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演奏する人と教える人、そして教わる人の話 4(指導者さんは呼吸の正しい解説ができますか?)

先日SNSとYouTubeを見ていて少々思うことがあったので、一旦冷静になって誤解のないようにnoteに少しずつ書くことにしました。前回は自分が若い頃に仕事を得るためにブログを始めた時の話を中心に書きました。

前回までの記事はこちら。

ぜひこちらの記事をご覧になった上で続きとしてお読みいただければ幸いです。


自分がブログを始めたもうひとつの理由

僕がトランペットや音楽に特化したブログを書き始めたのは、仕事を得る目的ための他にもうひとつ、同じ業種の人が発信している内容にも「一言物申したいから」です。

今もなお、インターネット上での動画やSNSで「テキトー言うなー!」と言いたくなる内容がとても多いです。
中でも最近僕のアカウントにオススメなのか何なのか突然出てきた吹奏楽指導系のショート動画、実際の中高の吹奏楽部の現場で撮影している動画を少し見たら、体の使い方や呼吸に関する解説がフィジカル的根拠がまったくなく、具体性と抽象性が入り乱れた状態なのにもかかわらず、実際に体を使わせている点で、これは教わっている子供たちがさすがにかわいそうだと感じます。部活動にはびこる謎の都市伝説が生まれた瞬間を目の当たりにしました。

残念ながらこのように指導者自身が理解していない(もしくは間違った理解をしている)部分を根拠のない抽象的な表現で、あたかも具体的な方法のように指導し、結果支離滅裂なアドバイスになっていることが大変多いのです。

こんな指導をしていたら、管楽器や吹奏楽のレベルは上がらないだけでなく、フィジカル面に問題が発生する可能性があります。例えば顎関節症や腰痛(ヘルニア)や、腱鞘炎、他にも「潰れ」と言って経験者がフィジカル的に問題がある吹き方を続けることで音が出せなくなる状態(トランペットに多い)などが挙げられます。

指導者の言葉には「具体」と「抽象」がある

音楽の指導や指揮者の言葉には「具体」と「抽象」があり、レッスンや合奏練習時は、それらが入り乱れて交わされることが多いです。

例えば、「楽譜に書いてある音と違うよ」とか「1拍目のタイミングを揃えて(ずれてるよ)」は具体的な指示です。一方で「小さな雨粒が落ちた時のようなスタッカートを」「このフォルテは天にも昇る心地で」は抽象的です。
抽象的な言葉は受け取る側のイマジネーションに比例して影響力を及ぼすのでフィジカル的問題は起こりにくいのですが(伝わらなくて表現力がなかなか成長しない、という問題は度々起こります)、具体的な指示は直接フィジカルコントロールをするので慎重に行わなければなりません。特に人体は原理は基本的に共通しているにも関わらず個体差があるために、同じ言葉をすべての人に伝えたところで良い結果が生まれる可能性は低いのです。指導者は個体差を見抜いた上でフィジカルのお話をしたり、あまり具体的すぎないところで解説を止めるなどの工夫が必要です。

また、アドバイスは具体と抽象の二極化ではなく、具体的な表現をより音楽的に理解し、共有するために抽象的な表現を織り交ぜることもあります。これが最も技量が試されるところです。

例えば合奏で「トランペット、音が聴こえないからたくさん息を楽器に入れて客席の一番後ろまで音を飛ばして」というアドバイスは0点です。いや、マイナス点です。

音楽は目に見えない「音」で感情や情景など様々なものを表現する行為ですし、管楽器は目に見えない空気を目に見えない体の中で感覚的にコントロールして演奏しているのですから、指導する側も受け取る側も非常に難解なことをしているわけです。

指導者が最も理解できていないのは「呼吸」

皆さんは人間の呼吸がどのように行われているか正しく説明できますか?

医療の世界ではこんな話、もう当たり前すぎることなのに、管楽器という同じくらい呼吸のことを理解しておくべきこの世界では未だ正しく説明できない指導者が圧倒的に多いです。
呼吸の仕組みを理解できていない人が、果たして管楽器の正しい演奏方法を解説できるのでしょうか。

「息を全部吐いたら沢山吸えるとか」「喉を開いて」とか「楽器に沢山息を入れて」「音を遠くへ飛ばす」とか、言ってませんか?

管楽器指導者さんに質問です

ではここで確認してみましょう。指導者の方、以下の単語は呼吸に関係するものですが、すべて理解でき、説明ができますか?そしてそれぞれがどのように関連し合っているか説明できますか?

吸気、呼気、横隔膜、腹筋、腹直筋、肺、胸膜、胸膜腔、陰圧、肋骨、肋間筋、呼吸中枢、横隔神経、腹腔、腹横筋、骨盤底筋群、腹圧、気管、気管支、肺胞、酸素、二酸化炭素、胸郭

また、僕は「息」という言葉を多用している指導者は、残念ながら呼吸をあまり理解できていない傾向にあると思っています。なぜなら「息」とは大変に抽象的な言葉で、一体どこから発生した何がどこへ向かって存在するものかハッキリしないのです。このようなアバウトな言葉を多用すると教わる側は共通した認識を得られにくくなり、生徒さんとの意思疎通が図れません。

「楽器に息を入れる」という表現が吹奏楽界隈で当たり前のように使われていますが、これは管楽器を正しく演奏できなくする最凶ワードのひとつです。管楽器の管は水を流すためのホースでもなければ、ピッチングマシンのボールが通過する道でもありません。この管に空気の流れを強く生み出すと共鳴は消え、単なる唇のビービーした振動音(バズィング)がベルから聴こえてくるだけになります。

指導者が「楽器に息をたくさん入れなさい」と言っておきながら「音を遠くへ飛ばせ!」と具体と抽象を織り交ぜて矛盾したことを平気で言っているのは、もはや滑稽の域です。

ちなみに僕はレッスンで「管に空気が流れ込まないようにしましょう」と伝えています。

指導の初心者

厳しいことを書かせてもらいましたが、まあそんな偉そうなことを言っても、前回の記事でも書いたように僕もブログでトランペットの奏法や音楽に関することを書き始めた当時は、相当的外れで根拠や検証が不十分の稚拙な内容ばかりでした。

言い訳するつもりはありませんが、誰もが管楽器初心者だったことがあるように、「指導の初心者」の時代があるわけです。経験則ですがそうした人たちの大多数は、その時その時の最善を尽くして、確信を持って演奏や解説の動画を配信したり文字を書いているのだと思います。

そこまで僕はたくさんのアドバイス動画を見たことはないのですが、嘘を言ったり、わざと惑わすようなことをしたり、詐欺のように何かを買わせようとするアカウントに出会ったことはありません。多分みんな一生懸命動画で有名になったり演奏の仕事依頼やレッスンの申し込みが来るのを純粋に願っているのだと思います。

みんな音楽の世界で生きていくために必死なんです。僕もずっと必死にやっています。しかし、レッスン動画を配信する人は、その動画を様々な人が見る可能性を理解した上で、常に学び、成長する姿勢を持ち、練習、研究、実験を繰り返さなければなりません。

実際に指導現場に行く人は、知ったかぶりをするような変なプライドは持たないようにして(知ったかぶりしないで済むくらい学びなさい)、常に自分が伝えていることは正しいのかを検証しつつ、生徒さん以上に成長していくつもりで練習に励まなければなりません。

知ったかぶり、検証が不十分な情報は、どこかで矛盾や理論の破綻が起きるため、それを抽象的な単語や情報で穴埋めすることによって「都市伝説」が生まれています。
この都市伝説を信じて日々の練習をしている吹奏楽部が多いこと多いこと。指導者は責任を感じなければならないと思います。

ということでまだこの話続きます。


荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。