イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル
すっかり遅くなってしまったが、昨年のイヴ・サンローラン展について、下書きで温めて過ぎてしまった所感を残しておきたい。
東京ではここ数年、ラグジュアリーブランドの大回顧展・世界巡回展が続いていた。一昨年(2022年)夏は32年ぶりのシャネル、一昨年末から昨年(2023年)春にかけてのディオール、そして昨秋(本記事の主題)のイヴ・サンローラン。
一昨年秋には、サンローラン主催の世界巡回展 “BETTY CATROUX YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展” もあったので
イヴ・サンローラン自身の作品を見られる機会は、ディオール(イヴ・サンローランはクリスチャン・ディオールの2代目のデザイナーである)も含めれば実に2022年からの一年で3回目だった。
なんと貴重な機会だろう。
そんなこともあり開幕早々足を運んだが、今回はイヴの生涯を通じたクリエイションが網羅された、充実したまたとない展覧会だった。
私は2019年にイヴ・サンローラン美術館パリを訪れているのだが
(手前味噌ですが、上記の投稿にはイヴ・サンローラン美術館パリでの写真を多く載せています。本展に行かれた方にも楽しめる内容になっていると思うので、是非合わせてご覧ください)
本展では、パリからオートクチュールラインが数多く来日し(ルック100体を含む計262点)、時系列、そしてジャンル別にまとめられていたことも功を奏して、イヴ・サンローランが生涯でどのようなドレスを製作したか、そして彼がどのような哲学を軸に制作を行ったかも包括して知ることができる内容だった。私にとっても縁深く、思い入れのあるイヴ・サンローランの大規模回顧展について、印象深かった点を振り返ってみたいと思う。
ペーパードールとおてんばルル
最初の章(“0 ある才能の誕生”)で一際美しかったのは、イヴが16歳頃に作成した “ペーパードール”。
母親の雑誌から切り出した人形に着せるドレスを描き、着せ替えできるように折り返しが付けられた紙のドレス。昔、子ども向けの雑誌の付録に付いていたような “あれ” である(注: 私は1970年代生まれ)。写真を載せられないのがいたく残念だが、これがうっとりするほど美しく精巧で、同じく紙でアクセサリーまで作られているのはこれまた圧巻だった。早くからイヴの天賦の才能は芽を出していたのだと感じずにはいられない代物でもあった。
この章でもう一つ特筆すべきは、“おてんばルル”。これが何かと言えば…
ディオールのアトリエで働き始めた頃のイヴが描いたストーリー性のあるイラスト、つまり漫画のようなものだけれど、これが滅法可愛くてたまらない。こういう作品が見られるのも回顧展ならでは、である。
“ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠である”
2つめの章(“1 1962年 初となるオートクチュールコレクション”)に進むと、スペースの中央にはタイトル通りイヴの初期のオートクチュールコレクションが一堂に並べられており、それはまるでショウのランウェイさながら。
“Fashion passes, style remains.”
“ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠である”
イヴの初期のルックの背景に見えるのは、彼の象徴的なメッセージ。
ファッションが身に纏うものを指すなら、スタイルとは、それを含めたその “人となり” そのものだと私は思う。その人の雰囲気や、仕草や醸し出す空気感までも含まれるかもしれない。
同じ服を着ても、同じようにはならない。それがスタイル。
ファッションにこだわっていてもいなくても、醸成されるもの。それがスタイル。
スタイルはその人と共に生き続ける。肉体は滅びても、その人のスタイルはある意味、残り(生き)続けるものだ。だから永遠とも言え得るのだと思う。そして結局のところ、ファッションはスタイルをつくり出す “一片” に過ぎない、とも。
こんなにも著名で、数多の “ファッション” をつくり出し、世界的にも名声を馳せたデザイナーのイヴ・サンローランが紡いだ、“ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠である” - このメッセージの意図するところを、あなたはどう解釈するだろうか。
コレクションボードの端正な美しさ
イヴとパートナーのピエール・ベルジェは、ブランド創設時から自分たちが作り上げた作品を美術館や財団のようなところに後々収めたいという意志があったようで、それ故当初からそのつもりで作られたというドレスの下絵(仕様書)はそれはそれは美しく、目を奪われる代物だった。イヴのクリエイティブな才能は言うまでもなく、説明書きやらナンバーやらを、これまた美しく仕様書内に手書きで収める、というロジカルなバランス感覚も併せ持っていたことが、端的に理解できる作品でもあった。
モンドリアン・ルックとの再会
実際のところ、本展で撮影可能だったのはこの “9 アーティストへのオマージュ” の章のみだったのだが、メインヴィジュアルにもなっているモンドリアン・ルックとの再会(2019年10月のパリ以来)が、私には一際印象深い章だった。
美しくて、楽しくて、うっとりして、イヴ・サンローランのクリエイションが五臓六腑全てに沁み渡る、それはもう私には “たまらない” 展覧会だった。
(会期終了)
イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル
Yves Saint Laurent, Across the style
会期: 2023年9月20日(水)~12月11日(月)
会場: 国立新美術館
※ 挿入されている写真及び画像はすべて筆者の撮影によるものです。
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