空想お散歩紀行 続く世界
「お?久しぶりだね」
そいつはいつもと変わらない微笑で声を掛けてくる。これ以外の表情を俺は見たことがない。
だが、確かに言われてみればここに来るのは久しぶりだ。
床も壁も天井も真っ白な部屋。壁の3面には扉がついており、残った一つの壁の前にこいつの机がある。机の上には数枚の書類と、いつも湯気を立てている紅茶のカップが一つ。
常に椅子に座って、立ち上がったところを見たことが無いのに、いつ淹れているんだか。
「どうだった?今回の仕事は?」
全く変わらない表情で質問をしてくる。本当に興味があるのか、単なる社交辞令なのかも読み取れない。
「ここに来るってことは、次は遠い世界のようだね」
その通りだ。俺の仕事は世界の観測。毎日のように世界は産まれ、そして消えていく。
それらを記録して残すことが俺の役割だ。
最近は比較的近場の世界同士で行き来していた。
でも次にいく世界はけっこう遠いところにある。
この白い部屋は、全ての世界の場所と時間から、近すぎず、遠すぎない所に位置している。
だからここを経由することがたまにある。
「最近、おもしろい世界はあった?」
仕事でやっていることだから、あまりおもしろいとかつまらないとかで世界を見たりすることは無い。
魔法がある世界、科学が超発達している世界。化け物が人間を支配している世界。人間が一人だけいて他は存在しない世界。
千差万別だ。似たような世界はいくつでもあるが、全く同じ世界は見たことが無い。
「次はどんなとこに行くの?」
次に行くのは、大陸が全て海に沈み、飛行機械で空を漂いながら人が生活している世界だ。
ちょっとばかり珍しいが、似たようなのは今までも見てきたし、これからも見るだろう。
「じゃ、そっちの扉から行くのが近道だよ」
言われるがまま俺はその扉に近づき、ノブを回す。
結局、また最後までこいつの表情は変わらなかったな。
「いってらっしゃい」
その言葉を背中で聞きながら、俺は扉の中に入った。
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