で幕が開ける。いきなりの「芍薬」で一気に盛り上げる!というよりは、沸々としたエネルギーを徐

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詩「ニュー・ハチス」

詩「ニュー・ハチス」

風はそれ自体は見えず
つかむこともできない
けれどたしかにそこにあって
時々わたしの頬にふれる
木々の葉をざわめかせ
「好き」とささやく

今日はこんな感じね
わたしもこんな感じよ
呼んだり
呼ばれたりしながら

さて明日は
どこで聴こう 誰と聴こう
どこで歌おう 誰に聴かそう
あなたを

詩「スペル」

詩「スペル」

言葉は心を越えないものであってほしいと
願ってはいるけれど
ときどきうっかり
越えてしまう

越えた言葉で
傷つけた記憶が
わたしの傷となって
とどまり続ける

あの子に背負わせたもの
たったひとつの後悔が
今、わたしを生かす

全力のわがままと
ひまわりのような顔で
放つ言葉は
「愛している」

頬を落ちるしずくの温もり
ゆるむeyesと漏れる声

小さなてのひらのステージで
ねぇ、いっそ
踊り

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声、とは / 森山直太朗 20thアニバーサリーツアー 素晴らしい世界

声、とは / 森山直太朗 20thアニバーサリーツアー 素晴らしい世界

季節はすっかり秋深くなったこの頃ですが、今年の夏に私が体験した“きらめき時間”の中から、綴ってみようと思います。お盆の入り、8月13日に行われた森山直太朗さんのコンサート霧島市民会館公演を観に行ったことについて。

(※この先、演奏曲目などに触れています)

私の暮らす町からほど近い、霧島市民会館。国宝・霧島神宮を擁する、鹿児島県霧島市の市街地にあります。おそらくもう何十年も前に建てられた1フロア

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「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

重なり合う声で幕を開け、重なり合う声で幕を閉じたジェシー4部作。

はじめてその音に触れたときの踊り出したくなるような興奮と感動は、一度も止むことなく、とうとう終わりを迎えた。
そして、迎えたはずの終わりが始まりだったと分かるとき、すべてのいのちは循環し、永遠に続くのだという真理にたどり着く。

わたしの中で、わたしの外で、「全体」を形づくるそれぞれの「一部」が、互いにめぐり、めぐらせながら生きて

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エッセイ「燃え殻」

エッセイ「燃え殻」

仕事からの帰り道、まあまあ長い運転時間に、スマホでradikoを開いた。くたくたの体でも聴けるようなテンションのものがいいなあ。検索しながら目に入ったのは、「燃え殻」さんの番組。なんとなく聴いてみようという気持ちになって、再生ボタンを押した。

ラジオでは、おそらく燃え殻さんが選んでいるのだろう音楽が流れ、彼自身によるエッセイの朗読があった。昔、テレビ局のバックヤードで働いていたこと、その頃は組織

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ジェシー1

ジェシー1

なにかがはじまりそうな、
もうすでにはじまっているような、
必要最低限の音でつくる静けさが
進みゆくなにかを待っている

張り詰めた空気と安らぎが同時にたゆたう中、
重なり合う声
心拍のごときリズム

からの、
爆発!で
エネルギーが一気に溢れだす

これは日本の古い民謡にあるメロディーではないのか
らっぱと笛によるファンファーレ、
うねりが連れていく先に差しこむのは


そこでついに歌!
言葉

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2020年大みそか

2020年大みそか

今日は年の瀬にふさわしく、すこぶる明るい一日だった。
朝、目が覚めると窓の向こうの屋根はまっしろ。
テレビで、新聞で、散々聞いた「九州でも大雪」の予報ほどではなかったけれど、久しぶりの、たしか3年ぶりくらいの雪と
心の中で「やあ!」とあいさつをした。

朝ヨガのち お茶漬けをすすり、
すこし落ち着いてから 年末恒例の鶏の煮付けを作る。
庭で採れたりっぱな大根は二股で、かわいいあの子が小さかった頃み

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あのキラキラの方へ

あのキラキラの方へ

アップルミュージックでたくさんの音楽に出合って、最後に行き着くのはやっぱりスピッツ。

ああ、みずみずしいなあ。
輝いているなあ。
すべてが美しくて、言葉では説明したくない。

いろいろな音楽に出合うことはとても大切。
他を知るからこそスピッツに戻ることができるし、大好きな気持ちはますます膨らむ。

聴くほどに新しい発見をくれる。
その時その時にふさわしい、毎回違う感動をくれる。
本当に魔法のよう

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おやすみ



どうしたの ねむれないの

ほらみてごらん
おかあさんだよ
あなたにそっくりね

おめめ、はれてるの?
かみの毛がいっぱいだね
おじぞうさんみたい
おねんねしてる

うん、とてもきもちよさそうね

たくさんたべて
たくさんあそんで
たくさんねむるのよ

うんちもおしっこも
わらって おこって ないて
あなたもいそがしいね

しかられても できなくても いいのよ
たのしいことをたくさんするのよ

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月明かりの下で

 さっきまでおえつを堪え号泣していたのが嘘みたいに、彼女はケラケラと笑い半歩先を歩く。
「ライアン・ゴズリングのダンス、ぎこちなくて最高だったねー!」
と、たまに振り返りながら。

夜に外出するのは久しぶりとあって「なんか良さそう」とあらすじをよく確かめず映画に誘った。予想に反し決してハッピーエンドとはいえないストーリーの展開に僕はもやもやを抱えてしまったのだけれど、彼女はとても満足そうだ。

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