2010-2018年におけるノロウイルス感染による入院と死亡のリスク

はじめに
ノロウイルスは比較的予後が良い感染症ですが、感染者の中には重症化し、死亡する例も報告されています。しかし、その割合やリスクについて疫学的な評価を行った報告はあまりありません。今回ご紹介する論文は、米国の退役軍人病院を受診したノロウイルス感染症患者のデータをもとに、ノロウイルスによる感染が入院および死亡率に及ぼす影響を推定しています。
 
経緯と方法
2010年1月1日から2018年12月31日の間に、退役軍人病院(米国に多数存在し、データが一括管理されているため、疫学情報ソースとしてよく利用されている)でノロウイルス検査を受けた成人の電子カルテデータを用いてコホート解析を行いました。入院および死亡の調整リスク比(aRR)を、年齢、Clostridioides difficile、基礎疾患、および高齢者施設居住を調整した対数二項回帰モデルを用いて推定しました。
 
結果
合計23,196人の25,668便検体を検査しました。うち陽性は2,156検体(8.4%)でした。ノロウイルス陽性患者は陰性患者と比較して、入院リスクがわずかに上昇し(aRR、1.13[95%信頼区間、1.06-1.21])、ノロウイルス検査後3日以内の死亡リスクが有意に上昇しました(2.14[1.10-4.14])。1週間以内と1か月以内の死亡率aRRは、それぞれ1.40(95%信頼区間、0.84-2.34)と0.97(0.70-1.35)に減少しました。

図1 ノロウイルス陽性患者と陰性患者との比較による粗累積死亡リスク

考察
複数の合併症を有する高齢退役軍人は、ノロウイルス検査陽性後3日間の入院リスクが陰性者と比較してわずかに上昇し、死亡リスクが有意に上昇しました。臨床医はこれらのリスクを認識すべきであり、ノロウイルスに罹患した退役軍人の臨床管理にこれらのデータを用いることができます。
 
感想
要旨には掲載されていませんでしたが、今回の研究対象となった退役軍人は、85%以上が45歳以上で、比較的高齢者が多いデータであることに留意する必要があります。ノロウイルス感染症の場合、小児が死亡することはほぼなく、高齢者が死亡のリスクファクターです。これまでは発症後、何日以内が死亡に対して高リスクか不明でしたが、今回の調査で高齢者の場合、3日以内に急性な転帰をたどることが判明しました。
死亡の原因としては、2次感染による敗血症や急性腎不全などが多いですが、これらの症状は高齢者に起こり得るため、ノロウイルス感染が死亡のきっかけとなった可能性が高いです。新型コロナウイルス感染症も同様ですが、感染症は寿命を早める可能性が高いということでしょう。

Risk of Hospitalization and Mortality Following Medically Attended Norovirus Infection—Veterans Health Administration, 2010–2018.
(Open Forum Infect Dis. 2023 Nov 7;10(11):ofad556. doi: 10.1093/ofid/ofad556.)


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