大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control doctor (ICD)、感染制御認定臨床微生物検査技師、第1種滅菌技師、認定抗酸菌エキスパート、抗菌薬臨床試験認定者、文部科学省認定統計士、フィットテストインストラクター。

大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control doctor (ICD)、感染制御認定臨床微生物検査技師、第1種滅菌技師、認定抗酸菌エキスパート、抗菌薬臨床試験認定者、文部科学省認定統計士、フィットテストインストラクター。

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最近の記事

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の接触予防策中止に関する緩和の妥当性

はじめに メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が患者から検出された場合、CDCは接触予防策による対応を推奨しています。一度、接触予防策を開始すると、どの時点で対策を解除するかのタイミングが議論になることがあります。一般的には培養等でMRSAが連続3回陰性の場合は解除可能とすることが通例です。 今回ご紹介する論文は、米国のバージニア大学病院において、現在の「3陰性」ルールを、「2陰性」または「1陰性」のいずれかに引き下げた場合の経済的コストを評価したものです。   方法 2

    • 急性期医療施設における呼吸器ウイルスの発生率とクラスター関与:観察研究

      はじめに 呼吸器ウイルスは病原性や伝染性だけでなく、宿主の状態により、感染性が異なります。また、そのようなウイルスが院内でクラスター化するかどうかは、ウイルスごとの特異的な感染機序によっても様々だと推察されます。 今回ご紹介する論文は、米国の2つの急性期病院において、3シーズン(2017–2020年)に渡ってデータを収集し、発生率やクラスターへの関与についてまとめた報告です。 方法 調査期間中、呼吸器ウイルス検査は医療者の判断で指示され、検査結果が出るまで飛沫および接触予防策

      • 米国のトイレにおける水洗時閉蓋後曝露と便器洗浄による環境表面ウイルス汚染の影響

        はじめに トイレを水洗すると、便器に溜まった水がミストやエアロゾル化して、トイレ環境表面を汚染するだけでなく、空気中に拡散することにより、それらの中に潜在する微生物が伝播するとの報告があります。よって、水洗時はトイレの蓋を閉めることが重要とされてきました。しかし、閉蓋による実際の効果はこれまで確かめられていませんでした。 今回ご紹介する論文は、水洗前にトイレの蓋を閉めることによるエアロゾル発生の抑制効果、および便器周辺の環境表面への汚染状況を明らかにした米国からの報告です。

        • トイレタンクからのレジオネラ防止対策

          はじめに レジオネラは水環境に生息し、ときに病院の水道を介してアウトブレイクを引き起こすことがあります。特に免疫不全患者は重症レジオネラ感染症のリスクが高いため、近年では血液内科病棟などのシャワーヘッドをフィルター付きに変更している施設も見られます。 今回ご紹介する論文は、トイレ洗浄用貯水槽(タンク)由来のレジオネラ患者死亡例を発端としたアウトブレイク調査結果と、トイレタンクにおけるレジオネラ防止対策の提案をまとめたドイツからの報告です。   方法 レジオネラ選択寒天培地を用

        • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の接触予防策中止に関する緩和の妥当性

        • 急性期医療施設における呼吸器ウイルスの発生率とクラスター関与:観察研究

        • 米国のトイレにおける水洗時閉蓋後曝露と便器洗浄による環境表面ウイルス汚染の影響

        • トイレタンクからのレジオネラ防止対策

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        • 手指衛生
          4本
        • シンク
          1本
        • 空気清浄機
          1本
        • COVID-19
          1本
        • 隔離
          1本
        • 清掃
          1本

        記事

          COVID-19と季節性インフルエンザによる入院後の長期転帰:コホート研究

          はじめに 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザは、同じ呼吸器感染症で、現状では急性期において非常に似た症状や徴候を呈します。しかし、COVID-19はいわゆる後遺症が問題となっているように、長期間に渡って症状が持続する傾向があり、インフルエンザにはそのような長期症状は特徴的ではありません。 今回ご紹介する論文は、COVID-19と季節性インフルエンザで入院した患者を対象とした、入院後の総合的な健康転帰、急性および長期のリスクと影響を比較評価した米国から

          COVID-19と季節性インフルエンザによる入院後の長期転帰:コホート研究

          パンデミック下の供給不足におけるN95レスピレーター供給を維持するための戦略

          はじめに 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期段階においては、世界各国で個人防護具(PPE)の供給不足に陥りました。特にN95レスピレーター(N95)は、その生産会社が集う米国でも深刻な不足となりました。急場を凌ぐために、各医療施設は地域社会からN95の寄付を募りましたが、様々なタイプ、サイズ、状態、数量のN95が殺到したため、選別の必要性に迫られました。 今回ご紹介する論文は、寄付されたN95をどのようにして選別し、効果的なものだけを臨床現場で使用

          パンデミック下の供給不足におけるN95レスピレーター供給を維持するための戦略

          医療用マスク着用が新型コロナウイルスの院内感染に与える影響

          はじめに 病院内におけるマスク着用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期より、院内感染を防止する目的で講じられた対策のひとつです。全人類的なワクチン接種、オミクロンへのドミナント変遷などによって、COVID-19の重症化リスク軽減されたことから、多くの国では一般生活の上でのマスク着用は緩和されました。しかし、新たな新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の亜種や他の呼吸器系ウイルスの流行のリスクが続いていることから、医療施設ではマスク着用の対策が

          医療用マスク着用が新型コロナウイルスの院内感染に与える影響

          腹部創閉鎖時の定期的な無菌手袋と器械の交換による手術部位感染の予防:7つの低所得および中所得国における実用的なクラスター無作為化試験

          はじめに 手術部位感染(SSI)は、発生すると莫大なコストと患者への負担が発生するため、世界的な予防への取り組みが実施されています。米国疾病管理予防センター(CDC)や世界保健機関(WHO)などがSSI予防のガイドラインを発布していますが、手術を終える際の閉創直前の手袋と閉創器械の交換については、明確なエビデンスが欠如しているといわれています。 今回ご紹介する論文は、閉創時の手袋と器械交換の有効性について検討した多国籍RCTです。   経緯と方法 この研究はベナン、ガーナ、イ

          腹部創閉鎖時の定期的な無菌手袋と器械の交換による手術部位感染の予防:7つの低所得および中所得国における実用的なクラスター無作為化試験

          集中治療室における気管支鏡検査に伴う水痘・帯状疱疹ウイルスの擬似集団感染

          はじめに 軟性気管支鏡(以下、気管支鏡)は、気管支や肺胞の検査、肺の浸出液吸引のために急性期病院では広く利用されています。気管内にも微生物が常在しているため、気管支鏡の再生処理が拙い場合は、気管支鏡を原因としたアウトブレイクが発生する可能性があります。 今回ご紹介する論文は、集中治療室(ICU)において、気管支鏡の洗浄・消毒不良が原因と推定された播種性水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による擬似集団感染事例です。   経緯と方法 33歳の男性が播種性VZV感染症のためICUに入

          集中治療室における気管支鏡検査に伴う水痘・帯状疱疹ウイルスの擬似集団感染

          2010-2018年におけるノロウイルス感染による入院と死亡のリスク

          はじめに ノロウイルスは比較的予後が良い感染症ですが、感染者の中には重症化し、死亡する例も報告されています。しかし、その割合やリスクについて疫学的な評価を行った報告はあまりありません。今回ご紹介する論文は、米国の退役軍人病院を受診したノロウイルス感染症患者のデータをもとに、ノロウイルスによる感染が入院および死亡率に及ぼす影響を推定しています。   経緯と方法 2010年1月1日から2018年12月31日の間に、退役軍人病院(米国に多数存在し、データが一括管理されているため、疫

          2010-2018年におけるノロウイルス感染による入院と死亡のリスク

          医療従事者へのMPOXウイルスの院内感染-新たな職業上の危険性-症例報告と文献のレビュー

          要旨 皮膚科の研修医がMPOX (monkeypox)ウイルス感染者の診察後にMPOX感染症(サル痘)を発症した珍しい症例を報告します。ウイルスのDNA配列の解析により、最も可能性の高い接触者を特定することができました。この症例は、これまでに報告されたすべての症例をもとに、個人防護具(PPE)を装着していても医療従事者にMPOXが感染する危険性があることを支持するものです。また、新たな皮膚病変を有する患者を診察する際には、強く疑うことを意識し続け、そのような患者からの検体採取

          医療従事者へのMPOXウイルスの院内感染-新たな職業上の危険性-症例報告と文献のレビュー

          集中治療室における気管支鏡検査に伴う水痘・帯状疱疹ウイルスの擬似集団感染

          はじめに 軟性気管支鏡(以下、気管支鏡)は、気管支や肺胞の検査、肺の浸出液吸引のために急性期病院では広く利用されています。気管内にも微生物が常在しているため、気管支鏡の再生処理が拙い場合は、気管支鏡を原因としたアウトブレイクが発生する可能性があります。 今回ご紹介する論文は、集中治療室(ICU)において、気管支鏡の洗浄・消毒不良が原因と推定された播種性水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による擬似集団感染事例です。   経緯と方法 33歳の男性が播種性VZV感染症のためICUに入

          集中治療室における気管支鏡検査に伴う水痘・帯状疱疹ウイルスの擬似集団感染

          数日間入院した患者におけるサル痘発症:曝露された医療従事者の感染リスク評価

          はじめに 2022年に流行が確認されたサル痘は、2022年1月1日から10月30日までで、109の国・地域から77,264人の累積感染者数と、36人の累積死亡者数を記録しました(WHO発表)。サル痘は天然痘に似た皮膚病変が特徴的ですが、感染者の中には皮膚病変がほとんどない非典型的な症例もあります。このため、診断が遅れ医療従事者への曝露リスクが高まる可能性があり、現に医療従事者への感染例も報告されています。 今回ご紹介する論文は、サル痘の診断が遅れた入院患者に適切な個人防護具(

          数日間入院した患者におけるサル痘発症:曝露された医療従事者の感染リスク評価

          中間報告における抗酸菌喀痰塗抹鏡検代替としてのXpert(エクスパート)

          はじめに 抗酸菌喀痰塗抹鏡検は100年以上前に医療現場に導入され、以来、活動性肺結核の診断に使用されています。しかし、この検査は感度が低く、結核菌と非結核性抗酸菌を区別できないため特異度も低いことが課題です。Xpertなどの分子検査は、臨床検体中の結核菌を迅速かつ正確に検出する能力に優れており、塗抹鏡検に代わる有用な方法として注目されています。この論文では、抗酸菌感染症が疑われる患者におけるXpert検査と塗抹鏡検の診断性能を比較しています。   方法 肺結核が疑われる2,9

          中間報告における抗酸菌喀痰塗抹鏡検代替としてのXpert(エクスパート)

          人工知能を用いた整形外科手術部位感染サーベイランスの作業負荷の軽減

          はじめに 手術部位感染(SSI)サーベイランスは、手術に関連する感染症を抑制させるために米国CDCが提唱した感染対策の取り組みです。日本ではJANISの集計によると約800の医療機関がSSIサーベイランスに参加しています。SSIサーベイランスは他のターゲットサーベイランスと比べて、判定が画一的でないため、手術を受けた患者一人ひとりのデータを確認する必要があり、労力を要します。 近年、急速に発展しているAIは、医療業界にも進出しており、サーベイランスへの活用も期待されています。

          人工知能を用いた整形外科手術部位感染サーベイランスの作業負荷の軽減

          ディスポーザブルガウンの物理的性能評価

          はじめに COVID-19パンデミックは、医療従事者や患者を感染から保護するための個人防護具としてのガウンの必要性を浮き彫りにしました。厚生労働省はガウン枯渇による苦い経験を踏まえて、ガウンなどを備蓄する政策を感染症法に盛り込み、多くの医療機関では約2年分のガウンなどを備蓄しなければならなくなり、厚生労働省も数年分のガウンを備蓄しています。備蓄に関しては耐久性の強いガウンを選択しないと、使い物になりません。 ガウンの耐久性を評価する世界的な標準は現在のところなく、各国独自の耐

          ディスポーザブルガウンの物理的性能評価