マガジンのカバー画像

空想お散歩紀行 物語の道

1,152
空想の世界の日常を自由に描いています。
運営しているクリエイター

2022年1月の記事一覧

空想お散歩紀行 メモリートラブル

空想お散歩紀行 メモリートラブル

「裏切り者ーーーッ!!!」
「ち、違うんだ!こ、これは・・・ッ」
いつの世も古今東西かかわらず、人と人とは争いを繰り返す。
それは非常に小さいものから非常に大きいものまで様々だ。
だが、今ここで起こっている争いは正確に言えば人と人のものではない。
「しらばっくれても無駄よ!全部分かってるんだから!」
「い、いや、だからそれは」
一組の夫婦がいる。争いの内容は、これまたいつの時代にもある浮気疑惑だ。

もっとみる
空想お散歩紀行 静かなる場所を求めて

空想お散歩紀行 静かなる場所を求めて

こんなはずでは。
男はいつもそう思っていた。
先程から、自分とすれ違う人たちが皆一様に振り返っている。
見なくても分かる。相手の視線が自分の背中に当たっていることに。
男は静けさを求めていた。
だから世界中を旅していた。どこかに自分を本当の意味で落ち着かせてくれる場所があるに違いないと信じて歩き続けていた。
世界は果てしない。そして未だに人が立ち入ったことが無い土地もある。
それには相応の理由があ

もっとみる
空想お散歩紀行 美しき多様性の社会

空想お散歩紀行 美しき多様性の社会

社会には当たり前過ぎて、もはや誰も意識しないことが多く存在する。例えば、外に出る時は服を着るというレベルのものだ。
『現在のレベルは3で設定されていますが、変更なさいますか?』
「いや、このままでいい」
部屋の中で一人呟いている男がいた。
彼の耳元から聞こえてくる声に答えている。
それは身につけているデバイスからの電子音声だ。
街に出ると、多くの人が行き交っている。子供から老人、男に女。
所属も仕

もっとみる
空想お散歩紀行 お手軽の代償

空想お散歩紀行 お手軽の代償

母なる地球の腕から人はついに飛び出した。
それを解放の喜びと見るか、独立への寂しさと見るかは人それぞれである。
ともかく、人類は宇宙へとその足を踏み出したのだ。
それから長い年月が経った。
今や、宇宙へ出ることはかつて人々が自分の国を出るくらいの感覚となっている。
私も仕事で頻繁に宇宙へと出る。
だがその心にワクワクするようなものはない。
今ではもはや過去の遺物となったが、かつてこの国では満員電車

もっとみる
空想お散歩紀行 リアリティ星5

空想お散歩紀行 リアリティ星5

森の中を走る一人の女がいた。
昼間だというのに薄暗く、足元は頼りない。
フードを目深に被った女の表情はあまり分からないが、焦りと不安がその体から出ているのは見て取れた。
女は逃げていた。だが、自分が今走っている先が安全な光の向こうか、それとも更なる闇の底か、彼女は分かっていない。
とにかく少しでも今この場所から離れたい、ただそれだけの気持ちで走っているようだった。
しかし、それは女が自ら終わりに向

もっとみる
空想お散歩紀行 試される大地

空想お散歩紀行 試される大地

北海道との通信が途絶えて早4日が経とうとしていた。
2025年、とある気象研究家が近い将来、北海道は人の住めない土地になると論文を発表した。
それは当時はまだ一部の人のみが注目するだけでほとんどの人は論文の存在すら知らなかった。
しかし、2030年頃から北海道の平均気温がどんどん下がっていくことになる。
かの土地は日本のただでさえ低い食料自給率を支えている重要拠点だ。
異常気象に対抗するため、北海

もっとみる
空想お散歩紀行 見上げればそこにいないけど

空想お散歩紀行 見上げればそこにいないけど

この街には一つの噂があった。
毎月だいたい同じくらいの日の夜、一夜だけ、とてつもない美人が街に現れるとの噂だ。
その人物の目撃情報としては、夜中だというのに、輝くような金色の髪をたなびかせ、長身でスタイルが抜群で、日本人には見えないが、だからと言ってどこの国の人かは分からない。一体どこの人なのか、昼間は何をしているのか、全てが謎に包まれているようだった。
しかしそんな見た目とは裏腹に、夜の街での彼

もっとみる
空想お散歩紀行 まぼろし系ラーメン

空想お散歩紀行 まぼろし系ラーメン

寒い日には温かい物が食べたくなる。
その代表格とも言えるのがラーメンだ。
この国ではもはや国民食とも言える。
一つ100円レベルのカップ麺から、一杯数千円の高級ラーメンまで、庶民から金持ちまでハマる料理の一つだ。
だからこそ、そんなラーメンで一山当てようという者はいくらでもいる。
ここは国内にある有名なラーメン激戦区。
毎月のように、何十件ものラーメン屋が店を閉め、新しいラーメン屋が開店する。

もっとみる
空想お散歩紀行 雪の海原

空想お散歩紀行 雪の海原

世界がシンプルに彩られている。目の前に広がるのは白と青だけ。
地平線、いや水平線と呼んだ方がいいのか、とにかく視界の奥の奥、見ることができる一番向こうまで全て雪による大地が広がっている。
ほとんど起伏が無く、まったいらなそれは雪の平原だった。
そして空には雲一つない。青と白がちょうど横一直線のラインを境に分かれている。
そしてそこはただ雪が広がっているわけではない。
この土地の地下深くにある水脈と

もっとみる
空想お散歩紀行 シェアリングクライム

空想お散歩紀行 シェアリングクライム

「何でこんな所に呼び出したんだ?」
「ここだったら他に聞かれる心配が無いからよ」
まあ、そうだよなと、男は思った。
特殊犯罪捜査課は、表向き警察の一部署でしかないが、その実、異常犯罪やサイバー犯罪など、通常の警察力では対応しきれないような案件を担当している。
そのため、構成員は少数精鋭。犯罪を阻止するために、時に警察が踏み込んではいけないようなグレーゾーンにも必要とあればためらいなく走り抜けるよう

もっとみる
空想お散歩紀行 安息の地からの追放、そして新たな出発

空想お散歩紀行 安息の地からの追放、そして新たな出発

少し離れた所から、その様子を見つめる者たちがいた。
彼らはただ見つめていた。いや、それしかできなかったのだ。その間、彼らは自分たちの無力さを感じることさえできなかった。
「・・・これで、我らの楽園に立ち入ることはできなくなった。我らは追放されたのだ」
「もはやあの壁の向こうには戻れぬ」
「一体、我々はこれからどうすればいいのだ・・・」
「・・・・・・・」
その場にいた数名の者たちは、だれもこれから

もっとみる
空想お散歩紀行 プロ風呂職人

空想お散歩紀行 プロ風呂職人

命の洗濯と呼ばれている。風呂や温泉に入ることは。
それだけ、温かい湯というのは人の心を解きほぐすのだ。
最高の裸の一瞬を。それをモットーに、どんな所へでも行き、そこに風呂を作ってしまうというサービスを始めた男がいた。
呼ばれれば馳せ参じ、その場での最良の材質を用いて風呂桶を造り、適切な湯加減と時には湯の色や香りにもこだわる徹底した風呂のプロ。
そんな彼は、災害時に被災地へ赴き無償で活動していたこと

もっとみる
空想お散歩紀行 異世界が見つかった

空想お散歩紀行 異世界が見つかった

異世界。ここではないどこか。誰もが人生の中で一度は考えたことがあるであろう。
だがそれは、夢想と呼ばれるもので、あくまで自分の頭の中か、誰かが作った物語の中にしかないものと思われていた。
しかし、この度歴史が大きく揺らぐこととなる。
とある博士が、この世界とは別の世界の観測に成功したのだ。
その本人が会見を開くということで、会場には多くの人が詰めかけていた。
彼と同じ研究者、報道関係者、政治家から

もっとみる
空想お散歩紀行 続く世界

空想お散歩紀行 続く世界

「お?久しぶりだね」
そいつはいつもと変わらない微笑で声を掛けてくる。これ以外の表情を俺は見たことがない。
だが、確かに言われてみればここに来るのは久しぶりだ。
床も壁も天井も真っ白な部屋。壁の3面には扉がついており、残った一つの壁の前にこいつの机がある。机の上には数枚の書類と、いつも湯気を立てている紅茶のカップが一つ。
常に椅子に座って、立ち上がったところを見たことが無いのに、いつ淹れているんだ

もっとみる