大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control do…

大石貴幸

感染対策の専門家です。主な資格等は、医学博士、Infection control doctor (ICD)、感染制御認定臨床微生物検査技師、第1種滅菌技師、認定抗酸菌エキスパート、抗菌薬臨床試験認定者、文部科学省認定統計士、フィットテストインストラクター。

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最近の記事

2010-2018年におけるノロウイルス感染による入院と死亡のリスク

はじめに ノロウイルスは比較的予後が良い感染症ですが、感染者の中には重症化し、死亡する例も報告されています。しかし、その割合やリスクについて疫学的な評価を行った報告はあまりありません。今回ご紹介する論文は、米国の退役軍人病院を受診したノロウイルス感染症患者のデータをもとに、ノロウイルスによる感染が入院および死亡率に及ぼす影響を推定しています。 経緯と方法 2010年1月1日から2018年12月31日の間に、退役軍人病院(米国に多数存在し、データが一括管理されているため、疫

    • 医療従事者へのMPOXウイルスの院内感染-新たな職業上の危険性-症例報告と文献のレビュー

      要旨 皮膚科の研修医がMPOX (monkeypox)ウイルス感染者の診察後にMPOX感染症(サル痘)を発症した珍しい症例を報告します。ウイルスのDNA配列の解析により、最も可能性の高い接触者を特定することができました。この症例は、これまでに報告されたすべての症例をもとに、個人防護具(PPE)を装着していても医療従事者にMPOXが感染する危険性があることを支持するものです。また、新たな皮膚病変を有する患者を診察する際には、強く疑うことを意識し続け、そのような患者からの検体採取

      • 集中治療室における気管支鏡検査に伴う水痘・帯状疱疹ウイルスの擬似集団感染

        はじめに 軟性気管支鏡(以下、気管支鏡)は、気管支や肺胞の検査、肺の浸出液吸引のために急性期病院では広く利用されています。気管内にも微生物が常在しているため、気管支鏡の再生処理が拙い場合は、気管支鏡を原因としたアウトブレイクが発生する可能性があります。 今回ご紹介する論文は、集中治療室(ICU)において、気管支鏡の洗浄・消毒不良が原因と推定された播種性水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による擬似集団感染事例です。 経緯と方法 33歳の男性が播種性VZV感染症のためICUに入

        • 数日間入院した患者におけるサル痘発症:曝露された医療従事者の感染リスク評価

          はじめに 2022年に流行が確認されたサル痘は、2022年1月1日から10月30日までで、109の国・地域から77,264人の累積感染者数と、36人の累積死亡者数を記録しました(WHO発表)。サル痘は天然痘に似た皮膚病変が特徴的ですが、感染者の中には皮膚病変がほとんどない非典型的な症例もあります。このため、診断が遅れ医療従事者への曝露リスクが高まる可能性があり、現に医療従事者への感染例も報告されています。 今回ご紹介する論文は、サル痘の診断が遅れた入院患者に適切な個人防護具(

        2010-2018年におけるノロウイルス感染による入院と死亡のリスク

        • 医療従事者へのMPOXウイルスの院内感染-新たな職業上の危険性-症例報告と文献のレビュー

        • 集中治療室における気管支鏡検査に伴う水痘・帯状疱疹ウイルスの擬似集団感染

        • 数日間入院した患者におけるサル痘発症:曝露された医療従事者の感染リスク評価

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        • 手指衛生
          4本
        • シンク
          1本
        • 空気清浄機
          1本
        • COVID-19
          1本
        • 隔離
          1本
        • 清掃
          1本

        記事

          中間報告における抗酸菌喀痰塗抹鏡検代替としてのXpert(エクスパート)

          はじめに 抗酸菌喀痰塗抹鏡検は100年以上前に医療現場に導入され、以来、活動性肺結核の診断に使用されています。しかし、この検査は感度が低く、結核菌と非結核性抗酸菌を区別できないため特異度も低いことが課題です。Xpertなどの分子検査は、臨床検体中の結核菌を迅速かつ正確に検出する能力に優れており、塗抹鏡検に代わる有用な方法として注目されています。この論文では、抗酸菌感染症が疑われる患者におけるXpert検査と塗抹鏡検の診断性能を比較しています。 方法 肺結核が疑われる2,9

          中間報告における抗酸菌喀痰塗抹鏡検代替としてのXpert(エクスパート)

          人工知能を用いた整形外科手術部位感染サーベイランスの作業負荷の軽減

          はじめに 手術部位感染(SSI)サーベイランスは、手術に関連する感染症を抑制させるために米国CDCが提唱した感染対策の取り組みです。日本ではJANISの集計によると約800の医療機関がSSIサーベイランスに参加しています。SSIサーベイランスは他のターゲットサーベイランスと比べて、判定が画一的でないため、手術を受けた患者一人ひとりのデータを確認する必要があり、労力を要します。 近年、急速に発展しているAIは、医療業界にも進出しており、サーベイランスへの活用も期待されています。

          人工知能を用いた整形外科手術部位感染サーベイランスの作業負荷の軽減

          ディスポーザブルガウンの物理的性能評価

          はじめに COVID-19パンデミックは、医療従事者や患者を感染から保護するための個人防護具としてのガウンの必要性を浮き彫りにしました。厚生労働省はガウン枯渇による苦い経験を踏まえて、ガウンなどを備蓄する政策を感染症法に盛り込み、多くの医療機関では約2年分のガウンなどを備蓄しなければならなくなり、厚生労働省も数年分のガウンを備蓄しています。備蓄に関しては耐久性の強いガウンを選択しないと、使い物になりません。 ガウンの耐久性を評価する世界的な標準は現在のところなく、各国独自の耐

          ディスポーザブルガウンの物理的性能評価

          完全拡大防止に寄与するフェイスマスクのフィット性の改善

          はじめに SARS-CoV-2は主に感染者の呼吸器から発せられるエアロゾルによって感染します(2024年8月時点で、今後エアロゾルという単語ではなく、感染性呼吸器粒子; IRPという単語が主流になりそうです)。エアロゾルの飛散や吸入防止にはフェイスマスクが有効ですが、いわゆるサージカルマスク(医療用マスク)ではエアロゾル防止効果があまり高くありません。米国CDCは2021年2月に既存製品を工夫することによって、フェイスマスクのエアロゾル予防効果の改善を実験的に示しました。今回

          完全拡大防止に寄与するフェイスマスクのフィット性の改善

          95レスピレータvsサージカルマスク!! インフルエンザ予防効果比較

          はじめに N95レスピレータとサージカルマスクにおけるインフルエンザの予防効果については、小規模なstudyはあるものの明確な結論は出ていませんでした。今回ご紹介する論文は、米国疾病予防管理センター(CDC)が、米国の7医療センター・137外来部門で実施したクラスター無作為化プラグマティック効果比較試験によるN95レスピレータとサージカルマスクにおけるインフルエンザ等の予防効果を比較したものです。 ※ クラスター無作為化プラグマティック効果比較試験は、比較対照試験の一つの

          95レスピレータvsサージカルマスク!! インフルエンザ予防効果比較

          個人防護具の取り外し時の自己汚染リスク

          はじめに 個人防護具(personal protective equipment; PPE)は、標準予防策や接触予防策を実施する上で、必要不可欠な道具として多くの医療施設で使用されています。しかし、取り外し時に自己汚染するとの報告があり、特にエボラウイルス病など、致死率の高い感染症患者をケアする際には十分な注意が必要です。日本ではエボラウイルス病などの発生確率は低いですが、米国ではすでにエボラウイルス病の持ち込み例が散見されており、患者をケアする医療従事者にとってはPPEの取

          個人防護具の取り外し時の自己汚染リスク

          アシネトバクター・バウマニおよび緑膿菌による院内アウトブレイクのシステマティックレビュー

          はじめに Acinetobacter baumannii(アシネトバクター・バウマニ)やPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は、環境に常在する細菌です。前者は乾燥に強く駆除するのが難しく、後者は水回りに生息し、シンクからの水はねや石けんボトルの使いまわしなどで院内感染のアウトブレイクを起こしやすい細菌とされています。今回ご紹介する論文は、アシネトバクター属菌とシュードモナス属菌のアウトブレイクの特徴を比較した文献でAJICに掲載されたものです。 方法 O

          アシネトバクター・バウマニおよび緑膿菌による院内アウトブレイクのシステマティックレビュー

          日本の小中学生におけるインフル予防接種の有効性

          はじめに インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防や発症後の重症化の軽減、集団免疫による感染率の低下に一定の効果があるとされています。学童はインフルエンザの感染率が高く、ワクチンによる予防が期待されます。今回、東北大学の國吉保孝氏らが、地域の小中学生における不活化インフルエンザワクチン接種の有効性について2シーズンに渡って評価した結果が報告されたので、ご紹介いたします。 方法 研究グループは、公立小中学校の生徒における2012/13年および2014/15年

          日本の小中学生におけるインフル予防接種の有効性

          米国の病院における医療従事者へのインフルエンザワクチン接種義務化の傾向

          はじめに 日本ではインフルエンザワクチンを義務化している病院がどのくらいあるのか不明です。米国も同様でしたが、その疑問に答えるべく、全米におけるワクチン接種義務の状況を調査した結果が、米国医師会雑誌(JAMA)に掲載されました。日本でもそうですが、米国でも医療従事者にはインフルエンザのワクチン接種が勧奨されています。病院には感染弱者が多数来訪するため、医療従事者からのインフルエンザ感染を防ぐ意味で、医療従事者へのワクチン接種は非常に重要です。 ワクチンは接種しないことには、そ

          米国の病院における医療従事者へのインフルエンザワクチン接種義務化の傾向

          手袋着用が必要な同一患者ケア中の手袋の上からの消毒

          はじめに 手袋を着用したまま手指消毒(手袋消毒)することはタブーとされています。しかし、SDGsの観点から、手袋の安易な使い捨てに対して、リサイクルが可能かを模索する企業も散見されつつあります。また、救急医療の現場では同一患者のケア中に、ある局所から別な局所へケアの中心を移動する際などに、手袋消毒するとケアの時短に繋がります。 今回ご紹介する論文は2017年に発表された、同一患者に対してのケア中における手袋消毒が、感染リスクとなるかを評価したドイツからのシステマチックレビュー

          手袋着用が必要な同一患者ケア中の手袋の上からの消毒

          医療従事者における手指衛生の有効性比較 最新のシステマティックレビュー

          はじめに 世界保健機関(WHO)は、手洗いならびに手指消毒の方法として、6ステップ法を提唱しています(図の2-7)。この6ステップ法による手指衛生は手指表面の微生物低減にどの程度有効か明確ではありませんでした。 今回ご紹介する論文は、WHOが英国の研究センターに委託し、6ステップ法の有効性を他の手指衛生方法と比較・検証したレビューです。 方法 Medline、CINAHL、ProQuest、Web of Science、Mednar、および Google Scholar

          医療従事者における手指衛生の有効性比較 最新のシステマティックレビュー

          手指衛生遵守率:事実か、虚構か?

          はじめに オーストラリアでは国の施策として、公立病院に対して直接観察法による手指衛生の遵守率を公表することを求めています。直接観察法はホーソン効果の影響があるといわれていますが、その度合いはこれまで明確になっていません。今回ご紹介する論文は、直接観察法による手指衛生のホーソン効果の度合いを明らかにすることと、直接観察法による手指衛生遵守率と、同時に実施した自動観察法による遵守率を比較し、その効果的な運用方法について言及しています。 方法 オーストラリアの大規模な3次教

          手指衛生遵守率:事実か、虚構か?