質問146:「ライジングショット」をマスターするには?
回答
▶意識しない
いろんなアプローチの仕方はありますが、あるショットを習得するにあたっては、「どういうボールを打とうかと、意識しないこと」です。
「強く打とう」や「あそこを狙おう」などと、意識しない。
意識すると、体による自動操縦にはなりませんから。
▶「自然上達」が起こるとき
強いショットが必要なときには、体が自動的にそのように反応する。
ドロップショットが必要なときも、またしかり。
そのようにしてショットに意図を持たせず、「操り人形」のように動いていたら、いつの間にかイメージどおりのショットが打てるようになるというのが、体による「自然上達」のプロセスです。
フラフラしていたら、いつの間にか自転車に乗れるようになるようなものです(関連記事「フラフラ『する』からフラフラ『しなくなる』」)。
▶自意識をなくしてボールと「同調」する
どのようなショットを打とうかと意図すると、慣れないうちはどうしても、結果(意図したショットが打てたかどうか)のほうに、意識がいきがちです。
体は意図的に動くのではなくて、ボールと見えない糸でつながっていて、その行方や深さに応じて操られるイメージ。
これが、自意識をなくしてボールとの同調を叶えます。
従来の常識とはかなりかけ離れているため信じられないかもしれませんけれども、気にしないでください。
ここに重要なパラダイムシフトがあります。
▶「環境」が能力を育む
ライジングショットの習得を志すにあたっても、「ライジングショットを打とうと意識しない」。
「えっ? それじゃあライジングショットが打てるようにならないじゃないか!」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
どうすればライジングショットが身につくかというと、意識しなくても打てるように「練習環境を整える」と、自動的にそうなります。
環境が能力を育むのです。
すなわち、浅めのチャンスボールが来たらポジションを上げてライジングショットを打つというふうに意識するのではなく、あらかじめベースライン内に入っておいて、すべてのボールを、ポジションを上げて処理する。
▶ライジングを「打つ」のではく、ライジングに「なる」
セルビアが空爆されて練習コートを奪われた折、水を抜いたプールの中にネットを張ってテニスコート代わりに利用したと聞いたことがありますけれども、当然壁で囲われているから、後ろへは深く下がれません。
そんなイメージでしょうか。
そうすれば、「ライジングを打つ」のではなくて、「ライジングになる」。
元大リーガー・イチローの言葉を、今回の文脈になぞらえて私なりに意訳すれば、「振り子打法で打つ」のではなく、「振り子打法になった」。
そうしてボールに対し、自分の体を「操り人形化」させれば、「ライジングを打とう」と意識しないから、無心になります。
無心になると、ボールに集中するのです。
▶「急がば回れ」がいちばん速い
とはいえ、もちろん失敗もしますよ。
環境を整えたからといって、すぐに打てるようになるという話ではありません。
しかし意図的な調整を加えず、たくさん失敗を経験して感覚的にコツをつかむというのが「急がば回れ」で、結局のところ遠回りのようでいていちばん速いのです。
▶能力の「進化」も「劣化」も環境しだい
環境が能力を育む。
逆に劣化の例を挙げると、蚤はビンの中に入れられて蓋をされると、飛び出す跳躍力はあるのに、蓋を外されても飛び出せなくなります。
象は鎖に繋がれて育つと、大きくなって鎖を引きちぎる破壊力はあるのに、逃げようとしなくなります。
進化か劣化かはさておき、いずれにしても「環境が能力を育む」のです。
素質や才能(元の跳躍力や破壊力)ではないのですね。
ですから能力を伸ばすには、「そうなる環境」を整えるのがポイント。
英語をマスターしたければ、英語でコミュニケーションせざるを得ない海外へ、英語がまだできなくても行ってしまうのがいちばんです。
その生活は確かに、当初は「快適」ではないかもしれません。
言葉が通じなくて、寂しい思いもするでしょう。
ですが、「コンフォートゾーン」の環境から抜け出すからこそ能力が育まれるのが「自然上達」です。
▶結局文法では、英語は話せない、聞けない
頭で考えて、跳ね上がってくるボールに対してラケット面を伏せ気味にするとか、ライジングマスターの伊達公子さんのように、テイクバックは下から逆ループするとか、ヒジをたたんでコンパクトにフォロースルーするとか、そういうことを意識すると、習得するのに時間がかかります。
英語を、大学受験勉強のかっこでくくる文法(フォーム)でマスターしようとするようなものだからです。
ライジングのボールを捕えるタイミングは「感覚」ですが、そういったフォームや打ち方を意識するのは、トレードオフの「思考」。
率直に言えば、英語を文法で勉強しても、結局コミュニケーションが図れないのと同様に、いつまでたってもライジングをマスターできない可能性のほうが高くなります。
▶お婆さん、川へ洗濯に行く
私たち日本人も、日本語には「4文型」があるそうですが、意識しませんよね。
ですが、米国合衆国国務省が「唯一の”カテゴリー5+”」として最高難度に認定している、世界でも圧倒的に難しい言語である「日本語」を、私たちは感覚で話したり意味を理解できたりします。
お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お婆さんが川へ洗濯に行きました。
文法は分からなくても、このニュアンス(感覚)の違いをくみ取れるのです。
▶的を見ずに的を狙う
逆クロスを打つのも同様です。
逆クロスを狙おうと意識しなくてもいいように、あらかじめ方向付けをしておいて、機械的に(意識しなくてもいいように)、淡々と逆クロス打ちを繰り返します。
打つ時には、もう的も見ず、あとはひたすらにボールの回転に、飛んで来るときも飛んで行くときも、目のピントを合わせ続けます。
▶コントロールを意図的に「調整しない」
ポイントは、「右へ飛びすぎたから、もっとセンターよりへ」「センター側へ飛びすぎたから、サイドアウトするつもりで」などと、ターゲットを意図的に調整して変えないこと。
あくまでも狙う逆クロスに据えたターゲットを中心に、打ったボールがどれくらい的から乖離したかの情報を脳が受信して、的にまとまるコントロール力が培われます。
どれくらい乖離したかも、意識して確認しません。
それはボールの回転を見ていたら自然と分かることだからです。
▶順序が大事
このようなライジングや逆クロスの練習を環境として経験することが、イメージ作りとなり、ショットを完成させる上での設計図になります。
設計図があれば、意識しなくても、試合でそのような状況になったら、体は自然とライジングや逆クロスを打つのです。
ただ、冒頭で申し上げたとおり、ショットの習得にあたってはいろんなアプローチの仕方があります、発達の段階に応じて。
「順序」というのが大事で、家を立てるなら、土台が先で、屋根はあと。
野菜も適切な大きさに切ってから、火を通します。
ですから、今回ご説明しているのとはまったく逆の、徹底的にコースの打ち分けを意識するということも、発達の段階に応じた練習の目的によっては行います(関連記事「順調に上達していくポイントは『順序』」)。
▶家の土台、料理の下ごしらえ
とはいえ今回の「操り人形化」の話は、いちばん基礎となる部分。
自分から意識して動こう、狙おうとせず、目に見えない糸でつながれたボールに体を操ってもらうイメージです。
基礎ですから、家でいう土台。
料理でいう下ごしらえ。
だからこそ、いちばんのポイントともいえるところです。
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