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『文豪たちの悪口本』(彩図社編集部)

【内容】
文豪たちが綴った悪口を集めた本。

【感想】
「刺してやる」
芥川賞貰えないからと、そんなこと書かれるなんて、太宰治は本当にタチ悪い…
出てくる悪口は、どれもなかなかに酷いですが、これは口の悪さなんてものを越えて脅迫ですよね。
その他にも、太宰の悪口はど起こしていて…
太宰の志賀直哉への痛烈な批判の後、愛人と一緒に入水自殺してしまうとか、批判された志賀直哉としては最悪としか言えないですよね。
寝起きが悪いというか、後味が悪い幕引き…

もう一つ、印象に残った悪口が、谷崎潤一郎とその妻、そして佐藤春夫を巡る三角関係のドロドロの悪口合戦でした。
薄らと知っていましたが、谷崎と佐藤の感情的な手紙のやり取りと、その後の顛末は本当に生々しいですね。
ざっと事の経緯を書くとこわな感じです。
谷崎は当時、奥さんと結婚していながら、その妹に惹かれた交際しようとしたけれど断られて、再び奥さんと元鞘に戻る。
しかし、当時の谷崎の奥さんに惹かれていた谷崎の友人の佐藤は、谷崎の妻と付き合おうとして、谷崎が元鞘に戻ろうとすると振られることになる。佐藤は未練たらたらで谷崎と揉めて、谷崎とは絶縁、水商売の女性と結婚する。
しかし、20年以上経って谷崎が妻と別れると、佐藤は水商売していた妻と別れて、谷崎の元妻と再婚する。
当人同士のことなのでなんとも言えないですが、色々と本当に酷いなあと…
当時もスキャンダラスだったのでしょうが、今のご時世でそんなことが起こったらどうなっていたのかと…


子供の頃、教科書に載っているような作家たちが、こんなに子供じみた悪口を言い合っていると知っていたら、逆にその小説を読んでみたいと思う子供もいるのではないかと思ったりもしました。
『走れメロス』で太宰治を知るよりも、恨みつらみを大人気なく興奮して書きつらねている太宰治の方が、強烈に刺さる子がいるような気もします。
まあ、そんなものばかり読むような子供にしたいと思う先生や親は、あまりいないとはおもいますが…


そもそも教科書の載っている小説の定番(?)の『坊ちゃん』なんて、悪口のオンパレードだったりしますよね。
あと、『坊ちゃん』の中で、愛媛のことを田舎者だなんだとあんだけ悪口言われてんのに、『坊ちゃん空港』なんて名前を付けるなんて、どんだけ厚顔無恥…もとい温厚な県民性なのだと思ったりもしますが…
どうもこの本の語り口に感化されて、うっかり口の悪いのがうつりますね。


この本自体は、編集者が古い本の文章を頑張って集めて、それでそれなりの本にまとめたというコンセプト一発の企画もので、よく出来たコンセプトだと感じました。
アイデア一つで、こうした本を作れるというのは、これからの出版業界にとって光明であるとも感じました。
そんなもの連発出来ないから、出版業界が苦しいんでしょうけど…

https://www.saiz.co.jp/saizhtml/bookisbn.php?i=4-8013-0372-0

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