パンデミック下の供給不足におけるN95レスピレーター供給を維持するための戦略
はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期段階においては、世界各国で個人防護具(PPE)の供給不足に陥りました。特にN95レスピレーター(N95)は、その生産会社が集う米国でも深刻な不足となりました。急場を凌ぐために、各医療施設は地域社会からN95の寄付を募りましたが、様々なタイプ、サイズ、状態、数量のN95が殺到したため、選別の必要性に迫られました。
今回ご紹介する論文は、寄付されたN95をどのようにして選別し、効果的なものだけを臨床現場で使用したかについて回顧した米国960床の病院からの報告です。
方法
寄贈されたN95は71タイプからなる360,000個で、その量はタイプごとに数十個から数万個でした。当院で実施した選別方法を図に示します。
結果
十分な供給量(1,000個以上)のN95は合計24タイプとなり、それらを評価しました。このうち14モデル(58%)は、NIOSHのフィットテストによるろ過効果、または定量的フィットテスターによるフィットテストの結果、理想的でないと判断されました。最終的に7タイプのN95を臨床現場に供給しました。
考察
当院では寄贈されたN95の受領、選別、評価を持続可能な方法で行い、供給不足を補うために効果的なN95の安定供給を確保することができました。N95の性能を担保、判断するための定量的フィットテストや、新しいタイプのレスピレーターを使用する際のシールチェックの重要性を強調することは、重要な構成要素の一部でした。N95を選別する当院の取り組みは、大規模な病院で世界的なN95不足が発生した際の効率的かつ効果的な戦略でした。
感想
COVID-19パンデミック当初、当院でもN95の寄贈や、やや性能が拙い製品の購入があり、全部で12タイプのN95を在庫しました。その中では、寄贈されたものに不具合が多く、やや低性能なN95は主力製品としての供給は困難でした。よって、当院では国産メーカーのフィット性高い製品のリユースで急場を凌ぎました。
今回の報告のように大量に寄贈された場合は、本文のような対応が必要になるでしょう。国産メーカーはパンデミック中に国からの要請もあり増産に踏み切りましたが、次なるパンデミックの際にはどうなるか未知数な部分もあります。国や自治体では2ヶ月分のPPEの在庫を進めていますが、中にはフィット性の悪いN95も含まれており、本文のようなプロトコルを用いて、供給する側が選別し、在庫を進める必要性があります。また、供給される側の医療施設でも、このプロトコルを理解し、活用できる体制を構築しておく必要性があります。
小職は厚生労働省が進めるPPE在庫のアドバイザーを務めており、この論文の内容はぜひにも共有したいと考えています。
Strategies to maintain an N95 respirator supply during a pandemic supply-chain shortage
(Infect Control Hosp Epidemiol. 2024 May;45(5):688-689. doi: 10.1017/ice.2023.252.)