急性期医療施設における呼吸器ウイルスの発生率とクラスター関与:観察研究
はじめに
呼吸器ウイルスは病原性や伝染性だけでなく、宿主の状態により、感染性が異なります。また、そのようなウイルスが院内でクラスター化するかどうかは、ウイルスごとの特異的な感染機序によっても様々だと推察されます。
今回ご紹介する論文は、米国の2つの急性期病院において、3シーズン(2017–2020年)に渡ってデータを収集し、発生率やクラスターへの関与についてまとめた報告です。
方法
調査期間中、呼吸器ウイルス検査は医療者の判断で指示され、検査結果が出るまで飛沫および接触予防策が現場の判断で実施されました。検査にはRVPアッセイとRapid Flu/RSVアッセイを用い、インフルエンザなど複数のウイルスを検出しました。
結果
3シーズンで16,273検体が収集され、陽性率は20.9%–28.1%でした。ライノウイルス/エンテロウイルスが最も多く検出されましたが、院内感染と推測された原因ウイルスはアデノウイルスが最多でした。176の呼吸器ウイルスクラスターが発生し、1つのクラスターにおける感染者数は2–8例(中央値2例)でした。感度分析では総数が25%増減する可能性がありました。クラスターの39.8%がライノウイルス/エンテロウイルスで、35.2%がインフルエンザでした。
考察
検査陽性患者の17.9%がクラスターに関連し、インフルエンザ患者がクラスターに関与する割合が最も高いか傾向を示しました(32.0%)。免疫不全患者のクラスターも19.9%を占め、主にライノウイルス/エンテロウイルスが原因でした。本研究ではかなりの割合のクラスターが日常的なサーベイランスでは検出されなかった可能性があります。リアルタイムでクラスターを検出する自動化の導入が、検出率改善に役立つでしょう。
感想
この研究に使われた呼吸器ウイルスの検出機器は、いわゆるマルチプレックスで、呼吸器感染を引き起こすウイルスを網羅的に1回の検査で検出できます。日本にも同様な機器が上市され、保険収載されていますが、検出機器本体が高価なこともあり、普及していません。また、検出されたとしても治療法がない感染症も多いことも、導入の遅れの原因でしょう。
感染対策の視点でみれば、治療法がなくとも、クラスターを起こしている原因ウイルスを明確にすることで、この研究結果から導き出されるように、原因ウイルスによって対応を厳しくしたり、緩和したりすることができるため、マルチプレックス検出機器の導入は非常に有用です。
現在の日本では、入院患者が呼吸器感染症を発症しても、新型コロナウイルスか、流行期にはインフルエンザウイルスの検査をするに留まります。その2つの検査が陰性であれば、厳格な対策は施行されない傾向にあります。ライノウイルスやエンテロウイルスは患者が重症化することは稀ですが、ADLに影響を与える可能性はあり、RSウイルスに至っては、重症化の懸念もあるため、本来であれば網羅的な原因ウイルスの究明は必要不可欠な行為といえます。
日本の多くの施設にマルチプレックス検出機器が導入されること期待します。
Incidence and transmission associated with respiratory viruses in an acute care facility: An observational study.
(Infect Control Hosp Epidemiol. 2024 Jun;45(6):774-776. doi: 10.1017/ice.2024.25.)
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