トイレタンクからのレジオネラ防止対策

はじめに
レジオネラは水環境に生息し、ときに病院の水道を介してアウトブレイクを引き起こすことがあります。特に免疫不全患者は重症レジオネラ感染症のリスクが高いため、近年では血液内科病棟などのシャワーヘッドをフィルター付きに変更している施設も見られます。
今回ご紹介する論文は、トイレ洗浄用貯水槽(タンク)由来のレジオネラ患者死亡例を発端としたアウトブレイク調査結果と、トイレタンクにおけるレジオネラ防止対策の提案をまとめたドイツからの報告です。
 
方法
レジオネラ選択寒天培地を用いた定量的細菌培養により、建物の温水および冷水システムにおけるレジオネラ属菌の増殖をモニタリングしました。感染患者と給水システムから分離された L. pneumophila の分子型別(遺伝子型別と同義)は、コアゲノムマルチローカス配列型別(cgMLST)を用いました(複数の遺伝子領域の変異をパターン化して菌をタイピングする方法)。
 
結果
病院建物の冷水システムにおけるレジオネラ汚染は温水システムよりも有意に高く、トイレタンクの水では浴室の水道やシャワーからの冷水と比較して有意に高くなりました。患者の分離株とトイレタンクからの分離株は、cgMLSTによって同一であると確認されました。対策として 21 日間毎日トイレを洗浄した結果、トイレタンク水中のレジオネラ属菌の増殖が 67% 減少しました。さらにタンクを過酢酸で 1 回消毒し、その後毎日洗浄すると、これらの環境では少なくとも 7 週間にわたってレジオネラ属菌の増殖が 1% 未満に減少しました。

図 トイレタンクからのレジオネラ属菌検出状況とトイレ洗浄などの対策を実施した時系列。箱ひげ図は中央50%を示し、ボックス内の水平線、下ひげ、上ひげはそれぞれ中央値、最小値、最大値を示す。

考察
高い汚染度のトイレタンクを過酢酸による 1 回限りの消毒と、短期的対策としての毎日のトイレ洗浄により、トイレタンクのレジオネラ汚染を大幅に減少させることができます。これらの対策は、免疫不全患者のレジオネラ感染予防に役立つ可能性があります。
 
感想
レジオネラは、1976 年にフィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人の200年祭で、参加者を中心に肺炎患者の集団発生が起こったことを契機に初めて発見された細菌です。発見から 50 年も経過していませんが、水を介した様々なシチュエーションでアウトブレイクが発生し、問題となっています。
感染経路は主に環境由来のエアロゾル中にレジオネラが潜み、それを呼吸によって吸入することでレジオネラが呼吸器に付着し感染が成立します。自然界のあらゆる淡水に潜んでいて、エアロゾル化して空気中にも舞っているため、汚染経路が理解し難い病院の水道水や、トイレタンクなどにも潜在しています。
レジオネラの対策としては、エアロゾルを発生させないことが重要ですが、シャワーやトイレを流した際にもエアロゾルが発生するため、その防御は事実上難しくなります。ただ、レジオネラのエアロゾルを吸入しても、すべての人が発症するわけではなく、吸入する菌量にもよりますが、免疫不全者などはより高リスクとなります。
よって、今回の報告のようにレジオネラはあらゆる水中に存在するものとして、免疫不全患者が入院している病棟などでは、毎日のトイレ清掃、消毒が有効な対策となるでしょう。トイレタンク内に固形の消毒剤を週に1回程度放り込むような製品があると、血液内科病棟や移植病棟などでの需要が望める可能性が高いでしょう。

Prevention of Legionella infections from toilet flushing cisterns.
(J Hosp Infect. 2024 Apr:146:37-43. doi: 10.1016/j.jhin.2023.12.016.)

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