医療従事者へのMPOXウイルスの院内感染-新たな職業上の危険性-症例報告と文献のレビュー

要旨
皮膚科の研修医がMPOX (monkeypox)ウイルス感染者の診察後にMPOX感染症(サル痘)を発症した珍しい症例を報告します。ウイルスのDNA配列の解析により、最も可能性の高い接触者を特定することができました。この症例は、これまでに報告されたすべての症例をもとに、個人防護具(PPE)を装着していても医療従事者にMPOXが感染する危険性があることを支持するものです。また、新たな皮膚病変を有する患者を診察する際には、強く疑うことを意識し続け、そのような患者からの検体採取に関する米国疾病対策予防センター(CDC)の感染対策における改訂勧告を厳守する必要性があります。
 
症例
大規模な三次病院に勤務する37歳の健康な異性愛者の男性皮膚科レジデントが、左人差し指の先に小さな痛みを伴う水疱があることに気付きました。後の検査でMPOX感染症と診断されました(図)。

このレジデントは後にMPOX感染症と判明した男性の診察と皮膚病変の検体を採取していました。その際の状況は、(1) 検査または検体採取時に手袋と皮膚の両方を貫通する軽微な外傷を認めた。(2) 使い捨てガウン、手袋、N95マスク、アイウェア(おそらくゴーグル)を使用したが、フェイスシールドを着用しておらず、ガウンが浸透しているケースもあった。。(3) 検体を研究室に移送するプロセスにも、環境汚染につながった可能性のある違反があった。(4) 未診断の他のMPOX罹患患者への曝露も推定される。

考察
近年のMPOXアウトブレイクに関する最近のレビューでは、院内感染は6例報告されています。すべての場合において、最初の病変はおそらくウイルスに曝露した手指に現れています。感染経路は主に、鋭利な器具を使用して患者のかさぶた除去し、検体を採取した後、使用した器具で皮膚を損傷したことに関連していました。
MPOX感染症の患者をケアするときにPPEを適正に使用すると、ほとんどの場合、感染を予防できます。CDCは2022年にMPOX検体の採取に関する推奨事項を改訂しました。改訂ではスワブによって検体を採取する前に、病変のかさぶたを取り除くことは不要であり、医療従事者への感染リスクを減らすために避けるべきであるとアドバイスしています。
 
感想
MPOXウイルスはオルソポックスウイルス属に属し、同科の天然痘ウイルスに酷似しています。ヒトには天然痘ウイルスよりもマイルドな症状を呈し、感染経路は主に飛沫感染や接触感染であり、天然痘ウイルスと類似しています。飛沫・接触感染とも、ウイルスが粘膜に曝露されない限り感染は起きません。今回の症例でもMPOXウイルスの付着した医療器具を「針刺し」によってウイルスが粘膜に曝露したことが主な原因と推察されます。
近年の世界的なMPOXウイルスによる院内感染でも、「針刺し」が主な感染経路とされています。しかし、正常な皮膚(手指)についたMPOXウイルスは、手指衛生が不十分な場合、手指を介して目や口などの粘膜に曝露する可能性があり、接触予防策としてPPEを着用することは重要です。ただし、PPEは適正に着用しないと粘膜や皮膚への曝露が発生するため、着用に関する教育・啓発が必要です。

Nosocomial transmission of mpox virus to healthcare workers –an emerging occupational hazard - a case report and review of the literature.
(Am J Infect Control. 2023 Sep;51(9):1072-1076. doi: 10.1016/j.ajic.2023.01.006.)

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